幼いまひろと道長の出会いから始まった物語が結末を迎えた。
夫婦という形にならなくても、ずっと繋がり続けていたふたりの恋はまわりから観たら身勝手なものだったのかもしれない。まひろと道長は、幸せだったのか。
◆大変な恋路であった
道長(柄本佑)との仲を倫子(黒木華)に問われたまひろ(吉高由里子)。問い詰められるのかと思いきや、倫子はまひろに道長の妾になってくれないかと打診する。そうすれば、道長も元気でいてくれるのではないかと。
このタイミングで妾になるのならば!! とっくにそうなっている!!! と思わず叫んでしまうが、まひろは静かに道長とのこれまでについて話し始める。
初めて出会ったのは9歳のとき。
互いのことは何も知らなかった。しかし、会う約束をしていた日に母が殺された。
母を殺したのは道兼。道長の兄だった。
それを知ってもなお、結ばれたふたり。
死んだ友の遺体を一緒に葬った。
互いを支える者は互いしかいなかった。
倫子はどんな気持ちで彰子(見上愛)のそばにいたのかと問う。倫子からすると、夫は最初から自分に心はなく、娘はまひろに奪われた。憎くてたまらない、と感じていてもおかしくはない。
個人的には、なのだけれど、まひろも倫子も幸せであって、幸せでもなかった人生なのかもしれない、と思う。
愛する人に愛され続けたまひろ。でも夫婦になることはなかった。
愛する人に必要とされ続けた倫子。でも、愛する人に心から愛されはしなかった。
それをどう捉えるかは本人次第だけれど、ふたりはどのように感じていたら。
ただ、倫子の立場だとしたら、馬鹿にして! と思うかもしれない。そうはならないのは、倫子が出来た人間だからなのか。
◆道長とまひろとはなんだったのか
愛とはなんだろう、と思う。
娘の藤原嬉子(瀧七海)、藤原妍子(倉沢杏菜)を立て続けに亡くした道長は病を患う。
倫子はまひろを呼んだ。
殿のために最後にできることはなにかと考えていたら、まひろの顔が浮かんだと言う倫子。
まひろは道長を看病し、物語を聞かせる。
「続きはまた明日」と言いながら紡ぐ物語。明日、続きを聞かせてあげるから、生きていて。そんな切ないメッセージにも聞こえる。
大切な人を奪われ続けていたまひろが、一番愛した人を見送るための儀式のようだ。
離れて、近づいて、ずっとそばにいたふたりの人生。
でも、共に過ごすことを誰かに許されたのは初めてかもしれない。最終話だというのに、こんなふたりを見るのは初めてだ。
どこか反発し合って、素直になれなかったふたりの心が本当に寄り添っているのが感じられた。
それは、まひろと道長がこれまで積み重ねてきた時間があるからこそ生まれる空気。でも、こんな今際にならないと互いの気持ちを素直に伝えることができないのも……いや、宣孝の死に際に会えなかったことを考えると、まひろにとっては幸せなことなのかもしれない。
最期のとき。
布団に横たわり、左手だけを横に伸ばしていた道長。訪れた倫子がその手に触れ、動きを止める。
その動きと表情で道長が亡くなっているのが分かった。
道長の表情はとても穏やかだった。きっとまひろが看取ったのだろう。
それを伝えなかったのは倫子への配慮かもしれない。
◆倫子の愛の深さ
最初から一貫して、倫子はできる女性だった。
まひろを含め、周りの人にかける言葉が配慮に満ちている。長い物語の中で、「どうしてそんなことを言うの?」と思うようなシーンが、倫子に関してはなかった気がする。
倫子は道長を心から愛していたし、道長がまひろへの想いを隠し切れなくなっても責めるようなことはなかった。全ては道長を失いたくなかったから飲み込んだのだろう。
道長が臥せってからも、道長のためを思って、まひろを呼び、助けを求める。
道長に少しでも長く生きてほしい、という思うがあるからにせよ……いやあああ嫌すぎないか? ずっとそばで支え続けていた自分ではなく、まひろがそばにいたほうが、道長は長くこの世に留めることができると冷静に判断したということだ。
素晴らしい女性だし、賢い人だ。道長がトップに上り詰めたのも倫子あってこそ。ある種、まひろとは別の女性としての生き方を見せてくれたと言えるだろう。
◆人の人生とは
道長が旅立ったあとに描かれるそれぞれの表情が豊かだった。道長が愛されていたことが伝わるし、道長が己の目標を達成するために一歩一歩、努力を重ねていたのが分かる。
道長と同じ日に旅立った行成(渡辺大知)。心から道長を愛し、尽くした人だった。
道長を偲び、歌を詠み、献杯する公任(町田啓太)と斉信(金田哲)。
日記をしたためながら、涙をこぼす実資(秋山竜次)。
人はひとりでは生きられず、他人の想いが重なって人生は彩られる。亡くなったときに、誰かの人生から少し色が失われる。その喪失感を人は悲しみと共に、また自分の人生を積み重ねる。
政治的な面とともに、道長とまひろの恋路を描いた物語。
ドラマチックにも見えるけれど、それぞれが必死に生き、誰かを真摯に愛し、誰かの人生に影響を与え続ける姿が印象的な物語だった。
そんな人の営みに心を惹かれた人も多いのではないだろうか。
最終話のタイトルは「物語の先に」。
まひろの旅路はまだ続き、そして時代は変わっていく。
「嵐が来るわ」――今もまだ、その物語の先にある。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ
夫婦という形にならなくても、ずっと繋がり続けていたふたりの恋はまわりから観たら身勝手なものだったのかもしれない。まひろと道長は、幸せだったのか。
◆大変な恋路であった
道長(柄本佑)との仲を倫子(黒木華)に問われたまひろ(吉高由里子)。問い詰められるのかと思いきや、倫子はまひろに道長の妾になってくれないかと打診する。そうすれば、道長も元気でいてくれるのではないかと。
このタイミングで妾になるのならば!! とっくにそうなっている!!! と思わず叫んでしまうが、まひろは静かに道長とのこれまでについて話し始める。
初めて出会ったのは9歳のとき。
互いのことは何も知らなかった。しかし、会う約束をしていた日に母が殺された。
母を殺したのは道兼。道長の兄だった。
それを知ってもなお、結ばれたふたり。
死んだ友の遺体を一緒に葬った。
互いを支える者は互いしかいなかった。
倫子はどんな気持ちで彰子(見上愛)のそばにいたのかと問う。倫子からすると、夫は最初から自分に心はなく、娘はまひろに奪われた。憎くてたまらない、と感じていてもおかしくはない。
個人的には、なのだけれど、まひろも倫子も幸せであって、幸せでもなかった人生なのかもしれない、と思う。
愛する人に愛され続けたまひろ。でも夫婦になることはなかった。
愛する人に必要とされ続けた倫子。でも、愛する人に心から愛されはしなかった。
それをどう捉えるかは本人次第だけれど、ふたりはどのように感じていたら。
ただ、倫子の立場だとしたら、馬鹿にして! と思うかもしれない。そうはならないのは、倫子が出来た人間だからなのか。
◆道長とまひろとはなんだったのか
愛とはなんだろう、と思う。
娘の藤原嬉子(瀧七海)、藤原妍子(倉沢杏菜)を立て続けに亡くした道長は病を患う。
倫子はまひろを呼んだ。
殿のために最後にできることはなにかと考えていたら、まひろの顔が浮かんだと言う倫子。
まひろは道長を看病し、物語を聞かせる。
「続きはまた明日」と言いながら紡ぐ物語。明日、続きを聞かせてあげるから、生きていて。そんな切ないメッセージにも聞こえる。
大切な人を奪われ続けていたまひろが、一番愛した人を見送るための儀式のようだ。
離れて、近づいて、ずっとそばにいたふたりの人生。
でも、共に過ごすことを誰かに許されたのは初めてかもしれない。最終話だというのに、こんなふたりを見るのは初めてだ。
どこか反発し合って、素直になれなかったふたりの心が本当に寄り添っているのが感じられた。
それは、まひろと道長がこれまで積み重ねてきた時間があるからこそ生まれる空気。でも、こんな今際にならないと互いの気持ちを素直に伝えることができないのも……いや、宣孝の死に際に会えなかったことを考えると、まひろにとっては幸せなことなのかもしれない。
最期のとき。
布団に横たわり、左手だけを横に伸ばしていた道長。訪れた倫子がその手に触れ、動きを止める。
その動きと表情で道長が亡くなっているのが分かった。
道長の表情はとても穏やかだった。きっとまひろが看取ったのだろう。
それを伝えなかったのは倫子への配慮かもしれない。
◆倫子の愛の深さ
最初から一貫して、倫子はできる女性だった。
まひろを含め、周りの人にかける言葉が配慮に満ちている。長い物語の中で、「どうしてそんなことを言うの?」と思うようなシーンが、倫子に関してはなかった気がする。
倫子は道長を心から愛していたし、道長がまひろへの想いを隠し切れなくなっても責めるようなことはなかった。全ては道長を失いたくなかったから飲み込んだのだろう。
道長が臥せってからも、道長のためを思って、まひろを呼び、助けを求める。
道長に少しでも長く生きてほしい、という思うがあるからにせよ……いやあああ嫌すぎないか? ずっとそばで支え続けていた自分ではなく、まひろがそばにいたほうが、道長は長くこの世に留めることができると冷静に判断したということだ。
素晴らしい女性だし、賢い人だ。道長がトップに上り詰めたのも倫子あってこそ。ある種、まひろとは別の女性としての生き方を見せてくれたと言えるだろう。
◆人の人生とは
道長が旅立ったあとに描かれるそれぞれの表情が豊かだった。道長が愛されていたことが伝わるし、道長が己の目標を達成するために一歩一歩、努力を重ねていたのが分かる。
道長と同じ日に旅立った行成(渡辺大知)。心から道長を愛し、尽くした人だった。
道長を偲び、歌を詠み、献杯する公任(町田啓太)と斉信(金田哲)。
日記をしたためながら、涙をこぼす実資(秋山竜次)。
人はひとりでは生きられず、他人の想いが重なって人生は彩られる。亡くなったときに、誰かの人生から少し色が失われる。その喪失感を人は悲しみと共に、また自分の人生を積み重ねる。
政治的な面とともに、道長とまひろの恋路を描いた物語。
ドラマチックにも見えるけれど、それぞれが必死に生き、誰かを真摯に愛し、誰かの人生に影響を与え続ける姿が印象的な物語だった。
そんな人の営みに心を惹かれた人も多いのではないだろうか。
最終話のタイトルは「物語の先に」。
まひろの旅路はまだ続き、そして時代は変わっていく。
「嵐が来るわ」――今もまだ、その物語の先にある。
<文/ふくだりょうこ>
【ふくだりょうこ】
大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