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「お金返して」「詐欺だよね?」脱毛クリニック大手の破産に客ら悲鳴…アリシアだけじゃない“倒産するサロンに共通する予兆”

女子SPA! 2024年12月25日 8時46分

 2024年12月10日、医療脱毛大手のアリシアクリニックが突然「全店臨時休業」に。運営元の医療法人社団美実会、そして、姉妹院のじぶんクリニックを運営していた一般社団法人八桜会の2社が、東京地裁から破産開始決定を受けたニュースが波紋を呼びました。

 全国40店舗以上を抱えていた人気クリニックはなぜ、突然の破産に至ったのか。過去に「300万円以上」もの施術代金を費やした消費者の立場から“脱毛業界の真実”を伝える人気ブログ「すっごい脱毛ブログ!」の運営者で、2011年から約13年にわたりアリシアクリニックを見てきた、脱毛研究家・六條かげりさん(@datumoushon)に話を聞きました。

◆人気脱毛研究家が見た「アリシア」騒動

 東京商工リサーチによると、先の医療法人社団美実会と一般社団法人八桜会の2社合計で負債総額は124億7133万円。債権者は9万1818人で、多くは施術代金を“前払い”していた利用者です。

 破産開始決定を受けた公式書面「『アリシアクリニック』の破産について」では「事業を停止していますので、予約の有無にかかわらず、今後、お客様が施術を受けることはできません」「未施術分の施術代を返金することは、極めて難しい状況」との記載もあり、SNSでは、当事者と思われるユーザーから「詐欺だよね?」「お金返して下さい」「なんでこっちが泣き寝入りしないといけない?」といった阿鼻叫喚の投稿が目立ちました。

 予兆はあったのか。匿名質問サービスやSNSのダイレクトメッセージ、メールで過去に1万件以上におよぶ脱毛関連の質問に答えてきた六條さんは、アリシアクリニックの“Xデー”以前より「内部からの情報提供もあった」と明かします。

「脱毛への情報感度が高い方であれば、破産開始決定の1年ほど前から『倒産が近い』と感じていたはずです。数ある倒産事例のなかでも、かなりわかりやすいものでした。私の元にアリシアクリニックのスタッフを名乗る方から『場合によっては今すぐ倒産するかもしれない』と連絡が来たのは、2024年春でした」

◆前受金のビジネスモデルでひずみが

 東京商工リサーチによると「脱毛サロンなどエステティック業」の倒産件数は、2024年1~11月で99件。前年の88件を上回っています。

 アリシアクリニックに類似した事例として、2023年12月15日には脱毛サロン「銀座カラー」を運営していた株式会社エム・シーネットワークスジャパンが、負債総額58億円、債権者約10万人で東京地裁の破産開始決定を受けるなど、その過程では六條さんも“脱毛バブル崩壊”を予感していたといいます。

「アリシアクリニックについては、2019年12月に無制限の“通い放題”プランを廃止した時点で危ないとは思っていました。その後、2023年内に湘南美容クリニックが料金を大幅値下げしたことで医療脱毛業界の潮目が変わり、低価格化が加速したんです。アリシアクリニックは、前受金(後述)と過去の無制限プランの負担の構造が、倒産した銀座カラーと似ていました。

そこに加えて、医療脱毛業界の一角として低価格化へとシフトせざるをえなかったのが、破産のきっかけになったとみています。そして、2024年7月にアリシアクリニックが姉妹店の『じぶんクリニック』を統合した時点では、すでに時間の問題で、新規契約が入りやすい夏にお金を集めてから、倒産へ向かうのだろうと見込んでいました」

 一部の専門家は、客が前払いしていた施術代金“前受金”を頼りにするずさんな経営方針が、破産の大きな要因となったと指摘。前受金による経営は、脱毛業界では一般的といいます。

「前受金でのビジネスモデルには、短期間で大きな資金を集められるメリットがあります。ただ、あくまでもお客さんからの預かり金で、いわば“借金”であると自覚しない脱毛サロンも少なくありません。一般的に、脱毛サロンでの契約時は数回分~十数回分を先払いするケースが多いです。サロン側はそれを新規店舗の開拓費用や広告費にあてて、規模拡大を図ります。

