餃子が良い子を作る?
こんにちは、食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、「一生モノの能力を養う食育」についてさまざまな実践法を提案しています。
子どもや家族のための食事作り、毎日おつかれさまです。どんなときも食事は必ずやってくるので、子どもの成長や食育のために、家庭での料理をおろそかにはできないと考えている人は少なくないでしょう。
しかしながら「バランス良く食べさせることが大事?」「毎日違う献立じゃないとだめなの?」「やっぱり手作りがいいの?」などと疑問がわき、考えはじめるとストレスになってしまう場合も……。
◆餃子を手作りすることが子どもに良い影響を与える?
そんなことを考えながら、ある休日の夕方に餃子を包んでいたとき、自宅に来ていた母に言われたことがありました。それは「今は市販の餃子もおいしいけれど、手作りをすることは子どもにとって良い影響になるかもしれないわよ!」という内容。
「えっ、なぜ??」と、言われた当初はその意味がまったく分かりませんでしたが、話を進めていくと深く納得することに。
確かに私や兄が念願の東京大学に合格できたことや、私が食の仕事を楽しく続けているのは、幼少期の母の料理が大きく影響していることは間違いありません。それでは具体的に母がどのようなスタンスで日々の料理に取り組んでいたかについて、その一例をご紹介させていただきたいと思います。
◆母が料理を大切にしていた大きな理由とは?
私が子育てをするようになってから、母が初めて話してくれたことがあります。それは、母が心の中で大切にしてきた料理に対するモットーについて。
「私は専業主婦だったから、仕事で頑張る姿やかっこいい姿を見せたりはできなかったけれど、料理を一生懸命取り組む姿なら、毎日のように近くで見てもらうことはできるかもって考えたの。それが実際あなたたちに伝わっていたかはわからないけれど(笑)!」という内容でした。
そう言われたとき、幼少時代の頃の自分の気持ちや感情を振り返り、ハッとしたのです。私は母のことを働いている、働いていないで判断したことは一度もありませんでした。
そして料理に楽しそうに取り組む姿、子どもたちのことを考えながら料理をしてくれている苦労や努力が垣間見えたとき、「勉強やスポーツにおいて努力と工夫は重要なのか! 私も考えながら頑張ろう!」と確信したのです。そうです、母は頑張る姿勢のお手本を、日々の料理によって見せてくれていたのです。
ひとつだけ母が誤解されないためにも、これだけはお伝えしたいのですが、母は仕事をしなくても父が稼いでくれるからという理由で仕事をしていなかったわけではありません。当時の社会環境の中で、思うような仕事ができずに引け目を感じることもあったようです。
しかしながら今でも記憶として深く刻まれているのは、料理をする姿勢を大切にしながら、笑顔で子どもたちに寄り添ってくれたエピソードばかり。母からはさまざまな工夫法を聞きましたが、ここでは私がもっとも印象的に感じた2つのスタンスについて絞ってみることに。
それは、「好きな料理と嫌いな料理をどちらも一生懸命作ってみる」というものでした。
◆母の工夫①家族が好きな料理を一つ決めて練習を重ねる母⇒餃子作りを極めよう!
私たち⇒コツを調べる、練習を重ねる、集中して取り組む姿勢を教わった
ひとつ目は、家族が大好きなメニューを徹底的にこだわるということでした。例えば餃子。中身の野菜と肉の比率や水分量、塊肉からたたいて作る工夫、調味料の塩梅、皮の食感や厚さに至るまで、レシピを調べながら何度も試行錯誤を重ねていました。「練習すればうまくなる」という考え方を、好きな食べ物で証明することには大きな説得力がありました。
また母は、大相撲の中継をテレビで見ながら餃子を包むことが多かったのですが、相撲を楽しみながら楽しそうに餃子を黙々と包み続ける姿勢は、「深刻そうな顔をして取り組むことだけが集中ではない」ということを教えてくれました。
◆母の工夫②自分は苦手でも、子どもが食べたがるメニューを真剣に作る母⇒おいしいクリームパスタやグラタンを作ろう!
私たち⇒苦手分野にチャレンジする姿勢を見せてもらったと同時に、母への感謝や信頼感が増した
そしてもう一つは、自分が苦手とするメニューでどうにか工夫して子どもたちを喜ばせることでした。母は乳製品が大の苦手でしたが、子どもはグラタンやクリームパスタが大好物。自分がほとんど食べられない中で、嫌な顔をすることは一度もなく、子どもたちに味見を任せながら頻繁に食卓に出してくれました。
苦手を克服するためにはどうしたらいいのか? ということを考えさせられるとともに、母に対する無二の信頼や感謝が芽生えたことは、今の親子関係にもつながっています。
母の料理には子育てのヒントがたくさん隠れていました。そしてこのような経験を通して実感するのは、料理には大切なコトを伝えられる力があるということ。記事をご覧になったみなさまにとって少しでもヒントになればうれしく思います。
<文/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12
こんにちは、食文化研究家のスギアカツキです。『食は人生を幸せにする』をモットーに、「一生モノの能力を養う食育」についてさまざまな実践法を提案しています。
子どもや家族のための食事作り、毎日おつかれさまです。どんなときも食事は必ずやってくるので、子どもの成長や食育のために、家庭での料理をおろそかにはできないと考えている人は少なくないでしょう。
しかしながら「バランス良く食べさせることが大事?」「毎日違う献立じゃないとだめなの?」「やっぱり手作りがいいの?」などと疑問がわき、考えはじめるとストレスになってしまう場合も……。
◆餃子を手作りすることが子どもに良い影響を与える?
そんなことを考えながら、ある休日の夕方に餃子を包んでいたとき、自宅に来ていた母に言われたことがありました。それは「今は市販の餃子もおいしいけれど、手作りをすることは子どもにとって良い影響になるかもしれないわよ!」という内容。
「えっ、なぜ??」と、言われた当初はその意味がまったく分かりませんでしたが、話を進めていくと深く納得することに。
確かに私や兄が念願の東京大学に合格できたことや、私が食の仕事を楽しく続けているのは、幼少期の母の料理が大きく影響していることは間違いありません。それでは具体的に母がどのようなスタンスで日々の料理に取り組んでいたかについて、その一例をご紹介させていただきたいと思います。
◆母が料理を大切にしていた大きな理由とは?
私が子育てをするようになってから、母が初めて話してくれたことがあります。それは、母が心の中で大切にしてきた料理に対するモットーについて。
「私は専業主婦だったから、仕事で頑張る姿やかっこいい姿を見せたりはできなかったけれど、料理を一生懸命取り組む姿なら、毎日のように近くで見てもらうことはできるかもって考えたの。それが実際あなたたちに伝わっていたかはわからないけれど(笑)!」という内容でした。
そう言われたとき、幼少時代の頃の自分の気持ちや感情を振り返り、ハッとしたのです。私は母のことを働いている、働いていないで判断したことは一度もありませんでした。
そして料理に楽しそうに取り組む姿、子どもたちのことを考えながら料理をしてくれている苦労や努力が垣間見えたとき、「勉強やスポーツにおいて努力と工夫は重要なのか! 私も考えながら頑張ろう!」と確信したのです。そうです、母は頑張る姿勢のお手本を、日々の料理によって見せてくれていたのです。
ひとつだけ母が誤解されないためにも、これだけはお伝えしたいのですが、母は仕事をしなくても父が稼いでくれるからという理由で仕事をしていなかったわけではありません。当時の社会環境の中で、思うような仕事ができずに引け目を感じることもあったようです。
しかしながら今でも記憶として深く刻まれているのは、料理をする姿勢を大切にしながら、笑顔で子どもたちに寄り添ってくれたエピソードばかり。母からはさまざまな工夫法を聞きましたが、ここでは私がもっとも印象的に感じた2つのスタンスについて絞ってみることに。
それは、「好きな料理と嫌いな料理をどちらも一生懸命作ってみる」というものでした。
◆母の工夫①家族が好きな料理を一つ決めて練習を重ねる母⇒餃子作りを極めよう!
私たち⇒コツを調べる、練習を重ねる、集中して取り組む姿勢を教わった
ひとつ目は、家族が大好きなメニューを徹底的にこだわるということでした。例えば餃子。中身の野菜と肉の比率や水分量、塊肉からたたいて作る工夫、調味料の塩梅、皮の食感や厚さに至るまで、レシピを調べながら何度も試行錯誤を重ねていました。「練習すればうまくなる」という考え方を、好きな食べ物で証明することには大きな説得力がありました。
また母は、大相撲の中継をテレビで見ながら餃子を包むことが多かったのですが、相撲を楽しみながら楽しそうに餃子を黙々と包み続ける姿勢は、「深刻そうな顔をして取り組むことだけが集中ではない」ということを教えてくれました。
◆母の工夫②自分は苦手でも、子どもが食べたがるメニューを真剣に作る母⇒おいしいクリームパスタやグラタンを作ろう!
私たち⇒苦手分野にチャレンジする姿勢を見せてもらったと同時に、母への感謝や信頼感が増した
そしてもう一つは、自分が苦手とするメニューでどうにか工夫して子どもたちを喜ばせることでした。母は乳製品が大の苦手でしたが、子どもはグラタンやクリームパスタが大好物。自分がほとんど食べられない中で、嫌な顔をすることは一度もなく、子どもたちに味見を任せながら頻繁に食卓に出してくれました。
苦手を克服するためにはどうしたらいいのか? ということを考えさせられるとともに、母に対する無二の信頼や感謝が芽生えたことは、今の親子関係にもつながっています。
母の料理には子育てのヒントがたくさん隠れていました。そしてこのような経験を通して実感するのは、料理には大切なコトを伝えられる力があるということ。記事をご覧になったみなさまにとって少しでもヒントになればうれしく思います。
<文/食文化研究家 スギアカツキ>
【スギアカツキ】
食文化研究家、長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを学ぶ。現在、世界中の食文化を研究しながら、各メディアで活躍している。女子SPA!連載から生まれた海外向け電子書籍『Healthy Japanese Home Cooking』(英語版)好評発売中。著書『やせるパスタ31皿』(日本実業出版社)が発売中。Instagram:@sugiakatsuki/Twitter:@sugiakatsuki12