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“自称・発達障害”の急増に精神科医が本音「自称する人が増えることは悪いことではない」

女子SPA! 2024年12月14日 8時45分

 発達障害とは、生まれつきの脳の性質や、その後の発達の偏りで起こる障害を指します。昨今、世代を問わずに多くの人々の関心を集めています。

 現役の精神科医として活動しつつ、YouTubeでは登録者が63万人を超えるチャンネル『精神科医がこころの病気を解説するCh』を運営、精神科診療のカウンセリングを気軽に体験できる不思議な4つのストーリーと解説からなる新刊『夜のこころの診療所』が話題の益田裕介先生にお話を聞きました。

「少々きつい表現かもしれませんが、“発達障害”は、部分的な知的障害ないし、知的能力の低下を示します。

 人とのコミュニケーションや、変化に対応することが苦手な自閉スペクトラム症(ASD)や、集中力や衝動性を抑えられない、注意欠如・多動症(ADHD)。読み書きや算数など、特定の学業の一部に関して知的能力が低下している限局性学習症(SLD)の3つの総称になります。

 これらは併発していることも多いんです」

◆「自称・発達障害」が増えている?

 取材を進めていると、少々気になる声も聞こえてきました。発達障害の当事者(ADHD)の女性のお話です。

「発達障害そのものが世間に浸透するのはいいけれど、あまりにも“自称・発達障害”が増えているような気がします。ブームというか、なんというか……。

 本来なら病院に行って診断されるものなのに、ネットで、まるで性格診断テストや面白い心理テストみたいに扱われているのが少し気になるんです」(30代・女性)

 実際にSNSを見てみると、X(旧・ツイッター)やTikTokでは、一部のインフルエンサーや“自称・当事者たち”が、「〇個あてはまったら、あなたも発達障害かも?」「こんな症状は要注意!」など、症例とともにポップに診断を呼びかけているような動画も目立ちます。

 また、一部では自分のミスを「俺(私)ADHDだから(笑)」とまるで免罪符のように使うこともあるのだとか。

 冗談っぽく使うことが多いようですが、聞いていて面白いものではありませんね。

◆複雑で難解な正しい知識は、あとからついてくる

 昨今の“発達障害ブーム”ともいえるこの現象、現役精神科医の益田先生はどのようにとらえているのでしょうか。

「確かに、発達障害が一般的になるにつれ、ミスの言い訳に発達障害を自称する人は増えている気がします。そしてそんな彼らの大半は、病院で診断されたわけではなく、単に流行語の一種として発達障害という言葉を利用しているようです」

 自称する以外にも、勝手に相手が“そう”だと決めつけるケースもあるようです。

「SNSを中心に、不祥事を起こした芸能人をADHDだと決めつけるような投稿があったり、または境界知能(知的障害ほどではないが、集団の中では相対的に下位層になってしまう人たち)と決めつける投稿もあります。

 これらは差別や偏見につながりますが、新しい言葉が社会に定着する前には、通過しなければならない現象なのかもしれません。

 つまり、だれでも使用できるので誤用されつつ広がり、使用されていく中で、複雑で難解な正しい知識があとからついてくるということです」

◆言葉が浸透すれば声を上げやすくなる

 言葉が広まる過程を経ている、ということなのですね。

「そうですね。でもだからこそ、僕たち医療従事者が正しい知識の啓発を続けなきゃいけない。それがとても重要だし、大切です。

 それに僕は、発達障害を自称する人が増えることはそれほど悪いことだとは思っていないんです。診断数自体も増えているし、だからこそ『自分も診断されていないけれど困ってる』『まだ病院には行けていない』という人々も増えている。

 言葉が浸透することで、今まで声を上げられなかった人たちが上げやすくなっている、そんな気がします」

◆発達障害は時代が生み出した?

 しかし世の中には、昨今の発達障害の過剰診断を問題視する声も少なくありません。

「今、発達障害に悩む方がなぜこんなに増えているのというと、ひとつは“時代の変化”が原因だと思います。技術革新によって、社会や産業の構造の変化が進んで、人間は単純作業から頭脳労働が中心になった。

 こうした社会ではどうしても高い知的能力が求められるので、集団の中で相対的に低い人は、劣等感を抱きやすかったり、集団から疎外されたり、労働市場から締め出されてしまうことが増えています」

◆社会が求める能力のハードルが高くなった

 社会が私たちに求める、そもそもの能力というハードルが高くなったということでしょうか。

「そうです。それだけ社会の中で、知的能力の多様さや、低いと生きにくいことについて、理解や対処がまだまだ追いついていないのでしょう。臨床現場から僕が発達障害や知的障害のある人たちを見ていると、この頭脳労働中心の社会では、彼らの活躍の場は年々減り続けています」

「職場のリーダーたちも、社会制度としてどのように彼らをフォローしたらいいのかわからないように感じます。発達障害の人々が、定型の(発達障害を伴わない)人よりも生きづらいのは確かです。その苦しみや困難さを『過剰診断だ』と一蹴するのは、違うのではないでしょうか」

【益田裕介】

早稲田メンタルクリニック院長。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。防衛医大卒。YouTubeチャンネル「精神科医がこころの病気を解説するCh」を運営し、登録者数60万人を超える。著書に『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科に行ってみた!』

【青山ゆずこ】
漫画家・ライター。雑誌の記者として活動しつつ、認知症に向き合う祖父母と25歳から同居。著書に、約7年間の在宅介護を綴ったノンフィクション漫画『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)、精神科診療のなぞに迫る『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科医に行ってみた!』(扶桑社)。介護経験を踏まえ、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちをテーマに取材を進めている。Twitter:@yuzubird

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