「マルチクリエイター」の肩書きをもつ、こっちのけんとが2024年5月にリリースした6thシングル「はいよろこんで」は、現在までにYouTubeのMV再生回数が1億4000万回、SNSを含む楽曲総再生回数が150億回を超えている。この数字は、日々リアルタイムで更新され続けている。
リリース前から楽曲に対するたしかな自信はあったものの、ここまでの大ヒットになるとは本人も想像していなかったという。トラックタイトルが、新語・流行語大賞にノミネートされ、12月31日に放送される第75回NHK紅白歌合戦では、「はいよろこんで」を引っ提げての初出場が決まっている。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、紅白出場発表の記者会見(2024年11月19日)あとの初インタビュー(前後編)として、こっちのけんとさんに聞いた。
◆真っ白な空間での“一発録り”
――音楽関係者の友人から「すごいアーティストがいる」と連絡をもらい、おすすめされたTHE FIRST TAKEの「はいよろこんで」歌唱動画を見ました。こんなに美麗な歌声の人がいるんだと思いました。
こっちのけんと:ありがとうございます。とんでもありません(笑)。
――冒頭で「笑っちゃうぐらい緊張する」と言っていて、やはりあの収録空間には、特別な緊張感がありますか?
こっちのけんと:自分がTHE FIRST TAKEの収録をしているという現実感覚もありますし、真っ白な空間内で精神が限界に達する直前、やっと歌い始めるみたいな(笑)。いつも以上に緊張していたからこその演奏ができたと思います。
――一発録りの経験はTHE FIRST TAKEが初めてでしたか?
こっちのけんと:初めてでした。僕の曲は基本的に間奏などが短めで、ツルッと一人で歌うには大変です。THE FIRST TAKEの収録だとどうなるんだろうと想像していました。
◆「人生をかけて目指すべきものが一気に手元にきた感覚」
――THE FIRST TAKEでも収録した「はいよろこんで」は、毎日検索するごとに総再生回数が日々更新されています。そうした大ヒットを受けて、トラックタイトルが新語・流行語大賞にノミネートされました。5月にリリースした段階で、これほどのヒットナンバーなるという確信はありましたか?
こっちのけんと:ここまでいいものができたという自信はあったので、ある程度リアクションがあるだろうとは思っていました。でもまさかここまで再生回数が伸びる曲になるとは思っていませんでした。
――今の実感はどうですか?
こっちのけんと:ここにきて人生をかけて目指すべきものが一気に手元にきた感覚です。5月からずっと突っ走ってきたので、あとはご褒美を食べるだけという実感はあります(笑)。
◆「死ぬな!」と「はいよろこんで」は、つながっている作品
――2022年リリースの2ndシングル「死ぬな!」のバイラルヒットも自分の中での勢いになりました?
こっちのけんと:そうですね、なんとなく方向性が定まりました。僕が作る楽曲は、自分の人生を元にしたものです。誰かに向けて歌いながら、プラス自分に向けて届けています。
だから自分に向けて歌いながら、その後ろにたくさんの人がいるイメージです。こっちのけんととして何が正しい行いなのか、2022年のバイラルヒットは、ゆっくり考えだした時期でした。
――それは楽曲のテーマも含めてですか?
こっちのけんと:そうです。生きるとか死ぬとか、命に関わること。精神的な部分として、普段から考えているものを音楽にすると届けやすいと思いました。双極性障害の僕の内面的なところからこそ言えることがあると思って模索していました。
――曲を通して内面性を開示、提示していく中で、リスナーとの対話になった感触がありますか?
こっちのけんと:あります。YouTubeのコメント欄には、同じような悩みを持った方たちがさまざまに書き込んでくれます。それはどこか集会所というか相談所みたいになっています。そういう形を見ていると本当に作って良かった、自分の行いがきっかけになって誰かが元気になっているんだなと実感して自分の力になっていますね。
――具体的にどんなコメントがありましたか?
こっちのけんと:「死ぬな!」のときには、現在進行形で自殺を考えている方から相談がありました。自殺の仕方も考えていると書いてあり、それを自分が救うというよりは、同じ経験をしていた僕も自分の話をしてやり取りをしました。その方は今も生きてらっしゃいます。
――生きてこそ、また「はいよろこんで」のようなヒット曲を聴くことができますね。
こっちのけんと:そうです。「死ぬな!」では、SNSを通じて連絡やダイレクトメッセージが何百件もきていた現状がありました。それに対してとりあえず「死ぬな」と伝えても無理難題です。じゃあ今後どうやって生きればいいんだと思ってしまう。「はいよろこんで」でそれをさらに補足しました。自分の中ではつながっている作品という感覚があります。
◆YouTubeで長文の「概要を書き始めた経緯」
――YouTubeのコメント欄が集会所になっているということですが、概要を読むと「日々SOSを出す癖をつけたいと思い制作しました」など、制作意図が長文で明記されています。概要にここまでの注釈をつけるアーティストはめずらしいと思ったのですが……。
こっちのけんと:「はいよろこんで」は、聴き心地でただただ楽しめる曲にしようという目標がありました。でもただのノリだけだとそれは僕がやりたいことと違うなと思ったのも事実です。僕の経験をしっかり明記したほうが曲をより楽しめると思いました。その上で気づいてくれる方に向けて、プラスアルファになることがあればと思い、概要を書き始めた経緯があります。
――集会所としての役割ですね。デジタルリリースの時代でも、ひとつのライナーノートを読んでいるような。
こっちのけんと:たしかにアナログ的でもあります。純粋に曲だけを楽しんでいただくことはもちろんですが、元はといえば、さまざまな事情を抱えた方が連絡を下さり、そうした自分のうしろにいる方たちに向けた曲作りです。過剰に情報を入れて蛇足気味になったとしても、伝わりきらないところを補完したいなと思いました。
◆みんな大嫌いな月曜日を乗り切る方法
――概要の文章とともにかねひさ和哉さんが手掛けたアニメーションのミュージックビデオもユニークです。
こっちのけんと:僕が勝手にかねひささんのファンなんです(笑)。最初は実写で考えていたんですが、いいアイデアがなくて何がいいかなと考えていたら、不意にかねひささんの絵が浮かびました。それでダメ元でお願いしたら、こころよく引き受けてくださいました。
――サザエさん症候群がテーマのひとつに盛り込まれていますね。
こっちのけんと:ストーリー性があり、一人の人間の中で起こっているメロディーを描くミュージックビデオにしたいなと思ったので、かねひささんにはサザエさん風味で、馴染みのある映像をリクエストしました。さらにサザエさん症候群なら、僕の中では一番身近な抑うつ状態のテーマを表現できるのではないかなと思いました。
――『ちびまる子ちゃん』のあとに『サザエさん』の放送があり、他局ですが2017年まで放送されていた『報道ステーション SUNDAY』までくると……。
こっちのけんと:ワハハ。そうなんですよ、土日のあとの現実がきちうゃんですよ(笑)。
――みんな大嫌い月曜日を乗り切る方法はありますか(笑)?
こっちのけんと:僕は逆に日曜日から仕事モードなんです(笑)。昔、サラリーマン時代、土曜日は休んで、日曜日は月曜日の準備日という教育の会社だったからです。それが体質的に合っていたのかもしれません。
でも不思議なんですよね。『ちびまる子ちゃん』も『サザエさん』も日常的な映像なのに、見ていると非日常を感じる。そういうギャップがある映像を目指したところはあります。
――それによって現実の月曜日嫌いがちょっとだけ忘れられるというか。
こっちのけんと:そうですそうです。ちょっとふわっと浮いたようになればいいなと思っていました。
◆「チームのみんな」に感謝した紅白会見
――実は今日は、紅白の出場発表会見あと、最初のインタビューの場なんです。会見でのコメントが印象的でした。単純に初出場が嬉しいではなく、「チーム」での出場について誠実に言葉をつむがれていました。初出場アーティストの鑑のような会見だったと思います。
こっちのけんと:優等生ぶりたかったところがあったと思います(笑)。ですが、現在のレーベルに所属したことの感謝でいっぱいです。それまでは、楽曲制作や映像制作、SNS投稿を全部一人でやっていました。好きなものを作っていたのですが、あまりうまくいかず、これだと広がらないなぁと悩んでいた時期がありました。
それが人の力をお借りすると、ここまで自分のやりたいことをマックスで見せられるようになる。チームのみんなのおかげだなと身にしみて感じたんです。自分で営業に行っていたところを代わりに行ってもらえたり、今まで一人でやっていたからこそ感じられるチームのありがたさを会見の場では感じていました。
――紅白本番では、いろんな気持ちが込み上げてきそうですね。
こっちのけんと:そうなんですよ。会見でも話しましたが、紅白は自分へのご褒美でもあるし、チームのみんなに対する親孝行みたいな場としてお借りできると感じていました。僕の病気のことでたくさん迷惑をかけた家族に対しても同様に恩返しがやっとできました。
――会見では今後の目標について聞かれ、「人のために歌い続けることは続けていきたい」と答えていました。YouTubeのコメント欄の集会所としての役割もそうですが、「人のため」が常に不変の目標ですか?
こっちのけんと:人のためと言いつつ、“カッコ、自分も含めての”人という感覚も変わらずあります。サラリーマン時代は歌を歌うことをやめていた時期でした。精神が崩れてしまったことがトラウマとしてあるので、歌を歌うことを続けて、その上で何か意味をなす社会的な意義になればなと思います。人に向けた音楽を続けることは、自分の人生において一番価値があることだと思って続けたいです。
◆紅白は「背伸びする自分を引き算して挑めたら」
――会社員時代に背伸びした自分を「あっちのけんと」だと感じたことから、現在のアーティスト名を名乗るようになったんですよね。紅白を経て、今度はこっちでもあっちでもない“そっち”側へ……という未来も見えてくるんでしょうか?
こっちのけんと:そうですね。元は素の自分を出すために、こっちのけんとと名乗りだしました。でもここまで人目に当たるとどうしても背伸びしている自分がいる。そこを精査して、引き算をして紅白に挑めたらなと思っています。
――紅白関連で確かめておきたいことがあります。2019年の紅白にお兄さんの菅田将暉さんが出場したとき、RADWINPSのバックコーラスをやっていたのは本当ですか?
こっちのけんと:本当です(笑)。あのときはアカペラの全国大会で優勝していたつながりでお声がけいただいたと思ういます。200人か300人くらいのコーラスの中のひとりでした。あの経験が僕の中では初めての歌の仕事という感覚だったので、まさか今年の紅白でアーティストとして出場することになるとは思いませんでした(笑)。
<取材・文/加賀谷健 撮影/unica>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
リリース前から楽曲に対するたしかな自信はあったものの、ここまでの大ヒットになるとは本人も想像していなかったという。トラックタイトルが、新語・流行語大賞にノミネートされ、12月31日に放送される第75回NHK紅白歌合戦では、「はいよろこんで」を引っ提げての初出場が決まっている。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、紅白出場発表の記者会見(2024年11月19日)あとの初インタビュー(前後編)として、こっちのけんとさんに聞いた。
◆真っ白な空間での“一発録り”
――音楽関係者の友人から「すごいアーティストがいる」と連絡をもらい、おすすめされたTHE FIRST TAKEの「はいよろこんで」歌唱動画を見ました。こんなに美麗な歌声の人がいるんだと思いました。
こっちのけんと:ありがとうございます。とんでもありません(笑)。
――冒頭で「笑っちゃうぐらい緊張する」と言っていて、やはりあの収録空間には、特別な緊張感がありますか?
こっちのけんと:自分がTHE FIRST TAKEの収録をしているという現実感覚もありますし、真っ白な空間内で精神が限界に達する直前、やっと歌い始めるみたいな(笑)。いつも以上に緊張していたからこその演奏ができたと思います。
――一発録りの経験はTHE FIRST TAKEが初めてでしたか?
こっちのけんと:初めてでした。僕の曲は基本的に間奏などが短めで、ツルッと一人で歌うには大変です。THE FIRST TAKEの収録だとどうなるんだろうと想像していました。
◆「人生をかけて目指すべきものが一気に手元にきた感覚」
――THE FIRST TAKEでも収録した「はいよろこんで」は、毎日検索するごとに総再生回数が日々更新されています。そうした大ヒットを受けて、トラックタイトルが新語・流行語大賞にノミネートされました。5月にリリースした段階で、これほどのヒットナンバーなるという確信はありましたか?
こっちのけんと:ここまでいいものができたという自信はあったので、ある程度リアクションがあるだろうとは思っていました。でもまさかここまで再生回数が伸びる曲になるとは思っていませんでした。
――今の実感はどうですか?
こっちのけんと:ここにきて人生をかけて目指すべきものが一気に手元にきた感覚です。5月からずっと突っ走ってきたので、あとはご褒美を食べるだけという実感はあります(笑)。
◆「死ぬな!」と「はいよろこんで」は、つながっている作品
――2022年リリースの2ndシングル「死ぬな!」のバイラルヒットも自分の中での勢いになりました?
こっちのけんと:そうですね、なんとなく方向性が定まりました。僕が作る楽曲は、自分の人生を元にしたものです。誰かに向けて歌いながら、プラス自分に向けて届けています。
だから自分に向けて歌いながら、その後ろにたくさんの人がいるイメージです。こっちのけんととして何が正しい行いなのか、2022年のバイラルヒットは、ゆっくり考えだした時期でした。
――それは楽曲のテーマも含めてですか?
こっちのけんと:そうです。生きるとか死ぬとか、命に関わること。精神的な部分として、普段から考えているものを音楽にすると届けやすいと思いました。双極性障害の僕の内面的なところからこそ言えることがあると思って模索していました。
――曲を通して内面性を開示、提示していく中で、リスナーとの対話になった感触がありますか?
こっちのけんと:あります。YouTubeのコメント欄には、同じような悩みを持った方たちがさまざまに書き込んでくれます。それはどこか集会所というか相談所みたいになっています。そういう形を見ていると本当に作って良かった、自分の行いがきっかけになって誰かが元気になっているんだなと実感して自分の力になっていますね。
――具体的にどんなコメントがありましたか?
こっちのけんと:「死ぬな!」のときには、現在進行形で自殺を考えている方から相談がありました。自殺の仕方も考えていると書いてあり、それを自分が救うというよりは、同じ経験をしていた僕も自分の話をしてやり取りをしました。その方は今も生きてらっしゃいます。
――生きてこそ、また「はいよろこんで」のようなヒット曲を聴くことができますね。
こっちのけんと:そうです。「死ぬな!」では、SNSを通じて連絡やダイレクトメッセージが何百件もきていた現状がありました。それに対してとりあえず「死ぬな」と伝えても無理難題です。じゃあ今後どうやって生きればいいんだと思ってしまう。「はいよろこんで」でそれをさらに補足しました。自分の中ではつながっている作品という感覚があります。
◆YouTubeで長文の「概要を書き始めた経緯」
――YouTubeのコメント欄が集会所になっているということですが、概要を読むと「日々SOSを出す癖をつけたいと思い制作しました」など、制作意図が長文で明記されています。概要にここまでの注釈をつけるアーティストはめずらしいと思ったのですが……。
こっちのけんと:「はいよろこんで」は、聴き心地でただただ楽しめる曲にしようという目標がありました。でもただのノリだけだとそれは僕がやりたいことと違うなと思ったのも事実です。僕の経験をしっかり明記したほうが曲をより楽しめると思いました。その上で気づいてくれる方に向けて、プラスアルファになることがあればと思い、概要を書き始めた経緯があります。
――集会所としての役割ですね。デジタルリリースの時代でも、ひとつのライナーノートを読んでいるような。
こっちのけんと:たしかにアナログ的でもあります。純粋に曲だけを楽しんでいただくことはもちろんですが、元はといえば、さまざまな事情を抱えた方が連絡を下さり、そうした自分のうしろにいる方たちに向けた曲作りです。過剰に情報を入れて蛇足気味になったとしても、伝わりきらないところを補完したいなと思いました。
◆みんな大嫌いな月曜日を乗り切る方法
――概要の文章とともにかねひさ和哉さんが手掛けたアニメーションのミュージックビデオもユニークです。
こっちのけんと:僕が勝手にかねひささんのファンなんです(笑)。最初は実写で考えていたんですが、いいアイデアがなくて何がいいかなと考えていたら、不意にかねひささんの絵が浮かびました。それでダメ元でお願いしたら、こころよく引き受けてくださいました。
――サザエさん症候群がテーマのひとつに盛り込まれていますね。
こっちのけんと:ストーリー性があり、一人の人間の中で起こっているメロディーを描くミュージックビデオにしたいなと思ったので、かねひささんにはサザエさん風味で、馴染みのある映像をリクエストしました。さらにサザエさん症候群なら、僕の中では一番身近な抑うつ状態のテーマを表現できるのではないかなと思いました。
――『ちびまる子ちゃん』のあとに『サザエさん』の放送があり、他局ですが2017年まで放送されていた『報道ステーション SUNDAY』までくると……。
こっちのけんと:ワハハ。そうなんですよ、土日のあとの現実がきちうゃんですよ(笑)。
――みんな大嫌い月曜日を乗り切る方法はありますか(笑)?
こっちのけんと:僕は逆に日曜日から仕事モードなんです(笑)。昔、サラリーマン時代、土曜日は休んで、日曜日は月曜日の準備日という教育の会社だったからです。それが体質的に合っていたのかもしれません。
でも不思議なんですよね。『ちびまる子ちゃん』も『サザエさん』も日常的な映像なのに、見ていると非日常を感じる。そういうギャップがある映像を目指したところはあります。
――それによって現実の月曜日嫌いがちょっとだけ忘れられるというか。
こっちのけんと:そうですそうです。ちょっとふわっと浮いたようになればいいなと思っていました。
◆「チームのみんな」に感謝した紅白会見
――実は今日は、紅白の出場発表会見あと、最初のインタビューの場なんです。会見でのコメントが印象的でした。単純に初出場が嬉しいではなく、「チーム」での出場について誠実に言葉をつむがれていました。初出場アーティストの鑑のような会見だったと思います。
こっちのけんと:優等生ぶりたかったところがあったと思います(笑)。ですが、現在のレーベルに所属したことの感謝でいっぱいです。それまでは、楽曲制作や映像制作、SNS投稿を全部一人でやっていました。好きなものを作っていたのですが、あまりうまくいかず、これだと広がらないなぁと悩んでいた時期がありました。
それが人の力をお借りすると、ここまで自分のやりたいことをマックスで見せられるようになる。チームのみんなのおかげだなと身にしみて感じたんです。自分で営業に行っていたところを代わりに行ってもらえたり、今まで一人でやっていたからこそ感じられるチームのありがたさを会見の場では感じていました。
――紅白本番では、いろんな気持ちが込み上げてきそうですね。
こっちのけんと:そうなんですよ。会見でも話しましたが、紅白は自分へのご褒美でもあるし、チームのみんなに対する親孝行みたいな場としてお借りできると感じていました。僕の病気のことでたくさん迷惑をかけた家族に対しても同様に恩返しがやっとできました。
――会見では今後の目標について聞かれ、「人のために歌い続けることは続けていきたい」と答えていました。YouTubeのコメント欄の集会所としての役割もそうですが、「人のため」が常に不変の目標ですか?
こっちのけんと:人のためと言いつつ、“カッコ、自分も含めての”人という感覚も変わらずあります。サラリーマン時代は歌を歌うことをやめていた時期でした。精神が崩れてしまったことがトラウマとしてあるので、歌を歌うことを続けて、その上で何か意味をなす社会的な意義になればなと思います。人に向けた音楽を続けることは、自分の人生において一番価値があることだと思って続けたいです。
◆紅白は「背伸びする自分を引き算して挑めたら」
――会社員時代に背伸びした自分を「あっちのけんと」だと感じたことから、現在のアーティスト名を名乗るようになったんですよね。紅白を経て、今度はこっちでもあっちでもない“そっち”側へ……という未来も見えてくるんでしょうか?
こっちのけんと:そうですね。元は素の自分を出すために、こっちのけんとと名乗りだしました。でもここまで人目に当たるとどうしても背伸びしている自分がいる。そこを精査して、引き算をして紅白に挑めたらなと思っています。
――紅白関連で確かめておきたいことがあります。2019年の紅白にお兄さんの菅田将暉さんが出場したとき、RADWINPSのバックコーラスをやっていたのは本当ですか?
こっちのけんと:本当です(笑)。あのときはアカペラの全国大会で優勝していたつながりでお声がけいただいたと思ういます。200人か300人くらいのコーラスの中のひとりでした。あの経験が僕の中では初めての歌の仕事という感覚だったので、まさか今年の紅白でアーティストとして出場することになるとは思いませんでした(笑)。
<取材・文/加賀谷健 撮影/unica>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu