YouTubeでのMV再生回数1億4000万回以上、SNSを含む楽曲総再生回数150億回を日々更新しているヒット曲「はいよろこんで」を引っ提げ、2024年12月31日放送の第75回NHK紅白歌合戦にこっちのけんとが初出場する。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、紅白放送を前にこっちのけんとさんに前後編の特別インタビューを行った。
後編では、兄・菅田将暉の出演作品を観て「兄になだめられる自分を見ている感覚になった」という弟ならではの映画体験など、マルチクリエイターのルーツについて聞いた。
◆「ジャンルとしてアカペラを聴いていた」
――音楽的ルーツについて聞いていけたらと思います。大学のアカペラサークルで、ディズニーナンバーをカバーしていたそうですが、どんな曲を聴いて育ちましたか?
こっちのけんと:小さい頃はあまり音楽を聴いていませんでした。『ハモネプリーグ』(フジテレビ)という番組を見て、アカペラから音楽に入ったんです。番組では、ジブリの曲やアニソンをカバーされている方などさまざまでした。そこから原曲を聴いて、アカペラになるとこんなに面白くなるんだと気づきました。僕はジャンルとしてアカペラを聴いていました。
――それで大学からアカペラをやるようになったんですね。
こっちのけんと:そうです。それまでアカペラを実際にやった経験はありませんでした。ただ高校のとき、得意の歌を生かして軽音バンド演奏を文化祭で披露していました。人前で歌を披露していいんだという許可証を得た感覚があり、大学からもっとやってみたいなと思いました。
――そこから「はいよろこんで」のような大ヒットにつながるという。
こっちのけんと:本当に夢のようです(笑)。アカペラは、音楽的に飛び道具的な立ち位置だと思っています。僕は普段音楽を聴かなかったけれど、アカペラがあったから音楽が好きになれた。同じような人が増えたらいいなと思います。
音楽に詳しくないからこそ、できるメロディライン、あるいは自由なコード進行の曲ができることもあると思うんです。「はいよろこんで」は、そうした意味でどんな世代にも聴きやすく、子どもにも聴かれる曲になっているのかなと思っています。
――今はアカペラをやることはありますか?
こっちのけんと:あまりないんですが、やりたいですね。アカペラは、歌がうまい人が集まればいいというものでもありません。それぞれパートのスペシャリストがいて、その人とどれだけ付き添ってきたかで声色の寄せ方みたいなものが違います。
今後アカペラをやるとするなら、新しいグループを作るのではなく、大学時代に4年間一緒にやっていたメンバーをゲストで呼んで共演したいみたいですね。
◆兄・菅田将暉と「お互いに認識していると思う」こと
――1stシングル「Tiny」はお兄さんである菅田将暉さんのことを歌った曲です。これはさまざまなインタビューの場で必ず聞かれていることだと思いますが、同じアーティストとして菅田さんはどういう存在ですか?
こっちのけんと:とても尊敬しています。僕ら兄弟の特性を勝手に分析してみるなら、僕はもともと歌がちょっと得意だったからできているタイプ。兄は得意かというとたぶん不得意。なのに、好きだから極められたというタイプだと思うんです。僕はボイトレに行ったこともなければ、音楽を学んだ経験もない。兄の音楽には絶対に辿り着けない。それをお互いに認識していると思います。
兄は誰にも真似できない努力の先で出せる熱い歌があります。僕は歌うことが得意だからこその内容の濃さと冷たさみたいなものをあわせもっている。アーティストとしての兄をヒントにしつつ、でも真似したらダメだなという感覚があります。
――主演映画『共喰い』(2013年)の青山真治監督が菅田さんに放った音楽的なアドバイスが、菅田さんの俳優人生を変えた言葉として有名ですよね。「お前の芝居はまだ1/4拍子なんだよ。ミュージシャンは1/16まで考えなきゃいけない」と。
こっちのけんと:ありましたね! 僕はその言葉を、細かく裏拍を感じなければならないということだと解釈しています。アカペラでたとえると、アカペラはリズム隊が楽器でもなければ、クリップも耳から鳴っていません。みんなで音を感じなくてはならない中で、表だけで感じると絶対にズレてしまう。だから、もっと細かく感じることを繰り返していました。青山監督から兄へのアドバイスで、そうか演技も同じなんだと思いました。
――青山監督にとっては大学の先輩である黒沢清監督の『Cloud クラウド』に主演した菅田将暉さんは今年の名演のひとつだと思います。個人的には、以前黒沢監督の現場で美術スタッフをやっていた経験があり、まさか青山監督作の代表的な俳優である菅田さんが黒沢組に出演したということが感動的でした。
こっちのけんと:えっ、黒沢組のスタッフをやられていたんですか(笑)。面白いつながりですね。そうですね、兄にとって青山監督は大切な存在でしたから。
◆「精神的な病気を受け入れる最後の一押し」になった映画作品
――映画俳優としての菅田さんをどのように見ていますか?