ただ、新規店舗をオープンしたとしても、延々と新規契約者が増えるわけではありません。いずれは新規契約数が鈍化しますから、次第に経営は圧迫されます。さらに、お客さんからの前受金をすでに使い果たしているとしても店舗では月々の経費がかかります。その時々に来る新規契約者の前受金をたよりにして経営する、自転車操業に陥ってしまうんです。アリシアクリニックに限らず、手元の資金が満足にないまま維持を続け、結果、倒産した脱毛サロンも少なくないのが現状です」

◆次第にサービスの質も悪化していった

 前受金で無制限に客が通い続ける体制を見直したのか、アリシアクリニックは2019年に通い放題のプランを廃止。それでもひずみは解消できなかったのか、同時期には「サービスの質が悪化しはじめた」と六條さんは振り返ります。 

「私のブログでもさまざまな倒産事例を紹介しているのですが、一つ、目立った変化としては、通い放題の廃止と共に新たな脱毛機器を導入したことがありました。他のクリニックでも導入されている機器で、導入コストが安く丁寧に扱えばそれなりの効果は見込めるものでした。ただ実際には、クリニック側の都合で施術時間を短縮するために導入されるケースが多く、結果としてサービスの質が落ちてしまい、クチコミでも『あまりよくない』という声が目立ったんです。

他にも、2024年春頃にはアリシアクリニックが長年にわたってこだわっていた『当日キャンセル可』が廃止されたのも、わかりやすい変化でした。私自身、破産直前に顔脱毛のレーザー照射で身の危険を感じたこともありました。それまでは丁寧な施術を心がけていた印象でしたが、私が受けた日は、目の付近でのレーザー照射時に痛みを感じて、『目が痛いです』と訴えてもやめてくれず、事後に一言謝られただけで、細かな説明は何ひとつありませんでした」

◆ハイエナ脱毛サロンに飛びつく前に

 アリシアクリニックの破産開始決定を受けて、行き場を失ったお客さんを受け入れようと「見かけだけの救済プラン」を打ち出す“ハイエナ脱毛サロン”もあるとか。「施術を受けるかどうか、慎重に判断してほしい」と、六條さんは警鐘を鳴らします。

「救済プランすべてが悪いとは言いません。ただ、アリシアクリニックの倒産を想定できなかったお客さんは、慎重に選んでほしいと思います。今の知識のまま焦って飛びつくと、また判断を誤ってしまいかねません。実際、アリシアクリニックの倒産を予見する情報は多かったものの、損をしてしまった人が多くいました。何かを失った直後にうろたえて、取り戻そうとするのはわかるんです。

ただ、なかにはアリシアクリニックとの比較で『割引額ばかりをアピールする』、『救済としながらも契約までの期限をせかす』など、冷静に考えればおかしな脱毛サロンもあります。ですからいったん冷静になって、今回なぜ失敗したのか、どういうクリニックが自分にふさわしいのか、調べ考える時間を少しだけ作って欲しいです」

 アリシアクリニックの破産開始決定にまつわる、一連の騒動。そこから、消費者が得るべき教訓もあるのか。六條さんは、メッセージを残します。

「まず、脱毛はどれほど安くても数万円はかかりますし、高額な契約だと理解してほしいです。その上で、価格だけで比較すると失敗しやすいので、注意が必要です。また、最近では『全身脱毛5回、最短5ヶ月で完了』など、聞こえのいいうたい文句で契約を誘うサロンもありますが、ネット検索で『脱毛の仕組み』と簡単に調べるだけでも「ありえない」とわかります。ほんのわずか、調べるだけで自分を守ることができるんです。私のブログでも情報発信をしているので参考にしていただけるとうれしいです。

 脱毛に限らず、美容関連の情報は誤りも多いので、調子のいい言葉には用心するべきで、一人でも多くの人が『支払ったぶん』だけ満足いく結果になるよう願っています」

【六條かげり】

ほぼすべての脱毛を経験しており、使った総額は300万円以上。脱毛に関する情報を発信するブログ「すっごい脱毛ブログ!」「脱毛のカガク」を運営している。これまでに受けた脱毛相談は1万件以上。X(@datumoushon)では匿名の質問サービスで相談を受付中。

<取材・文/カネコシュウヘイ>

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