『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』。こんなドキッとするタイトルの書籍が刊行されました。著者は、イラストエッセイストでテレビやラジオでも活躍する犬山紙子さんです。
◆「性的同意」の大切さを子どものうちから教えたい
犬山さんは娘を育てている中で、自身が女性として感じてきた“痛み”を娘に体験させたくない!と思ったそうです。そのためにどうすればいいのか?を、研究者やアクティビストや当事者など10人と語り合ったのが同書です。
性被害、ルッキズム、仕事上の男女格差……様々なテーマが取り上げられている中で、今回は「性教育」、なかでも「性的同意」についての部分をご紹介します。
もちろん同意なく行為を無理じいする側が悪いのは当然ですが、嫌なときに「NOを言える」こともまた、人生に必須の能力。
犬山さんが、タレントのSHELLYさん、産婦人科専門医・稲葉可奈子さん、臨床心理士・みたらし加奈さんに話を聞きました(以下、同書より抜粋・再構成)。
◆少女時代、痴漢に遭っても我慢してしまった
犬山:「子ども時代に性教育をしっかり受けていたかった」と、私自身痛感しています。
私は中学1年生から電車通学で、例に漏れず痴漢に遭っていました。中学1年生は「ほんの子ども」です。それまでは親や周りの大人に子どもとして守られていたのに、そこから引っ張り出されて、無理やり性の対象、支配の対象にされてしまった。
あのとき、「自分の体は尊重されるべきもので、同意なしに触られていいものではないこと。そんなことがあれば、親や信頼できる大人に相談すること。被害に遭った人は何も悪くないこと。悲しいけれど、男女問わず子どもが性被害に遭うことはよくあること」と知っていたらと思うのです。
今、親になり、子どもが同じ思いをすることが本当に怖い。この先子どもが電車通学をすることがあると考えると、怖くて怖くてたまりません。でも、そのせいで子どもの自由がなくなることもおかしな話です。
いつでもそばにいて守り続けるわけにもいかないけれど、性被害からはどうしたって守りたい。万が一、遭ってしまったとしても、適切にケアしたい。子どもには、自分の心と体が尊く、そして他の人の心と体も尊いこと、それぞれの尊厳を守ることの大切さを知っていてほしい。
そのためには、どんなふうに性教育を始めて、どんなふうに教えてゆけばよいのでしょうか。
◆子どもへのハグだって「やめて」1回でやめる
私たちは、自分のNOに力があると思えているのでしょうか。
「同意を大切にしよう、してもらおう」、そう思えるためには、自分のNOに力があり、相手のNOを尊重することを経験しておかなければいけません。
SHELLY(タレント):娘たちに「あなたのNOには力があるんだよ」と教えるために、「やめて」は絶対2回言わせませんし、「やめてって1回言われたらやめるんだよ」と教えています。
たとえば、遊びでくすぐったりしますよね。そんなじゃれあいの中でも、子どもに「やめて」と言われたら絶対に、すぐに、やめます。子どもが「やめてって言っても大人はやめてくれないんだ」と感じたら、自分のNOには力がないと思わせてしまいます。
NOを尊重する保護者の行動が、子どもにとってはいずれNOを言うときの自信になるんです。
「親ですらハグするときに同意を取ってくれたのに、何? この人」って感じられる心の種を、今植えているんですよね。
私が若いとき、男の人に対してNOをあんまり言えなかったのは、「ここで嫌だと言ったら、あなたのことを嫌いって思ってると思われてしまう」と思ったから。だから、娘にはそれを伝えるコミュニケーション能力をプレゼントしたいんですよね。NOイコール嫌いではないということ。「あなたのことは本当に好きなんだよ。ただ、この行為は今はしたくない」と言葉で伝えるコミュニケーション能力をつけてあげることで、子どもを守りたいのです。
◆紅茶のたとえでわかる性的同意の基本
稲葉可奈子(産婦人科専門医):小さなときから、性的なことだけじゃなくて、友達と遊ぶときでも、「遊びに誘ったのにあの子は断ってきたから私のこと嫌いなんだ」とならないように教えていきたい。人それぞれ、やりたいとき、やりたくないとき、この遊びをしたいとき、したくないときがあるよね、ということを伝えていくのが大事だと思います。
そもそも、今の日本では、性行為をする前にちゃんと同意を取るものだという大前提の認識が、まだ浸透してないと思います。
性的同意については紅茶で喩えながらわかりやすく解説している動画「Tea Consent」があるので、それもおすすめです。
・あなたがお茶をいれたからといって、飲むかどうか決めるのは相手。
・最初、飲むと言っていても、途中で気が変わっていいし、途中でNOと言われたらそれを尊重しなければいけないよ。
・相手の意識がないときにお茶をいれてはだめだし、最初飲むと言っていても、途中で意識がなくなったらもちろん飲ませてはならないよ。
そんな内容が動画で語られています。嫌な人を無理に誘わないこと、自分の意思をちゃんと伝えることを教えていくことが重要です。
◆両親が対等な関係なのか、子どもは見ている
みたらし加奈(臨床心理士):私たち大人が思っているよりも、子どもは大人の関係性を見ています。たとえば両親がいるご家庭の場合、片方の親がどちらかを強くなじっていたり、小馬鹿にするような態度を見せたりしていると、子どもはそのパワーバランスをそのまま受け取ってしまうのです。そして、その不均衡な関係性を、自分自身に当てはめてしまうこともあります。
「自分もパートナーを強くなじってもいいんだ」とか「パートナーから強く言われても我慢しなきゃいけないんだ」というようなインプットになってしまうのです。
コミュニケーションのひとつひとつを子どもは敏感に察知しているので、日頃から保護者が、理不尽なことにNOと言えている姿、またそのNOが尊重されてる姿を見せてあげるのが、非常に大事だと思います。どうしてもそれが難しい場合、2人きりになったときに「本当なら尊重されるべきなんだよ」「あなたはNOと言っていいんだよ」と伝えるのも1つの手かなとは思います。
◆性的同意は、ふだんの生活と地続き
みたらし加奈:性的同意はセックスのときだけのものと思われがちですが、実は日常生活と地続きなのです。たとえば友達とランチに行くときに、「本当はパスタを食べたくないけれど、相手が食べたいと言ったから、とりあえず合わせてみた」、こういう積み重ねでNOと言いづらくなっていくのです。
性教育は、セックスのことだけを教えるというよりは、日頃からその子にとっての快、不快が尊重されることが大事だと教えてあげることや、NOと言いやすい環境を作ってあげることでもあります。
だから、たとえば子どもに恋人ができてその話を自分にしてくれたときに、「相手に対して、嫌なことは嫌って言ってもいいんだよ」「少しでも相手にモヤモヤしたり、言いにくいことがあったら、いつでも私に相談してきていいんだからね」と伝える。こういう関わりも性教育なのです。
◆NOと言われても不機嫌にならない大人でいること
犬山:保護者が学びつつ、その姿を見せることの重要性を感じます。パートナー同士でまずはNOと言い合えるようになる、そしてNOと言われても機嫌を悪くしない、尊重し合う姿を見せる。
「NOって言うけどあなたのことが嫌いって意味じゃないよ」「NOって言っていいんだよ。それで不機嫌にならないし、あなたの意見を尊重するし、NOって言われたから嫌いになったりしないからね」って語りかける。
保護者ができることがたくさんあります。
<文・イラスト/犬山紙子>
【犬山紙子】
1981年生まれ。エッセイスト、コメンテーター等としてTV出演も多数。著書に『私、子ども欲しいかもしれない。』『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』など。2014年に劔樹人さん(ベーシスト、漫画家)と結婚。長女の誕生を期に、2018年、児童虐待防止チーム #こどものいのちはこどものもの を発足。近著に『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』
