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電車内で痴漢・ストーカー被害にあう車いす女性たち「誰も助けてくれなかった」:10月に読みたい記事

女子SPA! 2024年10月7日 8時46分

 車いすユーザーや、視覚に障害がある人が電車を利用する際に流れる「お客様ご案内中です。乗車完了」というアナウンス。実はこのアナウンスのせいで、痴漢やストーカー行為を受けている女性障害者たちがいます。

 NPO法人DPI日本会議が女性障害者への聞き取りをしたところ、「降車駅で待ち伏せされて家までつけられた」「下着の色を聞かれたり、卑猥なことを繰り返された」等の、卑劣かつ悪質な被害の実態が明らかに。NPO法人DPI日本会議事務局長の佐藤聡さんにお話を聞きました。(初公開日は2021年10月26日 記事は取材時の状況)

◆2、3年前からストーカー被害に悩んでいた車いす女性

佐藤聡さん(以下、佐藤)「2、3年前から、車いすの女性メンバーが『ストーカーに追いかけられている、だから駅のアナウンスをやめてほしい』と話していました。ところが自分は同じ車いすですが、男なのでそういう被害を受けたことがなかった。ほかの男性車いすユーザーも被害に遭っていなかったので、全然ピンときていなくて。

そうしたら彼女が周囲の女性たちに聴き取りをしてまとめてきました。それが今年の8月25日にDPI日本会議のホームページで公開した12件の被害事例です。それを読んで、これは駅アナウンスが問題だとよくわかりました」

 12件の事例は、本当に腹立たしいものばかり。似たような経験をした女性は少なくないのではないでしょうか。被害の事例は、以下のようなものでした。

◆可哀そうにと足をさすられた、誰も助けてくれなかった

【電車が動き出して間もなく男性が寄ってきて「品川でしょ? 送ろうか?」と何度も言われて、ずっと声を掛けられていた。やめてくださいと言っているのに周囲の人は誰も助けてくれなかった。(車いす使用者)】(2021年6月DPI日本会議調査より、以下同じ)

【地下鉄で車両内ドアのところに立っていたら「一緒に行きましょうか?」と言われ、断るのも失礼と思いそのまま行先を言って頼んだが、違うところに連れて行かれた雰囲気がしてきて、行き止まりのところだと気づいた。とりあえず慌てて行ける方に走って逃げた。(視覚障害者)】

【東京に出てきて初めての終電。ほとんどの乗客が酒臭かったのでアナウンスしないでくださいと頼んだのに、それでは乗せられないと断られたので、仕方なく乗りたくない一番後ろに乗せられた。べろんべろんに酔った男性が飛び乗ってきて、「居た! 手伝ってあげようと思って走ってきたよ。○○駅でしょ?」と言いながら可哀そうにと繰り返し足をさすられた。

「やめてください」といっても離れてくれず、私も逃げられず、大きな声をだしても周囲の人は聞こえないふりしているように感じた。とても辛く忘れたくても忘れられず今でも夢を見る。この話に触れるのはこれが最後にして前に進みたい。(車いす使用者)】

◆駅アナウンスを行うのは、関東の鉄道会社とJRだけ

 アナウンスにはいくつか種類があり、「お客様ご案内中です、乗車完了」だけのものと「お客様ご案内中です、4号車1番ドア乗車1名、降車駅新宿、乗車完了」と、乗っている場所や降車駅まで言う鉄道会社もあるそうです。降りる駅がわかると待ち伏せされ、つきまとわれることもあるのだとか。

 車いすでは振り切って逃げることも難しいでしょう、聞くだけで恐ろしいです。そもそもこの乗車アナウンスは、なんのために行うのでしょうか。

佐藤「運転手さんに『今車いすを乗せていますからドアを閉めないで下さい』『乗り終わったので閉めていいですよ』という合図のためです。でもアナウンスをしているのは主に関東の鉄道会社とJRなんです。つまりアナウンス以外の方法もあるわけで。例えば無線やカメラで安全確認を行ったり、ホームドアの上にランプをつけて、車いすの乗降中はそれを点灯させるなど、いくつかのパターンがあります。

 東京は車輌が長いので目視ができない箇所があるというのがアナウンスをする理由です。JR東日本の深澤祐二社長は、『辞める方向で検討する』と記者会見で言っていましたが、設備の問題もあり、少し時間が必要かもしれません」

◆〈障害者+女性〉は複合的に差別を受けている

 筆者の知り合いの車いすユーザの女性も、夜遅い電車に乗っていると、車いすのタイヤを蹴られて「なんでこんな時間に乗っているんだ」などと文句を言われることがあるそうです。

佐藤「そうした嫌がらせも、男性と女性で違います。男性もいろいろ差別を受けることはありますが、そういった文句は言われないです。被害に遭っている方たちは、障害者+女性ということで、複合的に差別を受けているのだと思います」

◆「どこで降りるの?」と聞かれると恐怖を感じる

 筆者が経営する合同会社ブラインドライターズは、視覚に障害のある方をメインに採用している会社ですが、そのスタッフにも意見を聞いてみました。

スタッフ1「最近、一部の鉄道会社の駅で、『視覚に障害のあるお客様の乗車や降車の際のサポートを行っています』のような案内が頻繁に流れるようになりました。私たちの存在に目を向けてくださるのは嬉しいのですが、乗降サポートが必要なのは視覚障害者だけではありませんし、かなり頻繁に流れるので恥ずかしいです」

スタッフ2「たぶん善意だとは思いつつも、近くの方から『どこで降りるんですか?』と聞かれると恐怖を感じるので、できればオープンな放送は避けてほしいのが本音です」

◆「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけるのがベスト

佐藤「乗車の際にアナウンスをやめてほしいと言うと『なら乗車させられない』と言われ、車内で被害に遭っても、誰も助けてくれない。外出するのが怖いという声が上がっています」

 DPI日本会議は、こうした事例を国交省に提出し、改善を求めています。各社問題意識を持ち、対応を検討してくれているそうです。それでも、問題の根本は乗車アナウンスではなく、それを情報源として痴漢行為や迷惑行為を行う人がいること。もっと悲しいのは、誰も助けてくれないことでしょう。

 また、弊社スタッフからは「『誘導してあげる』と言われることがあるが、知らない人だと怖い」という声が複数上がりました。その人が善意なのかは誰にもわかりませんし、意外と慣れた道なら視覚に障害があっても一人で歩ける人もいます。善意の押しつけは単なる自己満足です。「困っているときに手を差し伸べる」のが善意ですよね。手助けをしたいなら「何かお手伝いしましょうか?」と、してほしいことを聞くのがベストです。

◆東京オリパラでバリアフリー化が進んだことは救いだった

 ただ、ひとつだけ救いがあるとしたら、東京パラリンピックの開催のため、都内近郊で急激にバリアフリー化が進んだことです。エレベーターもエスカレーターもなかったJR御茶ノ水駅は、大規模な改修工事を経て生まれ変わりました。

佐藤「JR新宿駅も、以前はエレベーターが1基しかなく、どこへ向かうにも南口を利用しなければいけませんでしたが、2基になりました。車いすユーザーが乗降に介助が必要なのは、ホームと電車の間が広く空いていたり、段差があるためです。駅ホームにスロープをつけておいて、段差3センチ、隙間7センチくらいになれば、90%くらいの車いすユーザーは一人で乗り降りできるんです。今、JR山手線ではその対応が進んでいます」

 都営大江戸線はすでにスロープが全駅についていて、車いすユーザーには以前からとても評判です。一人で昇降できれば、介助もアナウンスも必要ありません。

 多くの人が安心して好きな場所へ行けるようになるには、設備のハード面、サポート側の配慮、そして差別をなくす姿勢と、迷惑行為を許さない周囲の正義感が必要そうです。

<取材・文/和久井香菜子>

【和久井香菜子】
ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「合同会社ブラインドライターズ」代表

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