こっちのけんと:兄が俳優ではなかったら、ここまで映画を見ていませんでした。兄が出演している作品は、ちゃんと心打つものがある。特に僕にも刺さるものが多く、そのおかげでインプットの幅が広がっています。存在としてただただありがたくて(笑)。
――お兄さんが出演する映画に限らず、好きな映画を教えてください。
こっちのけんと:それでいうと、兄の作品になりますが、『銀河鉄道の父』(2023年)という作品です。兄の役柄が、僕が楽曲制作に集中し過ぎちゃっているときの感覚にすごく似ていて。自分の思考や感情が暴走して泣きじゃくったり、自分って客観的に見たらこんな感じかと(笑)。
でもだからこそ作れた作品でもあるので、自分はこれでいいのかもしれない。そう思えました。自分の精神的な病気を受け入れる最後の一押しだったなと思います。
◆「兄になだめられる自分を見ている感覚になってくる」
――映画が直接的なインスピレーションになるというよりは、自分の内面との対話なのですね。
こっちのけんと:そうです。これも兄の出演作ですが、ハガキ職人の話である『笑いのカイブツ』(2024年)という映画が好きです。主人公のハガキ職人も僕の暴走してる感じに似ています(笑)。
お笑いが好き過ぎるがゆえに周りを敵視する。兄がそれをなだめる役だったんです。それを見るとなんか本当に兄になだめられる自分を見ている感覚になってくる(笑)。兄の出演している作品きっかけで自分を客観視できることが多かったですね。
――スクリーン越しにお兄さんの眼差しを感じるわけですね(笑)。
こっちのけんと:そうです。ボロ泣きです。ハンカチ持っていってびしょびしょで帰ってきます(笑)。
――すごいですね。それは弟にしかできない映画体験ですね。『Cloud クラウド』はどうでしたか? ある意味、黒沢監督の演出が自由に暴走している映画ですが。
こっちのけんと:(笑)。純粋にサスペンスというのか、黒沢監督特有のホラーの怖さもありながら、なのに滑稽さもあるという。そんなわけないだろという状況が起こっているのに、見せ方は怖い。でもあっけなさもやっぱりある。
実写なのか漫画的なのか。その塩梅が面白かったです。結果、その面白さはコメディーではないかと。そのあたりが黒沢監督らしさなのかと勝手に考えています。とても好きな作品です。
◆今後目指していきたいのは“攻めた表現”
――黒沢監督は相対性理論の「FLASHBACK」を演出していますね。黒沢監督が演出したこっちのけんとさんのミュージックビデオが見たいです(笑)!
こっちのけんと:そうでしたね、ひたすら俯瞰の構図で(笑)。もし撮っていただくことになったら、どんな映像になるんでしょう(笑)。『Cloud クラウド』の最後の不気味なシチュエーションのようになってしまうのか。
――黒沢監督が観客をフィクション世界に誘導するスクリーンプロセスが使用されていた場面ですね。
こっちのけんと:急にです(笑)。ハッピーエンドでもないし、不思議だなと思いましたが、あぁそれでいいんだと。自分はどこかを整え過ぎる癖があるので、それをいい意味で悪目立ちさせるというか「なんだったんだあれ」というのをやってもいいんだと思えました。
見たこともない形を見たことない色味で、不気味なのか気持ちいいのかわからない、あの感じ。偶然でしかできないことをちゃんと計算で出していますよね。個人的に今後はそういうところも目指して攻めた表現にしていきたいと思います。
<取材・文/加賀谷健 撮影/unica>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、紅白放送を前にこっちのけんとさんに前後編の特別インタビューを行った。
後編では、兄・菅田将暉の出演作品を観て「兄になだめられる自分を見ている感覚になった」という弟ならではの映画体験など、マルチクリエイターのルーツについて聞いた。
◆「ジャンルとしてアカペラを聴いていた」
――音楽的ルーツについて聞いていけたらと思います。大学のアカペラサークルで、ディズニーナンバーをカバーしていたそうですが、どんな曲を聴いて育ちましたか?
