「ボール遊び禁止」「花火禁止」「自転車禁止」。私たちが子どもだった頃と比べると、全国の公園では “禁止事項”が増え、子どもの遊び場としてはやや窮屈な場所になりつつあります。そんな中、杉並区は7月から試行している「新しい公園のルール」が注目を集めています。
例えばこれまでは区に申請した場合を除き全面禁止だった花火も、手持ち花火なら申請なしで行えるようになるなど、多くの禁止事項が緩和されました。新しいルールの試行に込められた思いや願いについて、杉並区みどり公園課の大場将国さんにお話を聞きました。
◆SNSを中心に「新しい公園のルール」が急速に広まった
――これまでと大きく内容を変えた「新しい公園のルール」ですが、施行にあたって工夫されたことはありますか?
大場将国さん(以下、大場)「ルールが変わる際には、利用者にきちんと伝えることが重要です。どうしたら新しいルールが伝わるかを考え、広報やホームページなどで告知をしました。
ただ、公園利用者の方に『どうやって公園のルールを知りますか?』とアンケートを取ったところ、現場(公園)で知るという回答が9割くらいだったんです。公園のルールは公園で知る。まずは公園にルールを貼るのが一番認知されるということで、各公園にルールを掲示しました。
あわせて、ホームページやSNSでも利用者に伝わるようにルールの告知をしました。SNSで発信したことで、リポストで多くの方に読んでいただけました。区内在住の著名な方がつぶやいてくださったことで、SNSを中心に内容が急速に広まりました。その結果、メディアでも『新しい公園のルール』が取り上げられて、区民の方に広く知っていただく良い循環が生まれました」
◆“自分と異なる立場の人”について考えるきっかけに
――「新しい公園のルール」を作るうえで大事にされた思いはありますか?
大場「子どもの居場所として、利用しやすい公園にしたいという思いが強くありました。
それと同時に、この新しいルールをきっかけに、利用者の皆さんに『なぜ今まで公園に禁止事項が多かったのか』『やりたいことがなぜできなかったのか』ということを考えていただきたいという思いがあります。
区のホームページでは、公園利用者から届いた声も紹介しています。これらの声を見ていただくことで、利用者や近隣の方はどう感じているのかを、さまざまな立場から考える機会になるかと思います。花火やボール遊びも、『ルールでOKになったから自由に楽しんでいい』ではなく、『花火はできるけれど、周囲に住宅があるから、少し気をつけて楽しもう』という譲り合いの気持ちを持っていただきたいです。
逆に、公園の近隣にお住まいの方にとっては、子どもの声がうるさく感じられるかもしれません。でも、それだけ子どもの遊ぶ場所がなくなってきている、という現実にも気づいていただきたいです。『公園を利用する際は譲り合いましょう』という言葉を耳にしたことがあると思います。でも、実際にこの言葉の意味を深く考える機会というのはなかなかないので、新しい公園のルールの試行を機に考えていただければと思います」
◆利用者たちが、利用しやすい公園に育てていく
――今後、公園事業で新しく取り組みたいことがあれば教えてください。
大場「『新しい公園のルール』は現在、試行段階です。採用ではなく試行としているのは、その先を見据えてのことです。新しいルールを通じて、公園がみなさんにとって居心地の良い場所になれば、自然と行きつけの公園ができますよね。すると、自分たちでもっと公園を快適にしようという思いも生まれるはずです。
現在も、掃除をしたりお花を植えたりとボランティアで活動してくださる方々はいます。利用者が自発的になることで、さらに利用しやすい公園に育てていくことができます。杉並区内にはおよそ350箇所の公園があるのですが、決められた職員ですべての公園をきめ細かく運営していくのは、現実的に限界があります。ですので、利用者にも入っていただいて、自分たちで使いやすい公共の場にしていただきたいです」
◆家庭や学校、職場とは異なる“第三の居場所”にも
