悲しいが、第39回ではふたりの重要人物がこの世を去った。
ひとりは伊周、そしてまひろの弟・惟規だ。軽いノリでありながら、まひろの心を支えた惟規の存在の大きさを改めて感じる回だった。
◆父、複雑。
年末年始に屋敷に戻ったまひろ(吉高由里子)。今回もお土産がいっぱいだが、道長(柄本佑)から賢子(南沙良)への贈り物である裳着の祝いの絹織物も持ち帰っていた。
その豪華さに、為時(岸谷五朗)や藤原惟規(高杉真宙)、いとが驚きの表情を浮かべる。惟規は「やっぱり自分の子はかわいいんだな」とぽそり。これに驚いたのは為時だ。
そう、為時は道長とまひろが良い関係だというのは知っていたが、賢子が道長の子だということを実は知らなかったのだ。
惟規は知ったというより察した、ということなのかもしれないけれど……。
為時としては複雑だろう。
そして、ここで明らかになったのは「賢子が自分の娘だと道長は知らない」とまひろが思っているということ。いろいろとまひろはヒントを出しているが、どうなのだろうか。いや、気がついてないだろうな……不義と聞いてもまさか自分が相手とは思っていなさそう……鈍いもんな……と思わせるものが道長にはある。
つまり、裳着の祝いが豪華なのはやはり、まひろの娘だから、というだけなのかもしれない。
◆気安いまひろと道長の関係
父の複雑な気持ちをよそに、まひろと道長の関係はある意味、良好だ。いや、道長が気軽にまひろを訪れすぎなだけなんだが。
そう何かと、まひろを訪れている。
元服の儀を控え、敦康親王が彰子(見上愛)に別れのあいさつをしている場面を見て、道長は気が気じゃない。敦康親王が光る君にかぶれて真似をしているというのだ。光る君は義母に想いを寄せていた。
まひろは創作だから、と相手にしない。「つまらぬことを……」と一蹴である。道長が必死になるのを「はいはい」といなしているまひろが微笑ましい。道長はきっと他の人にはこんなことを言わないだろうし、道長をこんなふうにあしらうこともしないだろう。ふたりだけの距離感が尊い。
が、本気で心配している道長のせいで、敦康親王は彰子から引き離される。不憫である……。
◆伊周、死す。
道長の邪魔をすることに命をかけていた、と言っても過言ではない藤原伊周(三浦翔平)。衰弱した伊周は床に伏していた。その様子に先は長くない、と誰もが感じていた。
「父も、母も、妹もあっという間に死んだ」「奪われ尽くして、死ぬのか」と無念そうにつぶやく。
「俺が何をした」と言うが、もうそれは呪詛のせいでは? としか。
伊周の印象としては、ひたすら定子に皇子を産めと言っていたこと、呪詛をとなえていたこと、あとは島流しが嫌でダダをこねていたことが大きい。もしかすると「何をした」に対して「何も」と言ってしまうのもある種、正しいのか……。何かしたほうが、人は実は生き残る。何もせずに呪っていただけではそりゃあ何も得られない、と思ってしまう。
◆惟規が何をした
今回、もうひとり重要な人物が亡くなった。惟規だ。
惟規が従五位下に昇進、為時が越後守に任じられた春。揃って道長に挨拶に訪れる。
ここで、惟規は意外なことを言う。姉は気難しく、気持ちが通じにくいが、末永くよろしくお願いします、と。さすがに道長も、惟規に何か気づかれているということを察したようだ。
そして、賢子の裳着の儀式を行い、惟規は為時を越後へと送っていった。はずだった。道中で激しい腹痛を起こした惟規は、そのまま帰らぬ人となった。早すぎやしないか、それこそ惟規が何をしたというのか。
裳着の日の夜、まひろに「きっとみんなうまくいくよ」と言っていた惟規。
いまは賢子とまひろの仲は最悪だけど変わるよ、でも道長のまひろへの気持ちは変わらないよ。
なんだか良いことを予言するかのように笑顔で言った。
明るく、華があった惟規。どちらかというと陰キャが多いまひろの家の中で、惟規は真逆の照らす人だった。
そんな惟規が詠んだ辞世の句。
「都にも恋しき人の多かればなほこのたびはいかむとぞ思ふ」
都にも恋しい外がたくさんいるからなんとしても生きて帰りたい。
その思いは叶わなかった。
惟規の死の知らせに涙をこぼすまひろ。その背中を賢子がそっとさする。わだかまりを抱えた母と娘の空気を少し変えたのは、惟規の置き土産か。
いや、シンプルにまひろが自分の素直な気持ちを伝えないのがよくないのかもしれない。
もう2人の心を近づけてくれる人はいない。これから母娘がどう向き合っていくかが楽しみだ。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ
ひとりは伊周、そしてまひろの弟・惟規だ。軽いノリでありながら、まひろの心を支えた惟規の存在の大きさを改めて感じる回だった。
◆父、複雑。
年末年始に屋敷に戻ったまひろ(吉高由里子)。今回もお土産がいっぱいだが、道長(柄本佑)から賢子(南沙良)への贈り物である裳着の祝いの絹織物も持ち帰っていた。
その豪華さに、為時(岸谷五朗)や藤原惟規(高杉真宙)、いとが驚きの表情を浮かべる。惟規は「やっぱり自分の子はかわいいんだな」とぽそり。これに驚いたのは為時だ。
そう、為時は道長とまひろが良い関係だというのは知っていたが、賢子が道長の子だということを実は知らなかったのだ。
惟規は知ったというより察した、ということなのかもしれないけれど……。
為時としては複雑だろう。
そして、ここで明らかになったのは「賢子が自分の娘だと道長は知らない」とまひろが思っているということ。いろいろとまひろはヒントを出しているが、どうなのだろうか。いや、気がついてないだろうな……不義と聞いてもまさか自分が相手とは思っていなさそう……鈍いもんな……と思わせるものが道長にはある。
つまり、裳着の祝いが豪華なのはやはり、まひろの娘だから、というだけなのかもしれない。
◆気安いまひろと道長の関係
父の複雑な気持ちをよそに、まひろと道長の関係はある意味、良好だ。いや、道長が気軽にまひろを訪れすぎなだけなんだが。
そう何かと、まひろを訪れている。
元服の儀を控え、敦康親王が彰子(見上愛)に別れのあいさつをしている場面を見て、道長は気が気じゃない。敦康親王が光る君にかぶれて真似をしているというのだ。光る君は義母に想いを寄せていた。
まひろは創作だから、と相手にしない。「つまらぬことを……」と一蹴である。道長が必死になるのを「はいはい」といなしているまひろが微笑ましい。道長はきっと他の人にはこんなことを言わないだろうし、道長をこんなふうにあしらうこともしないだろう。ふたりだけの距離感が尊い。
が、本気で心配している道長のせいで、敦康親王は彰子から引き離される。不憫である……。
◆伊周、死す。
道長の邪魔をすることに命をかけていた、と言っても過言ではない藤原伊周(三浦翔平)。衰弱した伊周は床に伏していた。その様子に先は長くない、と誰もが感じていた。
「父も、母も、妹もあっという間に死んだ」「奪われ尽くして、死ぬのか」と無念そうにつぶやく。
「俺が何をした」と言うが、もうそれは呪詛のせいでは? としか。
伊周の印象としては、ひたすら定子に皇子を産めと言っていたこと、呪詛をとなえていたこと、あとは島流しが嫌でダダをこねていたことが大きい。もしかすると「何をした」に対して「何も」と言ってしまうのもある種、正しいのか……。何かしたほうが、人は実は生き残る。何もせずに呪っていただけではそりゃあ何も得られない、と思ってしまう。
◆惟規が何をした
今回、もうひとり重要な人物が亡くなった。惟規だ。
惟規が従五位下に昇進、為時が越後守に任じられた春。揃って道長に挨拶に訪れる。
ここで、惟規は意外なことを言う。姉は気難しく、気持ちが通じにくいが、末永くよろしくお願いします、と。さすがに道長も、惟規に何か気づかれているということを察したようだ。
そして、賢子の裳着の儀式を行い、惟規は為時を越後へと送っていった。はずだった。道中で激しい腹痛を起こした惟規は、そのまま帰らぬ人となった。早すぎやしないか、それこそ惟規が何をしたというのか。
裳着の日の夜、まひろに「きっとみんなうまくいくよ」と言っていた惟規。
いまは賢子とまひろの仲は最悪だけど変わるよ、でも道長のまひろへの気持ちは変わらないよ。
なんだか良いことを予言するかのように笑顔で言った。
明るく、華があった惟規。どちらかというと陰キャが多いまひろの家の中で、惟規は真逆の照らす人だった。
そんな惟規が詠んだ辞世の句。
「都にも恋しき人の多かればなほこのたびはいかむとぞ思ふ」
都にも恋しい外がたくさんいるからなんとしても生きて帰りたい。
その思いは叶わなかった。
惟規の死の知らせに涙をこぼすまひろ。その背中を賢子がそっとさする。わだかまりを抱えた母と娘の空気を少し変えたのは、惟規の置き土産か。
いや、シンプルにまひろが自分の素直な気持ちを伝えないのがよくないのかもしれない。
もう2人の心を近づけてくれる人はいない。これから母娘がどう向き合っていくかが楽しみだ。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