@inuningen
@inuyamakamiko
◆「性的同意」の大切さを子どものうちから教えたい
犬山さんは娘を育てている中で、自身が女性として感じてきた“痛み”を娘に体験させたくない!と思ったそうです。そのためにどうすればいいのか?を、研究者やアクティビストや当事者など10人と語り合ったのが同書です。
性被害、ルッキズム、仕事上の男女格差……様々なテーマが取り上げられている中で、今回は「性教育」、なかでも「性的同意」についての部分をご紹介します。
もちろん同意なく行為を無理じいする側が悪いのは当然ですが、嫌なときに「NOを言える」こともまた、人生に必須の能力。
犬山さんが、タレントのSHELLYさん、産婦人科専門医・稲葉可奈子さん、臨床心理士・みたらし加奈さんに話を聞きました(以下、同書より抜粋・再構成)。
◆少女時代、痴漢に遭っても我慢してしまった
犬山:「子ども時代に性教育をしっかり受けていたかった」と、私自身痛感しています。
私は中学1年生から電車通学で、例に漏れず痴漢に遭っていました。中学1年生は「ほんの子ども」です。それまでは親や周りの大人に子どもとして守られていたのに、そこから引っ張り出されて、無理やり性の対象、支配の対象にされてしまった。
あのとき、「自分の体は尊重されるべきもので、同意なしに触られていいものではないこと。そんなことがあれば、親や信頼できる大人に相談すること。被害に遭った人は何も悪くないこと。悲しいけれど、男女問わず子どもが性被害に遭うことはよくあること」と知っていたらと思うのです。
今、親になり、子どもが同じ思いをすることが本当に怖い。この先子どもが電車通学をすることがあると考えると、怖くて怖くてたまりません。でも、そのせいで子どもの自由がなくなることもおかしな話です。
いつでもそばにいて守り続けるわけにもいかないけれど、性被害からはどうしたって守りたい。万が一、遭ってしまったとしても、適切にケアしたい。子どもには、自分の心と体が尊く、そして他の人の心と体も尊いこと、それぞれの尊厳を守ることの大切さを知っていてほしい。
そのためには、どんなふうに性教育を始めて、どんなふうに教えてゆけばよいのでしょうか。
◆子どもへのハグだって「やめて」1回でやめる
私たちは、自分のNOに力があると思えているのでしょうか。
「同意を大切にしよう、してもらおう」、そう思えるためには、自分のNOに力があり、相手のNOを尊重することを経験しておかなければいけません。
SHELLY(タレント):娘たちに「あなたのNOには力があるんだよ」と教えるために、「やめて」は絶対2回言わせませんし、「やめてって1回言われたらやめるんだよ」と教えています。
たとえば、遊びでくすぐったりしますよね。そんなじゃれあいの中でも、子どもに「やめて」と言われたら絶対に、すぐに、やめます。子どもが「やめてって言っても大人はやめてくれないんだ」と感じたら、自分のNOには力がないと思わせてしまいます。
NOを尊重する保護者の行動が、子どもにとってはいずれNOを言うときの自信になるんです。
「親ですらハグするときに同意を取ってくれたのに、何? この人」って感じられる心の種を、今植えているんですよね。
私が若いとき、男の人に対してNOをあんまり言えなかったのは、「ここで嫌だと言ったら、あなたのことを嫌いって思ってると思われてしまう」と思ったから。だから、娘にはそれを伝えるコミュニケーション能力をプレゼントしたいんですよね。NOイコール嫌いではないということ。「あなたのことは本当に好きなんだよ。ただ、この行為は今はしたくない」と言葉で伝えるコミュニケーション能力をつけてあげることで、子どもを守りたいのです。
◆紅茶のたとえでわかる性的同意の基本
稲葉可奈子(産婦人科専門医):小さなときから、性的なことだけじゃなくて、友達と遊ぶときでも、「遊びに誘ったのにあの子は断ってきたから私のこと嫌いなんだ」とならないように教えていきたい。人それぞれ、やりたいとき、やりたくないとき、この遊びをしたいとき、したくないときがあるよね、ということを伝えていくのが大事だと思います。
そもそも、今の日本では、性行為をする前にちゃんと同意を取るものだという大前提の認識が、まだ浸透してないと思います。
性的同意については紅茶で喩えながらわかりやすく解説している動画「Tea Consent」があるので、それもおすすめです。
・あなたがお茶をいれたからといって、飲むかどうか決めるのは相手。
・最初、飲むと言っていても、途中で気が変わっていいし、途中でNOと言われたらそれを尊重しなければいけないよ。
・相手の意識がないときにお茶をいれてはだめだし、最初飲むと言っていても、途中で意識がなくなったらもちろん飲ませてはならないよ。
そんな内容が動画で語られています。嫌な人を無理に誘わないこと、自分の意思をちゃんと伝えることを教えていくことが重要です。
◆両親が対等な関係なのか、子どもは見ている
みたらし加奈(臨床心理士):私たち大人が思っているよりも、子どもは大人の関係性を見ています。たとえば両親がいるご家庭の場合、片方の親がどちらかを強くなじっていたり、小馬鹿にするような態度を見せたりしていると、子どもはそのパワーバランスをそのまま受け取ってしまうのです。そして、その不均衡な関係性を、自分自身に当てはめてしまうこともあります。
「自分もパートナーを強くなじってもいいんだ」とか「パートナーから強く言われても我慢しなきゃいけないんだ」というようなインプットになってしまうのです。
コミュニケーションのひとつひとつを子どもは敏感に察知しているので、日頃から保護者が、理不尽なことにNOと言えている姿、またそのNOが尊重されてる姿を見せてあげるのが、非常に大事だと思います。どうしてもそれが難しい場合、2人きりになったときに「本当なら尊重されるべきなんだよ」「あなたはNOと言っていいんだよ」と伝えるのも1つの手かなとは思います。
◆性的同意は、ふだんの生活と地続き
みたらし加奈:性的同意はセックスのときだけのものと思われがちですが、実は日常生活と地続きなのです。たとえば友達とランチに行くときに、「本当はパスタを食べたくないけれど、相手が食べたいと言ったから、とりあえず合わせてみた」、こういう積み重ねでNOと言いづらくなっていくのです。
性教育は、セックスのことだけを教えるというよりは、日頃からその子にとっての快、不快が尊重されることが大事だと教えてあげることや、NOと言いやすい環境を作ってあげることでもあります。
だから、たとえば子どもに恋人ができてその話を自分にしてくれたときに、「相手に対して、嫌なことは嫌って言ってもいいんだよ」「少しでも相手にモヤモヤしたり、言いにくいことがあったら、いつでも私に相談してきていいんだからね」と伝える。こういう関わりも性教育なのです。
◆NOと言われても不機嫌にならない大人でいること
犬山:保護者が学びつつ、その姿を見せることの重要性を感じます。パートナー同士でまずはNOと言い合えるようになる、そしてNOと言われても機嫌を悪くしない、尊重し合う姿を見せる。
「NOって言うけどあなたのことが嫌いって意味じゃないよ」「NOって言っていいんだよ。それで不機嫌にならないし、あなたの意見を尊重するし、NOって言われたから嫌いになったりしないからね」って語りかける。
保護者ができることがたくさんあります。
<文・イラスト/犬山紙子>
【犬山紙子】
1981年生まれ。エッセイスト、コメンテーター等としてTV出演も多数。著書に『私、子ども欲しいかもしれない。』『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』など。2014年に劔樹人さん(ベーシスト、漫画家)と結婚。長女の誕生を期に、2018年、児童虐待防止チーム #こどものいのちはこどものもの を発足。近著に『女の子に生まれたこと、後悔してほしくないから』
@inuningen
@inuyamakamiko