――自分たちの手で快適な公園に育てていくというのはすてきな発想ですね。
大場「公園はさまざまな年代の方が集まる場所です。子育て世代とひと言で言っても、よちよち歩きの子を持つ保護者もいれば、小学生の子を持つ保護者もいます。
公園での交流の機会が増えれば、世代を超えたコミュニティもでき、家庭や学校、職場とは異なる居場所ができます。そうすれば、みなさんで新しい活動を行うこともできますよね。そのためのステップの一つとして、現在試行中である『新しい公園のルール』をまずは本採用することが大事かなと考えています」
◆公園をめぐる、子育て世帯と高齢者の“対立”にストップを
――利用者にとっても、活動の場所が増えていきますね。
大場「そのためにはいろんな手段があると思います。杉並区が今行っていることが正解というわけではないので、そこは試行錯誤しながらすすめていきたいです。
また、SNSで公園での禁止事項が話題になると、“高齢者が子どもにルールを強要しているという”ニュアンスで反応されることが多々あります。実際、新しい公園のルールを試行した際、私たちのところにも『高齢者ではなく、子どもの立場になって考えてくれてありがとう』というお声をたくさんいただきました。
こういった声はもちろん励みになりますが、ただ、今回私たちが新しい公園のルールで伝えたかったのは、高齢者よりも子どもを優先したという対立の話ではありません。そのことは、皆さんにご理解いただきたいです。
いずれ私たちも歳をとっていきます。生活や状況や環境が変わる中で、いろんな世代の方にとって憩いの場所になればと感じています。公園は『ちょっとした交流をもったら意外に楽しかった』『おじいちゃんと話したら、意外に盛り上がった』という、世代や状況を超えた交流ができる可能性を秘めた場所だと信じています」
◆他の自治体にとっても、ルールを見直すきっかけになれば
杉並区の新しい公園のルールは「作って終わり」ではなく、ルールをきっかけに利用者が公園を居心地の良い空間に育てていくことが最終目的だと知りました。利用者を縛るためのルールではなく、利用について考えるためのルールにしたい。そんな杉並区の思い、皆さんはどう感じたでしょうか。
現在は試行段階だという「新しい公園のルール」。他の自治体にとっても、ルールを見直すきっかけになればと、願わずにはいられません。
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB
例えばこれまでは区に申請した場合を除き全面禁止だった花火も、手持ち花火なら申請なしで行えるようになるなど、多くの禁止事項が緩和されました。新しいルールの試行に込められた思いや願いについて、杉並区みどり公園課の大場将国さんにお話を聞きました。
◆SNSを中心に「新しい公園のルール」が急速に広まった
――これまでと大きく内容を変えた「新しい公園のルール」ですが、施行にあたって工夫されたことはありますか?
大場将国さん(以下、大場)「ルールが変わる際には、利用者にきちんと伝えることが重要です。どうしたら新しいルールが伝わるかを考え、広報やホームページなどで告知をしました。
ただ、公園利用者の方に『どうやって公園のルールを知りますか?』とアンケートを取ったところ、現場(公園)で知るという回答が9割くらいだったんです。公園のルールは公園で知る。まずは公園にルールを貼るのが一番認知されるということで、各公園にルールを掲示しました。
あわせて、ホームページやSNSでも利用者に伝わるようにルールの告知をしました。SNSで発信したことで、リポストで多くの方に読んでいただけました。区内在住の著名な方がつぶやいてくださったことで、SNSを中心に内容が急速に広まりました。その結果、メディアでも『新しい公園のルール』が取り上げられて、区民の方に広く知っていただく良い循環が生まれました」
◆“自分と異なる立場の人”について考えるきっかけに
――「新しい公園のルール」を作るうえで大事にされた思いはありますか?
大場「子どもの居場所として、利用しやすい公園にしたいという思いが強くありました。
それと同時に、この新しいルールをきっかけに、利用者の皆さんに『なぜ今まで公園に禁止事項が多かったのか』『やりたいことがなぜできなかったのか』ということを考えていただきたいという思いがあります。
区のホームページでは、公園利用者から届いた声も紹介しています。これらの声を見ていただくことで、利用者や近隣の方はどう感じているのかを、さまざまな立場から考える機会になるかと思います。花火やボール遊びも、『ルールでOKになったから自由に楽しんでいい』ではなく、『花火はできるけれど、周囲に住宅があるから、少し気をつけて楽しもう』という譲り合いの気持ちを持っていただきたいです。
逆に、公園の近隣にお住まいの方にとっては、子どもの声がうるさく感じられるかもしれません。でも、それだけ子どもの遊ぶ場所がなくなってきている、という現実にも気づいていただきたいです。『公園を利用する際は譲り合いましょう』という言葉を耳にしたことがあると思います。でも、実際にこの言葉の意味を深く考える機会というのはなかなかないので、新しい公園のルールの試行を機に考えていただければと思います」
◆利用者たちが、利用しやすい公園に育てていく
――今後、公園事業で新しく取り組みたいことがあれば教えてください。
大場「『新しい公園のルール』は現在、試行段階です。採用ではなく試行としているのは、その先を見据えてのことです。新しいルールを通じて、公園がみなさんにとって居心地の良い場所になれば、自然と行きつけの公園ができますよね。すると、自分たちでもっと公園を快適にしようという思いも生まれるはずです。
現在も、掃除をしたりお花を植えたりとボランティアで活動してくださる方々はいます。利用者が自発的になることで、さらに利用しやすい公園に育てていくことができます。杉並区内にはおよそ350箇所の公園があるのですが、決められた職員ですべての公園をきめ細かく運営していくのは、現実的に限界があります。ですので、利用者にも入っていただいて、自分たちで使いやすい公共の場にしていただきたいです」
◆家庭や学校、職場とは異なる“第三の居場所”にも
――自分たちの手で快適な公園に育てていくというのはすてきな発想ですね。
大場「公園はさまざまな年代の方が集まる場所です。子育て世代とひと言で言っても、よちよち歩きの子を持つ保護者もいれば、小学生の子を持つ保護者もいます。
公園での交流の機会が増えれば、世代を超えたコミュニティもでき、家庭や学校、職場とは異なる居場所ができます。そうすれば、みなさんで新しい活動を行うこともできますよね。そのためのステップの一つとして、現在試行中である『新しい公園のルール』をまずは本採用することが大事かなと考えています」
◆公園をめぐる、子育て世帯と高齢者の“対立”にストップを
――利用者にとっても、活動の場所が増えていきますね。
大場「そのためにはいろんな手段があると思います。杉並区が今行っていることが正解というわけではないので、そこは試行錯誤しながらすすめていきたいです。
また、SNSで公園での禁止事項が話題になると、“高齢者が子どもにルールを強要しているという”ニュアンスで反応されることが多々あります。実際、新しい公園のルールを試行した際、私たちのところにも『高齢者ではなく、子どもの立場になって考えてくれてありがとう』というお声をたくさんいただきました。
こういった声はもちろん励みになりますが、ただ、今回私たちが新しい公園のルールで伝えたかったのは、高齢者よりも子どもを優先したという対立の話ではありません。そのことは、皆さんにご理解いただきたいです。
いずれ私たちも歳をとっていきます。生活や状況や環境が変わる中で、いろんな世代の方にとって憩いの場所になればと感じています。公園は『ちょっとした交流をもったら意外に楽しかった』『おじいちゃんと話したら、意外に盛り上がった』という、世代や状況を超えた交流ができる可能性を秘めた場所だと信じています」
◆他の自治体にとっても、ルールを見直すきっかけになれば
杉並区の新しい公園のルールは「作って終わり」ではなく、ルールをきっかけに利用者が公園を居心地の良い空間に育てていくことが最終目的だと知りました。利用者を縛るためのルールではなく、利用について考えるためのルールにしたい。そんな杉並区の思い、皆さんはどう感じたでしょうか。
現在は試行段階だという「新しい公園のルール」。他の自治体にとっても、ルールを見直すきっかけになればと、願わずにはいられません。
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。Twitter:@YlujuzJvzsLUwkB