日常に潜む“命にかかわるピンチ”と、そこからの具体的な生還方法を漫画にした『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』(大塚志郎著/宝島社刊)。子どもが巻き込まれやすい事故とその対処法が詳細に描かれた内容はSNSでも拡散され、「本当の意味で役に立つ」「いざというときに使えそう」と話題です。
注意喚起だけではなく、どうしたら危険が回避できるのか? まで言及されている本書。子どもの事故の原因は「危ないことを知らないこと」や「経験不足」だけでなく、同調圧力によるものも多いことが分かります。
もともとは作者の大塚志郎さんが「子どもが事故や事件に巻き込まれて亡くなるニュースが増えている中、なんとか対策ができないか」とブログや自費出版で発表していた漫画。それが、1冊の本としてまとめ直され商業出版されたことでも注目を浴びています。
これまで3回にわたり、作者で漫画家の大塚志郎さんに「子どもの事故とその予防」について取材してきました。今回は担当編集の土岐光沙子さんに、出版の経緯や本書の見どころを聞きました。
◆子どもに人気の「ピンチ」から、「生還」まで踏み込んだ
――『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』を、書籍にしようと思ったきっかけを教えてください。
土岐さん(以下、土岐)「作者の大塚さんがご自身のSNSで漫画を配信しているのを見て、書籍化のお声がけをさせていただきました。漫画には実用的な知識がたくさん盛り込まれていて、ピンチのシチュエーションが具体的に絞られているため、とても役立つと思ったんです。
最近の児童書では、『ピンチ』や『危険』をテーマにしたものがブームになっていて、『大ピンチ図鑑』もとても有名ですよね。危険なものや状況は、小学生の子どもの興味を引く内容です。『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』はさらに一歩進んで、危機からどう生き延びるか、命を守る方法に特化している点が特徴です。
子どもたちが楽しく読みながら、自分の命を守る知識を身につけられる内容になっています。全国の子どもたちにぜひ読んでほしいという思いで、書籍化しました」
◆すべての漢字に「ふりがな」をつけている理由
――書籍化にあたってこだわった点などはありますか?
土岐「漢字が多い漫画ですが、子どもにも読んでほしいという思いから、すべての漢字にふりがなをつけています。小学校低学年のお子さんでも読めるように、印刷所の方にも少し無理をお願いして実現しました。すべての漢字にふりがなをつけるのは大変な作業だったと思います。でも、そのおかげで小学生以上のお子さんであれば、自分で読める内容になっています。
また、本の最初には図鑑形式で特に危ないシチュエーションをイラストで説明しています。子どもが楽しく危険なシチュエーションを学べるように工夫をしています。身の回りにある危険を、漫画でも図解でも理解してもらえればと思います」
◆漫画を読みながら危険なシーンを擬似体験して
――学べる漫画ですが、漫画としてストーリーがおもしろかったです。大人も子どもも楽しめそうです。
土岐「幅広い年齢層に読んでもらえるようにしています。大人にも子どもにも、自分ごととして読んでもらえる内容になっています。小学生から高校生までが手に取りやすいテイストにするため、ポップすぎず硬すぎないバランスをとるのが難しかったです。でも、大塚さんのイラストは子どもから大人まで楽しめるタッチで、内容もわかりやすいので、多くの方に読んでいただけています。
身の回りの危険を学べるのはもちろんですが、純粋に漫画としての面白さも楽しんでいただけたらと思います。親子で読みましたという声もたくさん届いていて、反響の大きさを実感しています」
――おすすめの読み方があれば教えてください。
土岐「やはり、漫画を読みながら危険なシーンを擬似体験してほしいなと思いますね。頭の中で『川は危ない』と分かっていても、具体的にどう危ないかまではなかなかイメージできないと思うんです。漫画にもありますが、川に入った時に足元が崩れて溺れる危険性があることなど、私自身も全く知りませんでした。『こういうこともあるんだ!』と事前に危険を知っていただきたいです。
川や海の事故などの話は、子どもを持つ親御さんやレジャーが好きな大人の方にはぜひ読んでほしいですね。今回は川や海での事故を多めに取り扱っていますが、次回はキャンプなどの『山編』を企画しています。キャンプなどで山に行く機会がある方も多いと思うので、山の中での危険なシチュエーションをお伝えできればと考えています」
◆「あり得ないような事件や事故」が実際に起きている
――漫画には溺れる危険以外にも、誘拐や毒入りのジュースの“危険”の例もありました。
土岐「車が停まっていて『車の下に猫が入り込んじゃったから、一緒に探してくれる?』と知らない人にお願いされ、しゃがんで猫を探そうとしたらそのまま車に入れられたという事例ですね。あれも実際にあったケースです。
昔はテレビで誘拐事件のニュースが流れることがありました。誘拐が普通にあったと言うと変ですが、よく耳にする話ではありました。でも最近は誘拐事件が少なくなり、子どもたちが警戒しづらい状況なのかなと思います。危ないシチュエーションをイメージしにくいのかもしれません。猫を探そうとしたら誘拐されるなんて、想像もできないですよね。
本文でも主人公が『俺は男だから誘拐の心配なんてないよ』と言っていますが、性別や年齢に関係なく狙われる時は狙われます。実際に事件も起きています。ですから、こうした日常で起こりうる事例を通して、日頃から危機感を持ってもらえればと思います」
◆まずは事例を知り、対処法をシミュレーションしてみよう
『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』は、今後『山編』に加え、『地震編』や『火災編』なども予定しているとのことです。
身の回りにある危険が気軽に学べて「もしもの場合の生存確率を上げられる」本書。気負わずに、まずは身の回りで起きやすいトラブルを知ること、またトラブルが起きた時の対処法をシミュレーションすることから始めてみてはいかがでしょうか。
【大塚志郎】
漫画家。2002年『ビッグコミックスピリッツ増刊 新僧』にて『漢とは何ぞや』でデビュー。商業誌以外にもSNSや自費出版漫画などで幅広く活動中。著書に『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』(宝島社)、『漫画アシスタントの日常』(竹書房)など。
Xでも漫画を公開中。X:@shiro_otsuka
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB
注意喚起だけではなく、どうしたら危険が回避できるのか? まで言及されている本書。子どもの事故の原因は「危ないことを知らないこと」や「経験不足」だけでなく、同調圧力によるものも多いことが分かります。
もともとは作者の大塚志郎さんが「子どもが事故や事件に巻き込まれて亡くなるニュースが増えている中、なんとか対策ができないか」とブログや自費出版で発表していた漫画。それが、1冊の本としてまとめ直され商業出版されたことでも注目を浴びています。
これまで3回にわたり、作者で漫画家の大塚志郎さんに「子どもの事故とその予防」について取材してきました。今回は担当編集の土岐光沙子さんに、出版の経緯や本書の見どころを聞きました。
◆子どもに人気の「ピンチ」から、「生還」まで踏み込んだ
――『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』を、書籍にしようと思ったきっかけを教えてください。
土岐さん(以下、土岐)「作者の大塚さんがご自身のSNSで漫画を配信しているのを見て、書籍化のお声がけをさせていただきました。漫画には実用的な知識がたくさん盛り込まれていて、ピンチのシチュエーションが具体的に絞られているため、とても役立つと思ったんです。
最近の児童書では、『ピンチ』や『危険』をテーマにしたものがブームになっていて、『大ピンチ図鑑』もとても有名ですよね。危険なものや状況は、小学生の子どもの興味を引く内容です。『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』はさらに一歩進んで、危機からどう生き延びるか、命を守る方法に特化している点が特徴です。
子どもたちが楽しく読みながら、自分の命を守る知識を身につけられる内容になっています。全国の子どもたちにぜひ読んでほしいという思いで、書籍化しました」
◆すべての漢字に「ふりがな」をつけている理由
――書籍化にあたってこだわった点などはありますか?
土岐「漢字が多い漫画ですが、子どもにも読んでほしいという思いから、すべての漢字にふりがなをつけています。小学校低学年のお子さんでも読めるように、印刷所の方にも少し無理をお願いして実現しました。すべての漢字にふりがなをつけるのは大変な作業だったと思います。でも、そのおかげで小学生以上のお子さんであれば、自分で読める内容になっています。
また、本の最初には図鑑形式で特に危ないシチュエーションをイラストで説明しています。子どもが楽しく危険なシチュエーションを学べるように工夫をしています。身の回りにある危険を、漫画でも図解でも理解してもらえればと思います」
◆漫画を読みながら危険なシーンを擬似体験して
――学べる漫画ですが、漫画としてストーリーがおもしろかったです。大人も子どもも楽しめそうです。
土岐「幅広い年齢層に読んでもらえるようにしています。大人にも子どもにも、自分ごととして読んでもらえる内容になっています。小学生から高校生までが手に取りやすいテイストにするため、ポップすぎず硬すぎないバランスをとるのが難しかったです。でも、大塚さんのイラストは子どもから大人まで楽しめるタッチで、内容もわかりやすいので、多くの方に読んでいただけています。
身の回りの危険を学べるのはもちろんですが、純粋に漫画としての面白さも楽しんでいただけたらと思います。親子で読みましたという声もたくさん届いていて、反響の大きさを実感しています」
――おすすめの読み方があれば教えてください。
土岐「やはり、漫画を読みながら危険なシーンを擬似体験してほしいなと思いますね。頭の中で『川は危ない』と分かっていても、具体的にどう危ないかまではなかなかイメージできないと思うんです。漫画にもありますが、川に入った時に足元が崩れて溺れる危険性があることなど、私自身も全く知りませんでした。『こういうこともあるんだ!』と事前に危険を知っていただきたいです。
川や海の事故などの話は、子どもを持つ親御さんやレジャーが好きな大人の方にはぜひ読んでほしいですね。今回は川や海での事故を多めに取り扱っていますが、次回はキャンプなどの『山編』を企画しています。キャンプなどで山に行く機会がある方も多いと思うので、山の中での危険なシチュエーションをお伝えできればと考えています」
◆「あり得ないような事件や事故」が実際に起きている
――漫画には溺れる危険以外にも、誘拐や毒入りのジュースの“危険”の例もありました。
土岐「車が停まっていて『車の下に猫が入り込んじゃったから、一緒に探してくれる?』と知らない人にお願いされ、しゃがんで猫を探そうとしたらそのまま車に入れられたという事例ですね。あれも実際にあったケースです。
昔はテレビで誘拐事件のニュースが流れることがありました。誘拐が普通にあったと言うと変ですが、よく耳にする話ではありました。でも最近は誘拐事件が少なくなり、子どもたちが警戒しづらい状況なのかなと思います。危ないシチュエーションをイメージしにくいのかもしれません。猫を探そうとしたら誘拐されるなんて、想像もできないですよね。
本文でも主人公が『俺は男だから誘拐の心配なんてないよ』と言っていますが、性別や年齢に関係なく狙われる時は狙われます。実際に事件も起きています。ですから、こうした日常で起こりうる事例を通して、日頃から危機感を持ってもらえればと思います」
◆まずは事例を知り、対処法をシミュレーションしてみよう
『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』は、今後『山編』に加え、『地震編』や『火災編』なども予定しているとのことです。
身の回りにある危険が気軽に学べて「もしもの場合の生存確率を上げられる」本書。気負わずに、まずは身の回りで起きやすいトラブルを知ること、またトラブルが起きた時の対処法をシミュレーションすることから始めてみてはいかがでしょうか。
【大塚志郎】
漫画家。2002年『ビッグコミックスピリッツ増刊 新僧』にて『漢とは何ぞや』でデビュー。商業誌以外にもSNSや自費出版漫画などで幅広く活動中。著書に『マンガでわかる! 死亡ピンチからの生還図鑑』(宝島社)、『漫画アシスタントの日常』(竹書房)など。
Xでも漫画を公開中。X:@shiro_otsuka
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB