ひとりの若手俳優が、一気にスターダムを駆け上がっていく様子は壮観である。確かな勢いを得て、現在進行形で駆け上がっているのが、注目の野村康太だ。
いったい、彼はどこからやってきたのか。疾風怒濤、どこへ向かうのか。毎週火曜日深夜12時59分から放送されている主演ドラマ『その着せ替え人形は恋をする』(MBS)が、そのポテンシャルの秘密を明かしてくれている。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、野村康太の過去作から右手に共通するポテンシャルを読み取りながら、スター俳優誕生の瞬間を解説する。
◆おすすめされたイケメンの名前は野村康太
“イケメン・サーチャー”を名乗り、日々イケメンについてばかり書いていると、ほうぼうから「このイケメンはどう?」とレコメンドされることがよくある。イケメンであれば誰でも構わず心ときめくわけではないのだが、つい最近のレコメンドにはかなり心が動いた。
レコメンドしてきたのは、松本まりか主演でこの間ドラマ化されたばかりの『夫の家庭を壊すまで』(テレビ東京)の原作者(赤石真菜)である。おすすめされたイケメンの名前は野村康太。聞いたこともない。見たこともない。すぐに名前を検索すると、(その時点での)出演最新作がまさに同作だった。
なんだよ、自分の作品の出演者かよ! さすが宣伝に余念がないなぁ。彼女とは大学時代の友人で、ほんと学生の雑談の延長みたいにさりげなくおすすめされたものだから、野村康太という固有名詞は自然と頭に刷り込まれた。
◆父も息子も視線の演技が共通
野村というありふれた名字に気を取られ、彼が実は沢村一樹の息子であるという事実も知らなかった。でもそうね、そう言われててみたら、確かに力強さと柔らかさを兼ね備えた目元は似てるかな。
目力はやっぱりお父さんのほうがばきばきだが、父も息子も視線の演技が共通している。ただし、視線のベクトルが違う。沢村が相手俳優にばきばき目力のビームを送るのに対して、野村は逆に相手の視線を受けるのがうまい。
『夫の家庭を壊すまで』で主人公・如月みのり(松本まりか)に恋するピュアな高校生、三宅渉役を演じる野村は、松本と画面を共有する中で常に彼女の視線を受けている。受けてそれを反射するわけでもなく、ただ受け続ける。おそらく彼はそうやって時間をかけて自分の演技のタイミングを見計らっているんだと思う。
◆ブレイクするポテンシャルそのもの
では、タイミングがきたら彼はどう演技するか。若手中の若手にしか許されない反則技を使うのである。第3話、みのりとの事実上のデートである海辺のレストランでの場面。アイスドリンクを飲んだ渉が、口元にクリーミーな泡を付着させる。
ベタといえばベタな可愛さ。でもあざとくはない。どこまでも人懐っこいその泡。何度もやられては効果が薄れる。受けて受けて、タイミングを待ったからこそ、一回限りの反則技的な口元のアワアワ。破壊力は絶大。
この泡効果は、彼が確実にブレイクするポテンシャルそのものでもあった。実際、同作を追い風にして、疾風怒濤、スターダムを駆け上がり中なのだが、でも彼のポテンシャルが最初に提示された作品は他にある。
◆手首も含めた右手
金子隼也と共演したBLドラマ『パーフェクトプロポーズ』(フジテレビ、2024年)だ。金子扮する主人公・渡浩国は連日の仕事で精神、肉体ともに疲弊するサラリーマン。ある夜、へろへろの帰路で中学時代の友人である深谷甲斐(野村康太)と再会し、甲斐が居候するようになる。
甲斐が作る食事によって、浩国は身も心も温まる。で、肝心のポテンシャルなのだが、第2話、それは甲斐が焼きそばのトッピング用の目玉焼きを調理する場面。画面奥で調理する甲斐がフライパンを見つめるとき、目玉焼きの焼き加減を確かめるフライ返しを持つ右手に注目。正確には手首も含めた右手。この手首から手の甲にかけてのゆるやかな傾斜具合がやたらと生々しく、色っぽい。
あぁ、この人の才能はきっとこの右手周りに凝縮されてるんだなと感じるくらい、何かが宿っている。浩国の前に目玉焼きをトッピングした焼きそばの皿を差し出すときも右手。でも惜しいことに、手首も手の甲も写らない。
これは単なる物撮りショットにも見えるから、撮影現場では野村の右手で撮影せずに、誰かスタッフが吹き替えているかもしれない。なかなか素晴らしいトーンのBL作品だっただけに、この右手のポテンシャルを決定的に生かしきれていないことが同作唯一の欠点だった。
◆他にもポテンシャルがありそう
目のつけどころは案外間違っていなかったようだ。すると主演最新作『その着せ替え人形は恋をする』でこの右手ポテンシャルがはっきり明示される。第1話冒頭を見ると、主人公の高校生・五条新菜(野村康太)が、祖父・五条薫(山田明郷)とふたりの朝食場面で配膳係を担っている。
祖父が座るテーブルに腰を下ろし、椀と茶碗を置くのは右手(!)。シャツの袖をまくりあげ、手首もちゃんとでている。しかも左手は丁寧にネクタイをおさえる。さりげなく細かいなぁ。完璧である。ちょうど腰まで写る画面上で、慎ましく右手がそっと配膳する動きをこうして押さえてしまえば、こっちのものだ。
右手のポテンシャルスター俳優としての野村康太が、ここに誕生した。人形屋の孫として雛人形の衣装作りに励んでミシンを動かす新菜が、後ろで見守る薫を見上げる場面では、目をぱちくり、眼球をくるくるさせる。どうやら目そのものの演技はまだ定着していないようである。ここは沢村の目力ビームを参考にして、他にもポテンシャルがありそうな部位ごとの演技を完成させてほしい。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
いったい、彼はどこからやってきたのか。疾風怒濤、どこへ向かうのか。毎週火曜日深夜12時59分から放送されている主演ドラマ『その着せ替え人形は恋をする』(MBS)が、そのポテンシャルの秘密を明かしてくれている。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、野村康太の過去作から右手に共通するポテンシャルを読み取りながら、スター俳優誕生の瞬間を解説する。
◆おすすめされたイケメンの名前は野村康太
“イケメン・サーチャー”を名乗り、日々イケメンについてばかり書いていると、ほうぼうから「このイケメンはどう?」とレコメンドされることがよくある。イケメンであれば誰でも構わず心ときめくわけではないのだが、つい最近のレコメンドにはかなり心が動いた。
レコメンドしてきたのは、松本まりか主演でこの間ドラマ化されたばかりの『夫の家庭を壊すまで』(テレビ東京)の原作者(赤石真菜)である。おすすめされたイケメンの名前は野村康太。聞いたこともない。見たこともない。すぐに名前を検索すると、(その時点での)出演最新作がまさに同作だった。
なんだよ、自分の作品の出演者かよ! さすが宣伝に余念がないなぁ。彼女とは大学時代の友人で、ほんと学生の雑談の延長みたいにさりげなくおすすめされたものだから、野村康太という固有名詞は自然と頭に刷り込まれた。
◆父も息子も視線の演技が共通
野村というありふれた名字に気を取られ、彼が実は沢村一樹の息子であるという事実も知らなかった。でもそうね、そう言われててみたら、確かに力強さと柔らかさを兼ね備えた目元は似てるかな。
目力はやっぱりお父さんのほうがばきばきだが、父も息子も視線の演技が共通している。ただし、視線のベクトルが違う。沢村が相手俳優にばきばき目力のビームを送るのに対して、野村は逆に相手の視線を受けるのがうまい。
『夫の家庭を壊すまで』で主人公・如月みのり(松本まりか)に恋するピュアな高校生、三宅渉役を演じる野村は、松本と画面を共有する中で常に彼女の視線を受けている。受けてそれを反射するわけでもなく、ただ受け続ける。おそらく彼はそうやって時間をかけて自分の演技のタイミングを見計らっているんだと思う。
◆ブレイクするポテンシャルそのもの
では、タイミングがきたら彼はどう演技するか。若手中の若手にしか許されない反則技を使うのである。第3話、みのりとの事実上のデートである海辺のレストランでの場面。アイスドリンクを飲んだ渉が、口元にクリーミーな泡を付着させる。
ベタといえばベタな可愛さ。でもあざとくはない。どこまでも人懐っこいその泡。何度もやられては効果が薄れる。受けて受けて、タイミングを待ったからこそ、一回限りの反則技的な口元のアワアワ。破壊力は絶大。
この泡効果は、彼が確実にブレイクするポテンシャルそのものでもあった。実際、同作を追い風にして、疾風怒濤、スターダムを駆け上がり中なのだが、でも彼のポテンシャルが最初に提示された作品は他にある。
◆手首も含めた右手
金子隼也と共演したBLドラマ『パーフェクトプロポーズ』(フジテレビ、2024年)だ。金子扮する主人公・渡浩国は連日の仕事で精神、肉体ともに疲弊するサラリーマン。ある夜、へろへろの帰路で中学時代の友人である深谷甲斐(野村康太)と再会し、甲斐が居候するようになる。
甲斐が作る食事によって、浩国は身も心も温まる。で、肝心のポテンシャルなのだが、第2話、それは甲斐が焼きそばのトッピング用の目玉焼きを調理する場面。画面奥で調理する甲斐がフライパンを見つめるとき、目玉焼きの焼き加減を確かめるフライ返しを持つ右手に注目。正確には手首も含めた右手。この手首から手の甲にかけてのゆるやかな傾斜具合がやたらと生々しく、色っぽい。
あぁ、この人の才能はきっとこの右手周りに凝縮されてるんだなと感じるくらい、何かが宿っている。浩国の前に目玉焼きをトッピングした焼きそばの皿を差し出すときも右手。でも惜しいことに、手首も手の甲も写らない。
これは単なる物撮りショットにも見えるから、撮影現場では野村の右手で撮影せずに、誰かスタッフが吹き替えているかもしれない。なかなか素晴らしいトーンのBL作品だっただけに、この右手のポテンシャルを決定的に生かしきれていないことが同作唯一の欠点だった。
◆他にもポテンシャルがありそう
目のつけどころは案外間違っていなかったようだ。すると主演最新作『その着せ替え人形は恋をする』でこの右手ポテンシャルがはっきり明示される。第1話冒頭を見ると、主人公の高校生・五条新菜(野村康太)が、祖父・五条薫(山田明郷)とふたりの朝食場面で配膳係を担っている。
祖父が座るテーブルに腰を下ろし、椀と茶碗を置くのは右手(!)。シャツの袖をまくりあげ、手首もちゃんとでている。しかも左手は丁寧にネクタイをおさえる。さりげなく細かいなぁ。完璧である。ちょうど腰まで写る画面上で、慎ましく右手がそっと配膳する動きをこうして押さえてしまえば、こっちのものだ。
右手のポテンシャルスター俳優としての野村康太が、ここに誕生した。人形屋の孫として雛人形の衣装作りに励んでミシンを動かす新菜が、後ろで見守る薫を見上げる場面では、目をぱちくり、眼球をくるくるさせる。どうやら目そのものの演技はまだ定着していないようである。ここは沢村の目力ビームを参考にして、他にもポテンシャルがありそうな部位ごとの演技を完成させてほしい。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu