会えぬ時期も長くあったが、紆余曲折ありつつも、道長とまひろは近くにいる。まひろがそれで満足をし、一生を終えるような女性なのだとしたら、道長は心惹かれなかっただろう。そんな女性をどこまでも心が追いかけてしまう……それが道長という人なのかもしれない。
◆粘る、三条天皇
目も見えづらい、耳も聞こえづらい。そんな中でも三条天皇は譲位を拒み続けた。本来なら、「道長(柄本佑)よ、無理をしてそんなに帝を引きずりおろそうとするなんてあなたも変わりましたね」などと視聴者側としても言いたくなるが、今の状況では三条天皇を支持する者はほとんどいない。
しかし、三条天皇は粘る。自分の姫皇子を道長の息子・頼通(渡邊圭祐)に嫁がせると言い出した。すでに頼通には妻がおり、この縁談がうまくまとまるとも思えない。が、帝の望みを拒むことはできない。道長は倫子(黒木華)と共に説得しようと試みるが、頑なだ。どうしても娶(めと)れというなら妻を連れて都を出る、と言う。
「藤原も、左大臣の嫡男であることも捨てて、ふたりきりで生きていく」
かつて、道長もまひろにそう言っていたことがあったな、と思い出してしまう。
道長は彰子(見上愛)に説得するように頭を下げるが、その表情は苦い。さらに「帝も左大臣も女子をなんだと思っているのか」と苦言を呈する。
たとえ、帝の姫皇子が嫁いだとて、頼通との間に子が生まれるとは限らない。彰子は過去の自分を重ね、説得には後ろ向きだ。
道長はそばに控えていたまひろ(吉高由里子)にも尋ねるが、「道長のように倫子や明子を等しく愛するということは難しい」と回答する。まあ、道長にそんなことができたのは、まひろがいたからなんだが。道長の場合は特別な女性以外はみんな一緒、という感覚に違いないので……。
結局、頼通は怨霊によって重病に冒されていると噂を流し、この婚姻を流すことに成功した。怨霊が憑いた者に自分の娘はやれない、というわけだ。
◆「もちづきの かけたることも」
やがて三条天皇が譲位、後一条天皇の即位、3人の娘たちはそれぞれ太皇太后、皇太后、中宮となり、栄華を極めているように見えた道長。
威子が中宮になった宴で、道長は「このよをば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることも なしと思へば」と歌を詠む。
貴族たちが聞けば、権力を全て手に入れた驕りたかぶった男の歌のように聞こえるだろう。
後日、公任(町田啓太)たちは「道長のあの歌はどういった意味だったのだろう」と話し合う。
栄華を極めた、と捉えかねないだろうが、道長がそんな歌を詠むはずがない、と口々に言う。この「光る君へ」ならではの道長像と言えるだろう。
ではどういう想いで詠んだのか……そんなの、まひろに向けて、に決まっている。歌を詠み、まひろに視線を向ける。そして、途中でインサートされるのは、道長とまひろが初めて肌を重ねた夜に見えた月。
たとえ、娘が妃となり、すべての権力を手に入れたとしても、道長の頭の中にはまひろのことでいっぱいなのだ。
◆手に入らない人を思い続ける苦しさ
源氏物語を書き終え、賢子も内裏で働くことになった。まひろとしてはもう思い残すことはない、という思いなのかもしれない。
1人、旅に出ることを決める。「源氏物語」の作中に出てきた場所(ある意味、聖地巡礼的なことだろうか。作者だけど)大宰府やかつての宣孝が赴任していた場所、友・さわが暮らし一生を終えた場所。
それを道長と倫子に伝えるまひろ。道長も承知し、大宰府へ向かう船があるから乗っていくといい、とまで言う。
しかし、そのあと、まひろの房にやってきて御簾を下す。前回、急に倫子がやってきたのでそこに対する警戒心かもしれない。その様子をまひろがちょっと呆れてみているように見えるのは気のせいだろうか。
そして道長がまひろに言うのは「行くな」ということだ。旅になんか行くな、ずっと俺のそばにいろ。しかし、まひろは首を横に振る。「これ以上、手に入らぬお方のそばにいる意味とは」「ここらで違う人生も歩んでみたい」
結婚をし、子も成した。それでも、まひろの心の中にもずっと道長がいた。
まひろなりにいろんなものを手に入れたけれど、道長だけは手に入らない。まひろ自身も、自分の思いから解放されたかったのかもしれない。
ある意味、けじめをつけるように賢子が道長の子であることを告げた。驚きの表情を浮かべる道長。どうやら、本気で自分の子だとは気がついていなかったようだ。道長にとって衝撃の事実だっただろうけれど、それでもまひろに向かって発した言葉は「行くな」。前に進めない道長と、進もうとあがくまひろの対照的なシーンとも言えるかもしれない。
◆まひろの第二の人生は落ち着かない
まひろが旅立ち、道長はやがて出家を決意する。まひろがいない現世には未練がないと言っているようだ。倫子は止めるが、意志は固い。まひろを思う気持ちが強いのは良いことだが、「藤式部がいなくなったからですの?」と言わせてしまうのはさすがに夫失格ではないだろうか……。
道長は倫子が止める言葉も聞かず、出家をする。
もしかしたら、出家することで幾分、吹っ切れた部分はあるのかもしれない。その後の表情はかつての道長を彷彿とさせる。
一方、まひろは大宰府で周明(松下洸平)と再会していた。まひろが道長以外で心を惹かれた数少ない男性ではないだろうか。
「源氏物語」を書き終え、これからのまひろの人生というのは穏やかなものではないかと思ったが、まだまだ刺激の強い日々が続きそうだ。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ
◆粘る、三条天皇
目も見えづらい、耳も聞こえづらい。そんな中でも三条天皇は譲位を拒み続けた。本来なら、「道長(柄本佑)よ、無理をしてそんなに帝を引きずりおろそうとするなんてあなたも変わりましたね」などと視聴者側としても言いたくなるが、今の状況では三条天皇を支持する者はほとんどいない。
しかし、三条天皇は粘る。自分の姫皇子を道長の息子・頼通(渡邊圭祐)に嫁がせると言い出した。すでに頼通には妻がおり、この縁談がうまくまとまるとも思えない。が、帝の望みを拒むことはできない。道長は倫子(黒木華)と共に説得しようと試みるが、頑なだ。どうしても娶(めと)れというなら妻を連れて都を出る、と言う。
「藤原も、左大臣の嫡男であることも捨てて、ふたりきりで生きていく」
かつて、道長もまひろにそう言っていたことがあったな、と思い出してしまう。
道長は彰子(見上愛)に説得するように頭を下げるが、その表情は苦い。さらに「帝も左大臣も女子をなんだと思っているのか」と苦言を呈する。
たとえ、帝の姫皇子が嫁いだとて、頼通との間に子が生まれるとは限らない。彰子は過去の自分を重ね、説得には後ろ向きだ。
道長はそばに控えていたまひろ(吉高由里子)にも尋ねるが、「道長のように倫子や明子を等しく愛するということは難しい」と回答する。まあ、道長にそんなことができたのは、まひろがいたからなんだが。道長の場合は特別な女性以外はみんな一緒、という感覚に違いないので……。
結局、頼通は怨霊によって重病に冒されていると噂を流し、この婚姻を流すことに成功した。怨霊が憑いた者に自分の娘はやれない、というわけだ。
◆「もちづきの かけたることも」
やがて三条天皇が譲位、後一条天皇の即位、3人の娘たちはそれぞれ太皇太后、皇太后、中宮となり、栄華を極めているように見えた道長。
威子が中宮になった宴で、道長は「このよをば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることも なしと思へば」と歌を詠む。
貴族たちが聞けば、権力を全て手に入れた驕りたかぶった男の歌のように聞こえるだろう。
後日、公任(町田啓太)たちは「道長のあの歌はどういった意味だったのだろう」と話し合う。
栄華を極めた、と捉えかねないだろうが、道長がそんな歌を詠むはずがない、と口々に言う。この「光る君へ」ならではの道長像と言えるだろう。
ではどういう想いで詠んだのか……そんなの、まひろに向けて、に決まっている。歌を詠み、まひろに視線を向ける。そして、途中でインサートされるのは、道長とまひろが初めて肌を重ねた夜に見えた月。
たとえ、娘が妃となり、すべての権力を手に入れたとしても、道長の頭の中にはまひろのことでいっぱいなのだ。
◆手に入らない人を思い続ける苦しさ
源氏物語を書き終え、賢子も内裏で働くことになった。まひろとしてはもう思い残すことはない、という思いなのかもしれない。
1人、旅に出ることを決める。「源氏物語」の作中に出てきた場所(ある意味、聖地巡礼的なことだろうか。作者だけど)大宰府やかつての宣孝が赴任していた場所、友・さわが暮らし一生を終えた場所。
それを道長と倫子に伝えるまひろ。道長も承知し、大宰府へ向かう船があるから乗っていくといい、とまで言う。
しかし、そのあと、まひろの房にやってきて御簾を下す。前回、急に倫子がやってきたのでそこに対する警戒心かもしれない。その様子をまひろがちょっと呆れてみているように見えるのは気のせいだろうか。
そして道長がまひろに言うのは「行くな」ということだ。旅になんか行くな、ずっと俺のそばにいろ。しかし、まひろは首を横に振る。「これ以上、手に入らぬお方のそばにいる意味とは」「ここらで違う人生も歩んでみたい」
結婚をし、子も成した。それでも、まひろの心の中にもずっと道長がいた。
まひろなりにいろんなものを手に入れたけれど、道長だけは手に入らない。まひろ自身も、自分の思いから解放されたかったのかもしれない。
ある意味、けじめをつけるように賢子が道長の子であることを告げた。驚きの表情を浮かべる道長。どうやら、本気で自分の子だとは気がついていなかったようだ。道長にとって衝撃の事実だっただろうけれど、それでもまひろに向かって発した言葉は「行くな」。前に進めない道長と、進もうとあがくまひろの対照的なシーンとも言えるかもしれない。
◆まひろの第二の人生は落ち着かない
まひろが旅立ち、道長はやがて出家を決意する。まひろがいない現世には未練がないと言っているようだ。倫子は止めるが、意志は固い。まひろを思う気持ちが強いのは良いことだが、「藤式部がいなくなったからですの?」と言わせてしまうのはさすがに夫失格ではないだろうか……。
道長は倫子が止める言葉も聞かず、出家をする。
もしかしたら、出家することで幾分、吹っ切れた部分はあるのかもしれない。その後の表情はかつての道長を彷彿とさせる。
一方、まひろは大宰府で周明(松下洸平)と再会していた。まひろが道長以外で心を惹かれた数少ない男性ではないだろうか。
「源氏物語」を書き終え、これからのまひろの人生というのは穏やかなものではないかと思ったが、まだまだ刺激の強い日々が続きそうだ。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