こっちのけんと:小さい頃はあまり音楽を聴いていませんでした。『ハモネプリーグ』(フジテレビ)という番組を見て、アカペラから音楽に入ったんです。番組では、ジブリの曲やアニソンをカバーされている方などさまざまでした。そこから原曲を聴いて、アカペラになるとこんなに面白くなるんだと気づきました。僕はジャンルとしてアカペラを聴いていました。
――それで大学からアカペラをやるようになったんですね。
こっちのけんと:そうです。それまでアカペラを実際にやった経験はありませんでした。ただ高校のとき、得意の歌を生かして軽音バンド演奏を文化祭で披露していました。人前で歌を披露していいんだという許可証を得た感覚があり、大学からもっとやってみたいなと思いました。
――そこから「はいよろこんで」のような大ヒットにつながるという。
こっちのけんと:本当に夢のようです(笑)。アカペラは、音楽的に飛び道具的な立ち位置だと思っています。僕は普段音楽を聴かなかったけれど、アカペラがあったから音楽が好きになれた。同じような人が増えたらいいなと思います。
音楽に詳しくないからこそ、できるメロディライン、あるいは自由なコード進行の曲ができることもあると思うんです。「はいよろこんで」は、そうした意味でどんな世代にも聴きやすく、子どもにも聴かれる曲になっているのかなと思っています。
――今はアカペラをやることはありますか?
こっちのけんと:あまりないんですが、やりたいですね。アカペラは、歌がうまい人が集まればいいというものでもありません。それぞれパートのスペシャリストがいて、その人とどれだけ付き添ってきたかで声色の寄せ方みたいなものが違います。
今後アカペラをやるとするなら、新しいグループを作るのではなく、大学時代に4年間一緒にやっていたメンバーをゲストで呼んで共演したいみたいですね。
◆兄・菅田将暉と「お互いに認識していると思う」こと
――1stシングル「Tiny」はお兄さんである菅田将暉さんのことを歌った曲です。これはさまざまなインタビューの場で必ず聞かれていることだと思いますが、同じアーティストとして菅田さんはどういう存在ですか?
こっちのけんと:とても尊敬しています。僕ら兄弟の特性を勝手に分析してみるなら、僕はもともと歌がちょっと得意だったからできているタイプ。兄は得意かというとたぶん不得意。なのに、好きだから極められたというタイプだと思うんです。僕はボイトレに行ったこともなければ、音楽を学んだ経験もない。兄の音楽には絶対に辿り着けない。それをお互いに認識していると思います。
兄は誰にも真似できない努力の先で出せる熱い歌があります。僕は歌うことが得意だからこその内容の濃さと冷たさみたいなものをあわせもっている。アーティストとしての兄をヒントにしつつ、でも真似したらダメだなという感覚があります。
――主演映画『共喰い』(2013年)の青山真治監督が菅田さんに放った音楽的なアドバイスが、菅田さんの俳優人生を変えた言葉として有名ですよね。「お前の芝居はまだ1/4拍子なんだよ。ミュージシャンは1/16まで考えなきゃいけない」と。
こっちのけんと:ありましたね! 僕はその言葉を、細かく裏拍を感じなければならないということだと解釈しています。アカペラでたとえると、アカペラはリズム隊が楽器でもなければ、クリップも耳から鳴っていません。みんなで音を感じなくてはならない中で、表だけで感じると絶対にズレてしまう。だから、もっと細かく感じることを繰り返していました。青山監督から兄へのアドバイスで、そうか演技も同じなんだと思いました。
――青山監督にとっては大学の先輩である黒沢清監督の『Cloud クラウド』に主演した菅田将暉さんは今年の名演のひとつだと思います。個人的には、以前黒沢監督の現場で美術スタッフをやっていた経験があり、まさか青山監督作の代表的な俳優である菅田さんが黒沢組に出演したということが感動的でした。
こっちのけんと:えっ、黒沢組のスタッフをやられていたんですか(笑)。面白いつながりですね。そうですね、兄にとって青山監督は大切な存在でしたから。
◆「精神的な病気を受け入れる最後の一押し」になった映画作品
――映画俳優としての菅田さんをどのように見ていますか?
こっちのけんと:兄が俳優ではなかったら、ここまで映画を見ていませんでした。兄が出演している作品は、ちゃんと心打つものがある。特に僕にも刺さるものが多く、そのおかげでインプットの幅が広がっています。存在としてただただありがたくて(笑)。
――お兄さんが出演する映画に限らず、好きな映画を教えてください。
こっちのけんと:それでいうと、兄の作品になりますが、『銀河鉄道の父』(2023年)という作品です。兄の役柄が、僕が楽曲制作に集中し過ぎちゃっているときの感覚にすごく似ていて。自分の思考や感情が暴走して泣きじゃくったり、自分って客観的に見たらこんな感じかと(笑)。
でもだからこそ作れた作品でもあるので、自分はこれでいいのかもしれない。そう思えました。自分の精神的な病気を受け入れる最後の一押しだったなと思います。
◆「兄になだめられる自分を見ている感覚になってくる」
――映画が直接的なインスピレーションになるというよりは、自分の内面との対話なのですね。
こっちのけんと:そうです。これも兄の出演作ですが、ハガキ職人の話である『笑いのカイブツ』(2024年)という映画が好きです。主人公のハガキ職人も僕の暴走してる感じに似ています(笑)。
お笑いが好き過ぎるがゆえに周りを敵視する。兄がそれをなだめる役だったんです。それを見るとなんか本当に兄になだめられる自分を見ている感覚になってくる(笑)。兄の出演している作品きっかけで自分を客観視できることが多かったですね。
――スクリーン越しにお兄さんの眼差しを感じるわけですね(笑)。
こっちのけんと:そうです。ボロ泣きです。ハンカチ持っていってびしょびしょで帰ってきます(笑)。
――すごいですね。それは弟にしかできない映画体験ですね。『Cloud クラウド』はどうでしたか? ある意味、黒沢監督の演出が自由に暴走している映画ですが。
こっちのけんと:(笑)。純粋にサスペンスというのか、黒沢監督特有のホラーの怖さもありながら、なのに滑稽さもあるという。そんなわけないだろという状況が起こっているのに、見せ方は怖い。でもあっけなさもやっぱりある。
実写なのか漫画的なのか。その塩梅が面白かったです。結果、その面白さはコメディーではないかと。そのあたりが黒沢監督らしさなのかと勝手に考えています。とても好きな作品です。
◆今後目指していきたいのは“攻めた表現”
――黒沢監督は相対性理論の「FLASHBACK」を演出していますね。黒沢監督が演出したこっちのけんとさんのミュージックビデオが見たいです(笑)!
こっちのけんと:そうでしたね、ひたすら俯瞰の構図で(笑)。もし撮っていただくことになったら、どんな映像になるんでしょう(笑)。『Cloud クラウド』の最後の不気味なシチュエーションのようになってしまうのか。
――黒沢監督が観客をフィクション世界に誘導するスクリーンプロセスが使用されていた場面ですね。
こっちのけんと:急にです(笑)。ハッピーエンドでもないし、不思議だなと思いましたが、あぁそれでいいんだと。自分はどこかを整え過ぎる癖があるので、それをいい意味で悪目立ちさせるというか「なんだったんだあれ」というのをやってもいいんだと思えました。
見たこともない形を見たことない色味で、不気味なのか気持ちいいのかわからない、あの感じ。偶然でしかできないことをちゃんと計算で出していますよね。個人的に今後はそういうところも目指して攻めた表現にしていきたいと思います。
<取材・文/加賀谷健 撮影/unica>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu