総理指名選挙の決選投票が行われた2024年11月11日、同日に、国民民主党の代表である玉木雄一郎氏が、自身の不倫報道を受けての謝罪会見を行った。
SNS上がにぎわう。Netflixで配信されている『地面師たち』に登場する大手ディベロッパー社員との類似で盛り上がったのだ。なんだかなぁ。滑稽な類似……。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、いけすかないことでは確かに共通する、ほんとうにどうでもいい下半身事情の類似を解説する。
◆類似することになった人物たち
Netflixで配信されている『地面師たち』は配信開始からすぐ、やたらと評判だった。でも評判作にすぐ飛び付かず、あえて寝かせてみることも重要である。配信開始から4ヶ月近く経った頃合いだけれど、それがどうだろう?
寝かせてみた結果、本作に登場する、ある人物と現実に存在する人物とが、偶然、類似することになった。その類似はSNS上での格好の話題。それを見て本作品をまだ視聴していない人たちも重い腰をあげてみる気になったかもしれない。
もったいぶってしまった。偶然、類似することになった人物たちとは、ひとりはなにがなんでも代わりの土地を見つけなければならない大手ディベロッパーである石洋ハウスの開発事業部部長・青柳(山本耕史)。もうひとりは、先日の衆議院総選挙で野党第3党になった国民民主党の代表である玉木雄一郎氏だ。
◆まずは『地面師たち』をおさらい
ともあれ、ひとまず本作の主な登場人物を基本情報として確認しておく。各話冒頭ナレーションが説明するように「地面師とは他人の土地の所有者になりすまして売却を持ちかけ、偽造書類を使って多額の金を騙し取る不動産詐欺を行う集団のこと」である。本作の地面師たちの活動範囲は、東京。
人口密集地帯自体が隠れみのとなりながら、土地をほしがる相手をねらい、不動産プロ同士が、だまし、だまされる。地面師グループを仕切るなぞの男ハリソン山中(豊川悦司)が、情報屋である竹下(北村一輝)の情報を瞬時に選別して計画をたてる。
それに基づいて、ハリソンの右腕である辻本拓海(綾野剛)が交渉役を担当。キャスティング担当の麗子(小池栄子)が売り主を装う人材を配役する。さらに元司法書士で法律担当の後藤(ピエール瀧)が、いろいろと悪知恵を働かせる。などなど、他にも役割が細かく分担されている。
◆“コンプラ完全無視男”である青柳
地面師たちを追う定年退職前の刑事・辰(リリー・フランキー)の捜査が平行して描かれるのだが、土地の売買契約でだまされる相手もいけすかない連中ばかり。第1話でだまされるのが、新興不動産会社マイクホームズの社長である真木(駿河太郎)。
地面師たちとは知らず、いい契約を結んだとぬか喜びする真木は、グラビア女優との派手な不倫が週刊誌にすっぱぬかれるような人物である。金がある男たちは、どいつもこいつもそんなやつらばかりなのか。いけすかない。
第2話からは冒頭で類似の人物として名前をあげた青柳が登場する。頓挫しかけている大規模事業の責任を追及されている。前時代的な価値観で“コンプラ完全無視男”である青柳は、昔付き合いのあった地上げ屋を頼るが、追い返される。路地からでてきた青柳が、彼の責任を追及する出世争いのライバル社員・須永(松尾諭)と出くわす場面がある。
◆大根監督の演出の恐ろしさ
社長派、会長派で派閥争いをするこの石洋ハウス社内で、会長派の須永は、社長派の青柳をとことん見下している。路地からひとりでてきた青柳に対して、須永は両手に華といわんばかり、華美な服装の女性ふたりと肩を組んで、我が物顔で闊歩する。
本作の時代は2017年に設定されているが、いつの時代もこういう男たちは、金にものをいわせた遊びしか頭にないのか。大根仁監督は、虚しさを思いきり感じるように、変にデフォルメすることも美化することなく、冷徹な視線を彼らに注いでいる。
目先の欲望の汁をすするだけの男たちに、深い軽蔑の眼差しを多くの視聴者が共有しているものと思いたい。でも人によっては彼らの生き方に憧れてしまうのかも。そこが大根監督の演出の恐ろしさでもある。
では、地面師たちにとっては100億超えの詐欺案件に、知らず知らず参加してしまっている青柳は、どうなるのか?
◆下半身事情はどうでもいい
とても印象的な場面がある。第4話、地面師たちへの提案をひかえた青柳のチームが夜遅くまで資料を作成する。彼が納得する資料ができ上がり、部下のひとりに1万円札を渡して、買えるだけのビールを買ってこいと命じる。
喜ぶ部下たちを横目に、青柳はある部分をいじる。カメラが机の下へ移動する。青柳が自分の股間をがっしりにぎっている。大型案件をまとめて挽回しようとするエネルギーが、下半身と連動するもんなんだなぁ、こういう人は。でもそんな下半身事情をいきなり見せられてもねぇ……。
街頭演説中のれいわ新選組代表・山本太郎氏は、玉木代表の不倫発覚について、「下半身問題で国民は死ぬことはないんですよ」と簡潔に述べた。政治家としての倫理観はもちろん看過できない。でも国民にとって野党党首の下半身事情はほんとうにどうでもいい。
大根監督がわざわざカメラをなめらかに移動させて写す青柳の下半身事情が、視聴者にとってどうでもいいことであるのとほとんどイコールなくらいどうでもいい。
◆大仕事のあとの興奮と快楽
11月11日、不倫が発覚した玉木代表は記者会見をした。「浮かれていた部分があった」と話していたが、X上では、「玉木のあの目が血走ってた謝罪会見の時の顔の感じ地面師の山本耕史の最後のシーンの表情の雰囲気に近い」や「玉木さんから感じる青柳感半端ねぇわ」など、類似点を指摘する投稿がたくさんあった。
詐欺だと知らず大型案件で挽回できたものと歓喜する青柳が、ホテルの一室で社長秘書相手に羽目をはずす。大仕事のあとの興奮と快楽。彼の股間が爆発する。
現職の政治家とフィクションの人物を安易な類似で結び付けるのは留保すべきだし、どこまで類似性があるか判然としない気もするが、でも正真正銘、どいつもこいつもいけすかないことでは共通している。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
SNS上がにぎわう。Netflixで配信されている『地面師たち』に登場する大手ディベロッパー社員との類似で盛り上がったのだ。なんだかなぁ。滑稽な類似……。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、いけすかないことでは確かに共通する、ほんとうにどうでもいい下半身事情の類似を解説する。
◆類似することになった人物たち
Netflixで配信されている『地面師たち』は配信開始からすぐ、やたらと評判だった。でも評判作にすぐ飛び付かず、あえて寝かせてみることも重要である。配信開始から4ヶ月近く経った頃合いだけれど、それがどうだろう?
寝かせてみた結果、本作に登場する、ある人物と現実に存在する人物とが、偶然、類似することになった。その類似はSNS上での格好の話題。それを見て本作品をまだ視聴していない人たちも重い腰をあげてみる気になったかもしれない。
もったいぶってしまった。偶然、類似することになった人物たちとは、ひとりはなにがなんでも代わりの土地を見つけなければならない大手ディベロッパーである石洋ハウスの開発事業部部長・青柳(山本耕史)。もうひとりは、先日の衆議院総選挙で野党第3党になった国民民主党の代表である玉木雄一郎氏だ。
◆まずは『地面師たち』をおさらい
ともあれ、ひとまず本作の主な登場人物を基本情報として確認しておく。各話冒頭ナレーションが説明するように「地面師とは他人の土地の所有者になりすまして売却を持ちかけ、偽造書類を使って多額の金を騙し取る不動産詐欺を行う集団のこと」である。本作の地面師たちの活動範囲は、東京。
人口密集地帯自体が隠れみのとなりながら、土地をほしがる相手をねらい、不動産プロ同士が、だまし、だまされる。地面師グループを仕切るなぞの男ハリソン山中(豊川悦司)が、情報屋である竹下(北村一輝)の情報を瞬時に選別して計画をたてる。
それに基づいて、ハリソンの右腕である辻本拓海(綾野剛)が交渉役を担当。キャスティング担当の麗子(小池栄子)が売り主を装う人材を配役する。さらに元司法書士で法律担当の後藤(ピエール瀧)が、いろいろと悪知恵を働かせる。などなど、他にも役割が細かく分担されている。
◆“コンプラ完全無視男”である青柳
地面師たちを追う定年退職前の刑事・辰(リリー・フランキー)の捜査が平行して描かれるのだが、土地の売買契約でだまされる相手もいけすかない連中ばかり。第1話でだまされるのが、新興不動産会社マイクホームズの社長である真木(駿河太郎)。
地面師たちとは知らず、いい契約を結んだとぬか喜びする真木は、グラビア女優との派手な不倫が週刊誌にすっぱぬかれるような人物である。金がある男たちは、どいつもこいつもそんなやつらばかりなのか。いけすかない。
第2話からは冒頭で類似の人物として名前をあげた青柳が登場する。頓挫しかけている大規模事業の責任を追及されている。前時代的な価値観で“コンプラ完全無視男”である青柳は、昔付き合いのあった地上げ屋を頼るが、追い返される。路地からでてきた青柳が、彼の責任を追及する出世争いのライバル社員・須永(松尾諭)と出くわす場面がある。
◆大根監督の演出の恐ろしさ
社長派、会長派で派閥争いをするこの石洋ハウス社内で、会長派の須永は、社長派の青柳をとことん見下している。路地からひとりでてきた青柳に対して、須永は両手に華といわんばかり、華美な服装の女性ふたりと肩を組んで、我が物顔で闊歩する。
本作の時代は2017年に設定されているが、いつの時代もこういう男たちは、金にものをいわせた遊びしか頭にないのか。大根仁監督は、虚しさを思いきり感じるように、変にデフォルメすることも美化することなく、冷徹な視線を彼らに注いでいる。
目先の欲望の汁をすするだけの男たちに、深い軽蔑の眼差しを多くの視聴者が共有しているものと思いたい。でも人によっては彼らの生き方に憧れてしまうのかも。そこが大根監督の演出の恐ろしさでもある。
では、地面師たちにとっては100億超えの詐欺案件に、知らず知らず参加してしまっている青柳は、どうなるのか?
◆下半身事情はどうでもいい
とても印象的な場面がある。第4話、地面師たちへの提案をひかえた青柳のチームが夜遅くまで資料を作成する。彼が納得する資料ができ上がり、部下のひとりに1万円札を渡して、買えるだけのビールを買ってこいと命じる。
喜ぶ部下たちを横目に、青柳はある部分をいじる。カメラが机の下へ移動する。青柳が自分の股間をがっしりにぎっている。大型案件をまとめて挽回しようとするエネルギーが、下半身と連動するもんなんだなぁ、こういう人は。でもそんな下半身事情をいきなり見せられてもねぇ……。
街頭演説中のれいわ新選組代表・山本太郎氏は、玉木代表の不倫発覚について、「下半身問題で国民は死ぬことはないんですよ」と簡潔に述べた。政治家としての倫理観はもちろん看過できない。でも国民にとって野党党首の下半身事情はほんとうにどうでもいい。
大根監督がわざわざカメラをなめらかに移動させて写す青柳の下半身事情が、視聴者にとってどうでもいいことであるのとほとんどイコールなくらいどうでもいい。
◆大仕事のあとの興奮と快楽
11月11日、不倫が発覚した玉木代表は記者会見をした。「浮かれていた部分があった」と話していたが、X上では、「玉木のあの目が血走ってた謝罪会見の時の顔の感じ地面師の山本耕史の最後のシーンの表情の雰囲気に近い」や「玉木さんから感じる青柳感半端ねぇわ」など、類似点を指摘する投稿がたくさんあった。
詐欺だと知らず大型案件で挽回できたものと歓喜する青柳が、ホテルの一室で社長秘書相手に羽目をはずす。大仕事のあとの興奮と快楽。彼の股間が爆発する。
現職の政治家とフィクションの人物を安易な類似で結び付けるのは留保すべきだし、どこまで類似性があるか判然としない気もするが、でも正真正銘、どいつもこいつもいけすかないことでは共通している。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu