『おむすび』(NHK総合)で、主人公・米田結(橋本環奈)が所属する書道部の先輩役で、松本怜生が出演している。
初登場から美麗な雰囲気を粛々と漂わせる松本は、オーディションではなくオファー出演だという。美麗の二文字を絵に描いたような彼を見たら、そりゃそうだよなぁとうなづける。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、オファー出演がうなづけ、視聴者を恋させる本作の松本怜生を解説する。
◆あまりにも美麗な初登場シーン
なんて美しい人だろう……。橋本環奈演じる主人公・米田結が平成の時代を駆け抜ける『おむすび』第1週第2回。元カリスマ総代の姉を持つことから、ハギャレンというギャル連合にスカウトされながらも、結が書道部の教室に初めてやってくる場面。
同級生の宮崎恵美(中村守里)に紹介されたのは、書道部の先輩・風見亮介(松本怜生)だ。床に座り半紙に筆を走らせている。「青春」の二文字を書き上げた風見が立ち上がり、結の方へ顔を向ける。顔を向ける瞬間が2カット繰り返される。ややしつこい映像処理だが、でも美しい(!)。美麗を絵に描いたような風見から視線を注がれた結が思わず「あ、見た」と心の中でつぶやく。
結の前に進みでた風見が遠すぎず近すぎない、いい距離感で「俺と一緒に書道せん?」と言う。風見役の松本の初登場場面に凝縮されたこの美麗さ、なぜだか初めて感じるものではない気がする。確かに以前にも感じたことがある。これはデジャヴ?
◆視聴者はすでに恋している
前作の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)では、主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の同僚判事であり、伴侶になった星航一役の岡田将生に対して持続的にうっとりさせられたものだが、『おむすび』の松本にはもっと刺激的で強い衝動に駆られる。
それは恋ともいえる。風見を前にあからさまにくちごもる結は、一瞬のうちに憧れを抱く。でもまだ恋の前段階、その前夜。一方で視聴者はすでに恋している。しかも一回限りの初恋みたいな感覚。であるはずなのだが、視聴者によっては実は2度目の衝動なのだ。
そうそう、思い出した。既視感の正体は山下智久主演の『正直不動産2』(NHK総合、2024年)だ。『おむすび』が初見ではなく、『正直不動産2』で松本のことを初めて画面上に確認したのだった。だから既視感があったのだ。
同話ラスト、山下に深々とお辞儀をした松本が顔を上げて見つめる(ちょっと表情がわざとらしいが)ワンショットがある。それを見て、美しい新人俳優がでてきたのだなぁとすっかりやられてしまったのだが、いわば『おむすび』で松本怜生に出会い直したみたいな感覚である。
◆オートマティックな美麗俳優
松本怜生は、見る者に何度だって恋させる。しかも毎回が初恋のようにエスコートしてくれるかのようだ。これはどうしたものか。ここまで一瞬で人をとろかす、何か特別な才能、秘密があるのだろうか?
その秘密の一部を明かすインタビュー記事があった。風見役の人物像について松本は「誰が見てもキラキラしているキャラクター」(『ステラnet』インタビューより)と答えている。だから「まず見た目が重要」なのだと。内面よりも(表情も含めた)外面からのアプローチ。これが風見役の役作りの基本になっている。
もし内面的に演じ込みすぎてしまったら、あの美麗、あの初恋の衝動はうまれていないだろう。意識的にちょっと視線を動かしてみる。すると風見のカリスマ的な仕草となって、自然とキャラクター性がうまく稼働する。なんと恐るべきオートマティックな美麗俳優だろう!
◆「一は記号やない。言葉だ」の真意
第2週第6回、松本の美麗な魅力が際立つ印象的な場面がある。ハギャレンに強制的に加入させられたらしい結は、書道部との両立を頑張ろうとする。するとどうも手元が力んでしまい、半紙に一本線で引く「一」の文字がうまく引けない。
見回りにきた風見がその様子を見て「一は記号やない。言葉だ」と言う。確かにそうであるという表情をする結に対して、さらに「気持ちを込めて書く」と格言めいたアドバイスをするのだが、いやいや「一」は確かに「言葉」ではあるが、同時に「記号」でもある。
むしろ記号そのものとしての美しさを味わい尽くした先に初めて言葉としての意味がやっとうまれてくる。風見の格言の真意がそれなのかはわからないが、でもここではっきりしていることがある。
「一」から深い読み解きをする風見役の松本その人は、美麗そのものとしての記号のように機能している。どこまでも表層的だからこそ美しいということである。松本が風見の内面よりもまずは外面(表層)を重視したのはそのためだと思う。
◆オファーによる出演もうなずける
こうした格言をいえるだけの腕前の持ち主でもある。風見は、高校野球の応援用の横断幕の書き手を任される。結の憧れの眼差しがさらに高まる第8回、高校の玄関前に部員一同で縫い合わせた横断幕を敷いて、一発勝負の筆入れ。
白い和服に裸足。風見がブルーシート上を歩くとぺたぺた足音がする。この短音のつややかな響きだこと。緊張の一筆目、バケツを満たす墨に大きな筆をじゃぼっとひたす。バケツから抜き取り勢いよく半紙にぼたっ。墨の滴がほとばしる。
ワンカット目に風見の右足に墨がつく。ツーカット目に彼の左足も墨で汚れる。これなら足裏ぺたぺたペイントアートが完成してしまいそうな気もする。ここにも裸足という外面で見せていこうとする松本の気概がうかがえる。今回の朝ドラ出演がオーディションによるものではなく、オファーによる出演だったことが、この外面性の極め方からうなずける。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
初登場から美麗な雰囲気を粛々と漂わせる松本は、オーディションではなくオファー出演だという。美麗の二文字を絵に描いたような彼を見たら、そりゃそうだよなぁとうなづける。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、オファー出演がうなづけ、視聴者を恋させる本作の松本怜生を解説する。
◆あまりにも美麗な初登場シーン
なんて美しい人だろう……。橋本環奈演じる主人公・米田結が平成の時代を駆け抜ける『おむすび』第1週第2回。元カリスマ総代の姉を持つことから、ハギャレンというギャル連合にスカウトされながらも、結が書道部の教室に初めてやってくる場面。
同級生の宮崎恵美(中村守里)に紹介されたのは、書道部の先輩・風見亮介(松本怜生)だ。床に座り半紙に筆を走らせている。「青春」の二文字を書き上げた風見が立ち上がり、結の方へ顔を向ける。顔を向ける瞬間が2カット繰り返される。ややしつこい映像処理だが、でも美しい(!)。美麗を絵に描いたような風見から視線を注がれた結が思わず「あ、見た」と心の中でつぶやく。
結の前に進みでた風見が遠すぎず近すぎない、いい距離感で「俺と一緒に書道せん?」と言う。風見役の松本の初登場場面に凝縮されたこの美麗さ、なぜだか初めて感じるものではない気がする。確かに以前にも感じたことがある。これはデジャヴ?
◆視聴者はすでに恋している
前作の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)では、主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の同僚判事であり、伴侶になった星航一役の岡田将生に対して持続的にうっとりさせられたものだが、『おむすび』の松本にはもっと刺激的で強い衝動に駆られる。
それは恋ともいえる。風見を前にあからさまにくちごもる結は、一瞬のうちに憧れを抱く。でもまだ恋の前段階、その前夜。一方で視聴者はすでに恋している。しかも一回限りの初恋みたいな感覚。であるはずなのだが、視聴者によっては実は2度目の衝動なのだ。
そうそう、思い出した。既視感の正体は山下智久主演の『正直不動産2』(NHK総合、2024年)だ。『おむすび』が初見ではなく、『正直不動産2』で松本のことを初めて画面上に確認したのだった。だから既視感があったのだ。
同話ラスト、山下に深々とお辞儀をした松本が顔を上げて見つめる(ちょっと表情がわざとらしいが)ワンショットがある。それを見て、美しい新人俳優がでてきたのだなぁとすっかりやられてしまったのだが、いわば『おむすび』で松本怜生に出会い直したみたいな感覚である。
◆オートマティックな美麗俳優
松本怜生は、見る者に何度だって恋させる。しかも毎回が初恋のようにエスコートしてくれるかのようだ。これはどうしたものか。ここまで一瞬で人をとろかす、何か特別な才能、秘密があるのだろうか?
その秘密の一部を明かすインタビュー記事があった。風見役の人物像について松本は「誰が見てもキラキラしているキャラクター」(『ステラnet』インタビューより)と答えている。だから「まず見た目が重要」なのだと。内面よりも(表情も含めた)外面からのアプローチ。これが風見役の役作りの基本になっている。
もし内面的に演じ込みすぎてしまったら、あの美麗、あの初恋の衝動はうまれていないだろう。意識的にちょっと視線を動かしてみる。すると風見のカリスマ的な仕草となって、自然とキャラクター性がうまく稼働する。なんと恐るべきオートマティックな美麗俳優だろう!
◆「一は記号やない。言葉だ」の真意
第2週第6回、松本の美麗な魅力が際立つ印象的な場面がある。ハギャレンに強制的に加入させられたらしい結は、書道部との両立を頑張ろうとする。するとどうも手元が力んでしまい、半紙に一本線で引く「一」の文字がうまく引けない。
見回りにきた風見がその様子を見て「一は記号やない。言葉だ」と言う。確かにそうであるという表情をする結に対して、さらに「気持ちを込めて書く」と格言めいたアドバイスをするのだが、いやいや「一」は確かに「言葉」ではあるが、同時に「記号」でもある。
むしろ記号そのものとしての美しさを味わい尽くした先に初めて言葉としての意味がやっとうまれてくる。風見の格言の真意がそれなのかはわからないが、でもここではっきりしていることがある。
「一」から深い読み解きをする風見役の松本その人は、美麗そのものとしての記号のように機能している。どこまでも表層的だからこそ美しいということである。松本が風見の内面よりもまずは外面(表層)を重視したのはそのためだと思う。
◆オファーによる出演もうなずける
こうした格言をいえるだけの腕前の持ち主でもある。風見は、高校野球の応援用の横断幕の書き手を任される。結の憧れの眼差しがさらに高まる第8回、高校の玄関前に部員一同で縫い合わせた横断幕を敷いて、一発勝負の筆入れ。
白い和服に裸足。風見がブルーシート上を歩くとぺたぺた足音がする。この短音のつややかな響きだこと。緊張の一筆目、バケツを満たす墨に大きな筆をじゃぼっとひたす。バケツから抜き取り勢いよく半紙にぼたっ。墨の滴がほとばしる。
ワンカット目に風見の右足に墨がつく。ツーカット目に彼の左足も墨で汚れる。これなら足裏ぺたぺたペイントアートが完成してしまいそうな気もする。ここにも裸足という外面で見せていこうとする松本の気概がうかがえる。今回の朝ドラ出演がオーディションによるものではなく、オファーによる出演だったことが、この外面性の極め方からうなずける。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu