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子どもの奨学金を使い込んだ母。家族をバラバラにした元凶は?

女子SPA! 2024年12月25日 15時44分

―連載「沼の話を聞いてみた」―

マルチ2世ーマルチ商法会社の販売員となった親を持つ自分たちをこう自称するのは、朝比ライオさん(以下、ライオさん)。

ライオさんは母のマルチ沼によって、家族が崩壊した経験から任意団体「マルチ被害をなくす会」を立ち上げた人物である。

今回は、ライオさん母がマルチ商法にハマった経緯や、その実害について聞いていく。

ライオさんが思い出す実家の光景は、必ずサプリメントが添えてある食卓だ。さらに、家の中にある日用品をいま思い返すと、ほとんどがマルチ商法の製品だった。

◆家のなかはマルチ商品だらけ

「母がこだわっていたサプリとプロテインのほか、特徴的な調理道具や浄水器、空気清浄機、シャンプー、洗剤など。

大人になってからマルチ会社のカタログを見たら、全製品コンプリートしてるんじゃないかという勢いで、あらゆる製品が我が家にはありました」

ライオさんが小学校高学年になるくらいまでは、“サプリやプロテインがまずい”、それから“謎のデモンストレーションの練習につき合わされる”程度の認識で、大きな不自由は感じていなかった。

コップの水にマヨネーズを入れると……ほら、溶けない! でも、わが社のマヨネーズはこんなに水と混ざり合う! というデモンストレーションを、マジックショーの練習のような気持ちで見つめていたという。

◆最初はまだ、浅いところにいた

ちなみにそれを聞いた筆者は最初、意味がわからずライオさんに尋ねた。

「水溶けると何がいいんですか?」

「体内に栄養が吸収されやすいってことじゃないんでしょうか……」

わかったようなわからないような。微妙なデモンストレーションである(本来はもっと「すごーい!」と思わせる説明があるのだろうが)。

話を戻そう。

ライオさん当時が当時、不自由を感じていなかったのはきっと、母がマルチ沼の“浅い部分”にいたからかもしれない。

マルチ商法のカルト的なマインドコントロールがより深まっていったように感じるのは、ライオさんが11歳のころである。

「母がマルチ商法に深入りしていったきっかけはおそらく、海外で開催される視察に招待されたことです。本社や製造工業などを訪問する過程で、スイッチが入ったように思えます」

本社に招かれる会員。そこには、“選ばれしメンバーだけが行くことができる”いう特別感があるようだ。

さらに、東京ドームのような大きな会場でのイベントも、モチベーションを底上げする。

トップクラスの販売員が大スターのように歓声を浴びながら、成功に至った華やかなストーリーや、涙を誘う苦労話を展開するのがお約束の大集会である。

◆驚くべき行動力

自分もそのポジションを目指したい! こんなに仲間がいる! と奮起させられる会員たちの姿が目に浮かぶ。

「そして、マルチ商法でよくある“夢リスト”です。それで母は、『自分の両親と暮らすための、夢の二世帯住宅』を思い描くようになりました」

夢リストとは、活動のモチベーションを維持して、やる気を一層高めるために、夢や願望を書き出させるというワークである。

目標が明確になったライオさん母は、さっそくリストに書いたことを実行に移し、二世帯住宅を建てた。

そして、そのローン返済のために借金を背負うことになった。

◆マルチでは稼げない現実

本人が思い描くプランでは、よりマルチ商法に熱を入れ、しっかり稼ぎ、ローンの返済をするつもりだったのだろう。しかしそれはあくまで“予定”であり、無謀な計画でもあった。

「母は販売員活動のほかにも仕事を持っていましたが、家のローンに加えて、安くはない商品の継続購入。とても出費に見合う収入ではありませんでした。

そうしているうちにタイミング悪く、父の会社が倒産しました。父をマルチ活動に引き入れようと連れまわした結果、離婚。家計が破綻していきました」

ローン返済のために、しわ寄せがライオさん兄弟へと行くようになったという。

当時ライオさんは大学生。教科書などの大きな買い物が発生すると、「お父さんに払ってもらうから金額を教えて」と、母から指示が飛ぶ。

その代金が振り込まれると、すぐに母が引き出し、返済にあてるという流れができていた。

◆兄と弟が負担した総額は

「まるで自分が、金の仲介役になったかのような気持ちでしたね。僕らのお年玉や奨学金の一部も、ローンの返済に消えています。

当時兄はすでに社会人で、母に毎月7万円の送金をしていました。僕も大学を卒業してからは、たびたび母に無心されるようになり、言われるたびに10万円を送っていました」

そのときライオさんはすでに家を出ていたので、「金で母と直接のかかわりを避けられるなら」という気持ちからである。

なお、姉は子ども(母にとっての孫)を巻き込んだトラブルにより、母と絶縁している。

◆結婚を機に、考え直す

「しかしその送金も、僕の結婚によってむずかしくなりました。自分の収入は、家族の共有財産ですからね。妻にも、おかしさを指摘されました。

そんな折、会社の上司に『家族がこじれていて』という話を少ししたんですよ。すると、会社の制度でカウンセリングを無料で受けられると教えられました。そこで、夫婦で受けてみることにしたんです」

これまでの経緯を打ち明け、カウンセラーから話を聞くなかで「それはあなたの母親が悪い」という言葉が出た。

それを聞いて、ライオさんは号泣してしまったという。

「はっきりと母を否定されたことが何よりもびっくりでしたし、うれしかったことを鮮明に覚えています。いまでもそうですが、子どもには親を否定することができない。しかし、この状況を客観的に聞いた人にそう言ってもらえたことで、救われた気持ちになりました。

それまでは人に話しても、なかなかわかってもらえない苦しさもありましたし、いっそのこと、手切れ金として母にまとまった金を渡せばいいのかとか、思い詰めていたりもしたので」

◆夢の住宅、売却計画

いまの状況をなんとかする必要がある。カウンセリングを通じて意識をあらため、ライオさんは兄とともに動き出した。

「兄とミーティングを重ね、無心の原因となっている二世帯住宅を売らせることを目標に、情報を共有し始めました。誰に総額いくら借りているのか、ローンのシュミレーションはどうなっているのか。

母に内緒で査定してもらったり、売却したあとの移転先も、いまの仕事や友人環境に影響がないように近くの場所で、趣味の農業もできるような庭があり……本人の意向を聞かないまでも理解を得られるような場所を、真剣に考えました。

売って、買って、引っ越して、さらに本人が希望するような家具もそろえたとしても、おつりがくる。そんなところまで、お膳立てをしました」

◆親戚一同が大集合

兄と弟で「母がこういう態度に出たら、こう切り返す」というQA集も作り、お互いのマルチに対するスタンスや当日の流れ、役割分担、タイムスケジュールも文書にまとめる。

ミーティングの内容は、すべて議事録に残した。

「母が頭の上がらない親戚にも協力してもらい、僕が帰省するタイミングで『売る』という言質(げんち)をとるべく、作戦を練りましたね」

詰められた母が暴走して包丁を持ち出すことまでを想定し、親族にも協力を呼び掛け、その集まりで勝負に出た。まるで、スリリングな契約に向かう、サスペンスドラマのようだ。

家族間でこれをやらねばならぬ心労は、一体どれだけのものだろう。それでも自分自身の家族の生活もかかっているのだから、やらないわけにはいかない。

そうして“夢の二世帯住宅”は、計画どおり売却された

◆家族を想う気持ちから

ライオさん兄弟の心理的・金銭的負担は当然、問題である。しかし、母の境遇に目を向けても悲しいものがある。

ライオさん母がマルチ商法にのめり込んだ原動力は、”家族のため”なのだから。

「マルチ商法で成功することによって、家族の助けになりたいんですよね、母は。さらにその根底にあるのはおそらく、祖父母に承認されたいという欲求でしょう。

離婚して、自分の親に心配をかけてしまったという負い目もあるかもしれません。よく、『祖父母の健康は、自分がサプリで管理してきた!』というようなことを話しています。

僕から見れば、祖父母なりに健康を気遣って生活しているので、サプリのおかげというのは違うと思うんですけど」

◆マルチ商法の無責任な煽り

そうして“家族のために”と健康食品を含めた高価な日用品を買い込み、求められていないのに、なかば押し付けるような形で配り歩く母。

その結果、トラブルになる。

悲しいすれ違いである。

「この間も、2万円ほどする磁気ネックレスを渡されました。借金の原因となった“夢の二世帯住宅”だって、結局、肝心の祖父母は住んでいません。

僕も、親を悪く言いたいわけではないんです。マルチ商法が販売員の想いを暴走させ、家族が壊れる苦しさを知ってもらえればと思っています」

ライオさんのケースのように、マルチ商法は、販売員自身の欲望だけをあおるのではない点が、やっかいである。

◆美談を信じて

「家族の皆が幸せになる販売システム」「環境改善にもつながる」といった話を信じた正義感から、広める人もめずらしくないのだ。

ネットワークビジネス(マルチ商法の別名)の専門誌を開けば、そのような理想が星の数ほど語られている。

「家族を想う気持ちが原動力」が理解できるぶん、悩みはより複雑になっていく。マルチ商法会員の家族を持つ、苦しい沼の話である。

<取材・文/山田ノジル>

【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru

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