10月12日に放送された『キングオブコント2024』(TBS系)。第17回目となった今回の王者は、ラブレターズ。過去5回に渡る決勝進出での悲願を達成し、史上最多エントリー数3139組の頂点に輝きました。
今回は審査員席に、松本人志の不在とシソンヌ・じろうの加入という大きな変化がありました。また、上位の得点が1点刻みの超僅差であったことや、出場芸人による「(審査は)好みの問題」発言など、大会の最終結果だけでなく、ネット上で物議を醸し出すような話題が多かったように感じます。
今年のキングオブコントの総括を、構成作家の大輪貴史(おおわ たかふみ)さんにインタビュー。かつてピン芸人「大輪教授」として活動していた大輪さんは、2007年にはR-1ファイナリストに選出されており、現在はお笑い養成所の講師や、複数のお笑い事務所による若手芸人のネタ見せもつとめています。
今大会で特に話題となったいくつかのポイントについて解説してもらいました。
◆松本人志の不在。審査員はもっと人数が多くても良かった
――今大会の審査員に松本人志さんが不在となったことでの影響は感じましたか?
<居ていただいた方が引き締まるのは確かだとは思います。とはいえ、滞(とどこお)りなく進んではいましたし、過去にはM-1でも松本さん不在の大会はありましたからね。
ただ、ある程度の芸歴がある芸人さんからすれば、どうしても松本さんに見て欲しい気持ちは強かったのではないかと思います。でも、もしかしたら若い世代からすれば、同じような感覚で、東京03の飯塚さんに見てもらいたいと思っている可能性もありますよね>(大輪さん 以下山カッコ同じ)
――そういう意味では、今回から新加入となったシソンヌ・じろうさんも近しい立ち位置のような。
<じろうさんの人選、良かったと思います。コメントも新鮮さがあって興味深かったです。ただ、正直なところ審査員の数は7人くらいいても良いような感じがありましたね。あそこまで点数が僅差になると、本当に誰が優勝してもおかしくない分、いわゆる“ロッチ現象”みたいなどんでん返しも起こらない状態にはなりましたよね。
ニッポンの社長の辻さんが点数発表の際、飯塚さんに対して『好みの問題』と言うシーンがありましたが、そうなってきているのであれば、もっとたくさんの審査員に見てもらって、いろんな好みがあることを知らせてもいいかな、と。せっかくなら松本さんと同年代くらいの方を入れても良かったんじゃないかと思います>
◆今年「好みの問題」がモロ得点に現れた理由
――辻さんの『好みの問題』発言。大輪さんはどう捉えましたか?
<飯塚さんでいうと、一本目ではファイヤーサンダーとシティホテル3号室、ロングコートダディの点数が高いんです。彼らはみんなストーリー的に矛盾点が少なく、芝居もしっかりしていて、わけがわからない内容ではない。そう考えると、や団の点数が低いところがちょっと不思議ではあるんですが……。これはもしかしたら東京03がトリオであることに由来している可能性があるのかな、と。
『R-1グランプリ2022』でお見送り芸人しんいちさんが優勝したあの時、審査員には歌ネタをする芸人が一人もいなかったんです。好みという観点ももちろんありますが、芸人審査員は自分の中にないものを持つ人に高い評価をつける傾向が、少なからずあるのかもしれませんね>
――かまいたちの山内さんは、シティホテル3号室に「意味のわからなさをちょっとだけあったらまた違った」「僕の好みなんですけど」とコメントしていましたよね。
<あれは裏を返すと「面白かったけど、自分も想像できる範囲内だった」ということではないかと。やっぱり審査員の席に座っている方たちは本当に百戦錬磨ですし、次の展開を何パターンも予想しているでしょうから。
とはいえ、今回はこの『好みの問題』がモロに得点に現れたと思います。センス、演技、演出について全員が10点満点クラスでやっている以上、完全に面白さは拮抗(きっこう)していて、あとは好みで判別するしかなくなっている状態なんです。正直、準決勝まで進んだ人たちだったら、誰が出ていても同じことになった気がします>
――実際、今年の準決勝のレベルは高かったのですか?
<きっとそうなんだと思います。印象としては全体が底上げされた感覚ですね。それによって上の層がどんどん詰まってきている。キングオブコントは芸歴制限がない以上、今回のラブレターズのように芸歴が上の人たちがちゃんと卒業してくれないと、『好みの問題』の審査は続いていくかもしれません(笑)>
◆トップバッターが高得点の流れの背景に番組制作レベル向上あり
――去年のトップバッターだったカゲヤマに引き続き、今年はロングコートダディも一組目で高得点をたたき出しました。『M-1グランプリ2023』でもトップバッターの令和ロマンが優勝しましたし、そういう流れが出来始めているのでしょうか?
<演者の実力があることは大前提なのですが、少なくともキングオブコントにおいては観客側の緊張がなくなっているんだと思います。回を重ねるごとに番組制作としてのレベルもどんどん上がってきているのではないでしょうか?
一組目までの流れが上手いこと作られていますよね。オープニング映像と審査員の紹介だけですぐに大会がスタートしますから。「もう始まるの?!」ってくらい演出が短い分、緊張感が高まっていかないんだと思います>
――確かに他の大会に比べると、やたら緊張感を煽ってはいないような気がします。
<長時間生放送の『お笑いの日』でワチャワチャしたお祭りムードを出した後の大会であることも大きいのだと思います。これは、もしかしたら今後のキングオブコントはむしろトップが有利になる時代が来るかもしれません>
◆緊張感とエンタメ性のバランスが優れた大会
――では、来年以降のキングオブコントは、どのような大会になっていくと予想しますか?
<『好みの問題』を受けて、審査員のコメントを加味しながらネタを作るコント師が増えていく可能性があります。キングオブコントの戦略化、M-1が競技漫才化しているのと似たような現象が少しずつ出てくるかもしれません。
しかし、個人的にはキングオブコントは緊張感とエンタメ性のバランスが非常に優れた大会ではないかと思っています。来年もハイレベルなコント師たちの戦いに期待したいですね>
――ありがとうございました!
<文/もちづき千代子>
【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama
今回は審査員席に、松本人志の不在とシソンヌ・じろうの加入という大きな変化がありました。また、上位の得点が1点刻みの超僅差であったことや、出場芸人による「(審査は)好みの問題」発言など、大会の最終結果だけでなく、ネット上で物議を醸し出すような話題が多かったように感じます。
今年のキングオブコントの総括を、構成作家の大輪貴史(おおわ たかふみ)さんにインタビュー。かつてピン芸人「大輪教授」として活動していた大輪さんは、2007年にはR-1ファイナリストに選出されており、現在はお笑い養成所の講師や、複数のお笑い事務所による若手芸人のネタ見せもつとめています。
今大会で特に話題となったいくつかのポイントについて解説してもらいました。
◆松本人志の不在。審査員はもっと人数が多くても良かった
――今大会の審査員に松本人志さんが不在となったことでの影響は感じましたか?
<居ていただいた方が引き締まるのは確かだとは思います。とはいえ、滞(とどこお)りなく進んではいましたし、過去にはM-1でも松本さん不在の大会はありましたからね。
ただ、ある程度の芸歴がある芸人さんからすれば、どうしても松本さんに見て欲しい気持ちは強かったのではないかと思います。でも、もしかしたら若い世代からすれば、同じような感覚で、東京03の飯塚さんに見てもらいたいと思っている可能性もありますよね>(大輪さん 以下山カッコ同じ)
――そういう意味では、今回から新加入となったシソンヌ・じろうさんも近しい立ち位置のような。
<じろうさんの人選、良かったと思います。コメントも新鮮さがあって興味深かったです。ただ、正直なところ審査員の数は7人くらいいても良いような感じがありましたね。あそこまで点数が僅差になると、本当に誰が優勝してもおかしくない分、いわゆる“ロッチ現象”みたいなどんでん返しも起こらない状態にはなりましたよね。
ニッポンの社長の辻さんが点数発表の際、飯塚さんに対して『好みの問題』と言うシーンがありましたが、そうなってきているのであれば、もっとたくさんの審査員に見てもらって、いろんな好みがあることを知らせてもいいかな、と。せっかくなら松本さんと同年代くらいの方を入れても良かったんじゃないかと思います>
◆今年「好みの問題」がモロ得点に現れた理由
――辻さんの『好みの問題』発言。大輪さんはどう捉えましたか?
<飯塚さんでいうと、一本目ではファイヤーサンダーとシティホテル3号室、ロングコートダディの点数が高いんです。彼らはみんなストーリー的に矛盾点が少なく、芝居もしっかりしていて、わけがわからない内容ではない。そう考えると、や団の点数が低いところがちょっと不思議ではあるんですが……。これはもしかしたら東京03がトリオであることに由来している可能性があるのかな、と。
『R-1グランプリ2022』でお見送り芸人しんいちさんが優勝したあの時、審査員には歌ネタをする芸人が一人もいなかったんです。好みという観点ももちろんありますが、芸人審査員は自分の中にないものを持つ人に高い評価をつける傾向が、少なからずあるのかもしれませんね>
――かまいたちの山内さんは、シティホテル3号室に「意味のわからなさをちょっとだけあったらまた違った」「僕の好みなんですけど」とコメントしていましたよね。
<あれは裏を返すと「面白かったけど、自分も想像できる範囲内だった」ということではないかと。やっぱり審査員の席に座っている方たちは本当に百戦錬磨ですし、次の展開を何パターンも予想しているでしょうから。
とはいえ、今回はこの『好みの問題』がモロに得点に現れたと思います。センス、演技、演出について全員が10点満点クラスでやっている以上、完全に面白さは拮抗(きっこう)していて、あとは好みで判別するしかなくなっている状態なんです。正直、準決勝まで進んだ人たちだったら、誰が出ていても同じことになった気がします>
――実際、今年の準決勝のレベルは高かったのですか?
<きっとそうなんだと思います。印象としては全体が底上げされた感覚ですね。それによって上の層がどんどん詰まってきている。キングオブコントは芸歴制限がない以上、今回のラブレターズのように芸歴が上の人たちがちゃんと卒業してくれないと、『好みの問題』の審査は続いていくかもしれません(笑)>
◆トップバッターが高得点の流れの背景に番組制作レベル向上あり
――去年のトップバッターだったカゲヤマに引き続き、今年はロングコートダディも一組目で高得点をたたき出しました。『M-1グランプリ2023』でもトップバッターの令和ロマンが優勝しましたし、そういう流れが出来始めているのでしょうか?
<演者の実力があることは大前提なのですが、少なくともキングオブコントにおいては観客側の緊張がなくなっているんだと思います。回を重ねるごとに番組制作としてのレベルもどんどん上がってきているのではないでしょうか?
一組目までの流れが上手いこと作られていますよね。オープニング映像と審査員の紹介だけですぐに大会がスタートしますから。「もう始まるの?!」ってくらい演出が短い分、緊張感が高まっていかないんだと思います>
――確かに他の大会に比べると、やたら緊張感を煽ってはいないような気がします。
<長時間生放送の『お笑いの日』でワチャワチャしたお祭りムードを出した後の大会であることも大きいのだと思います。これは、もしかしたら今後のキングオブコントはむしろトップが有利になる時代が来るかもしれません>
◆緊張感とエンタメ性のバランスが優れた大会
――では、来年以降のキングオブコントは、どのような大会になっていくと予想しますか?
<『好みの問題』を受けて、審査員のコメントを加味しながらネタを作るコント師が増えていく可能性があります。キングオブコントの戦略化、M-1が競技漫才化しているのと似たような現象が少しずつ出てくるかもしれません。
しかし、個人的にはキングオブコントは緊張感とエンタメ性のバランスが非常に優れた大会ではないかと思っています。来年もハイレベルなコント師たちの戦いに期待したいですね>
――ありがとうございました!
<文/もちづき千代子>
【もちづき千代子】
フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:@kyan__tama