『付き合って0日で結婚を決めた2人の話』(KADOKAWA)。
このタイトルから想像できる話って何でしょう?家なし金なし仕事なしの女性が、裕福な男性と偽装結婚するとか、難ありの彼氏から逃げるために、ハイスぺ男性と急ぎ結婚するとか。
本書の著者である妻・えむふじんと、夫・えむしの結婚話は、まったく違います。
恋人なし、独身、でも生活にはまったく困っていない、順風満帆に人生を謳歌していた、いわゆる普通の男女がゆるっと結婚してしまのです。妻側、夫側の両方の視点から語られるのは、「この空気感、わかる!」と膝を打ってしまうほどなじみ深いものばかり。
◆この関係って、いったい何だろう?
付き合ってる? 付き合ってない? 友達? いや、友達にしては一緒にいすぎでしょ? じゃあ、何? という、掘り下げたくても掘り下げるのがこわい、そんな関係性から抜け出すのは、案外難しいですよね。
そこをどうやって乗り越えたのか、この流れが実にリアルなのです。
えむふじんさんとえむしさんの出会いは、よくある友人同士の集まりです。その席に居合わせただけだったふたりですが、後日、利害関係が発生します。
えむふじんさんは、アメリカ留学を控えていました。片やえむしさんは、一人旅が趣味で海外生活の経験者。留学のための書類作成を手伝ってもらうため、えむふじんさんがえむしさんに連絡した、というのが最初の成り行きです。
◆偶然から必然になって悩むふたりだったが…
このあたり、変に気を遣わず素直に教えを乞(こ)う、えむふじんさんと、頼まれたら断れずに世話を焼くえむしさん、という調和がすでに築かれていたのですがが、当人たちは名もない関係性に戸惑ってしまうのです。
私達は、名前がつくとどこか安心しますよね。たとえば体調を崩した時、原因が判明して病名がつくと安堵します。なぜなら解決策が見いだせるから。とはいえその分、不安もつきまといます。
人との関係性も同じではないでしょうか。友達、恋人、妻、夫。カテゴリーに分類されると、そこに自分をあてはめられるので、今後の思考や行動もスムーズに決められるのです。
ただ、人との関係性はむろん相手があってのこと。こちらが「恋人」認定しているのに相手が「友達」認定していたら? 不安をとおりこして絶望してしまうかもしれません。
偶然の出会いから、気の合う時間を過ごし、会い続けるのが必然になってからも、ふたりは大いに悩んでしまうのです。
◆距離を詰めたり話したりする二人にジワる
「あきらかに友達以上だし、恋人確定じゃないの?」というのは、客観的に見られる一読者としての感想です。でも、お互いが疑心暗鬼になって、心理的な距離を詰めたり離したりするのがジワるのです。お互いがここまで臆病(おくびょう)になっているのには、大きな理由がありました。
すぐ先に控えた、えむふじんのアメリカ留学です。仕事に特化した資格取得のためですから、今さら却下はできません。いざ付き合うとなったとしても、すぐに離れ離れになってしまいます。この現実は、かなり重くて悲しいですよね。
このままふたりは、明らかに意識している友達、として終わってしまうのか? いいえ、一見してピンチな状況の中にこそ、一発大逆転のチャンスが潜んでいます。障害があったからこそ、ふたりの心に勇気が芽生えたのです。
付き合って0日から結婚の第一歩へ。ふたりがつかんだ、てんやわんやの幸せを、あなたもぜひ味わってください。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx
このタイトルから想像できる話って何でしょう?家なし金なし仕事なしの女性が、裕福な男性と偽装結婚するとか、難ありの彼氏から逃げるために、ハイスぺ男性と急ぎ結婚するとか。
本書の著者である妻・えむふじんと、夫・えむしの結婚話は、まったく違います。
恋人なし、独身、でも生活にはまったく困っていない、順風満帆に人生を謳歌していた、いわゆる普通の男女がゆるっと結婚してしまのです。妻側、夫側の両方の視点から語られるのは、「この空気感、わかる!」と膝を打ってしまうほどなじみ深いものばかり。
◆この関係って、いったい何だろう?
付き合ってる? 付き合ってない? 友達? いや、友達にしては一緒にいすぎでしょ? じゃあ、何? という、掘り下げたくても掘り下げるのがこわい、そんな関係性から抜け出すのは、案外難しいですよね。
そこをどうやって乗り越えたのか、この流れが実にリアルなのです。
えむふじんさんとえむしさんの出会いは、よくある友人同士の集まりです。その席に居合わせただけだったふたりですが、後日、利害関係が発生します。
えむふじんさんは、アメリカ留学を控えていました。片やえむしさんは、一人旅が趣味で海外生活の経験者。留学のための書類作成を手伝ってもらうため、えむふじんさんがえむしさんに連絡した、というのが最初の成り行きです。
◆偶然から必然になって悩むふたりだったが…
このあたり、変に気を遣わず素直に教えを乞(こ)う、えむふじんさんと、頼まれたら断れずに世話を焼くえむしさん、という調和がすでに築かれていたのですがが、当人たちは名もない関係性に戸惑ってしまうのです。
私達は、名前がつくとどこか安心しますよね。たとえば体調を崩した時、原因が判明して病名がつくと安堵します。なぜなら解決策が見いだせるから。とはいえその分、不安もつきまといます。
人との関係性も同じではないでしょうか。友達、恋人、妻、夫。カテゴリーに分類されると、そこに自分をあてはめられるので、今後の思考や行動もスムーズに決められるのです。
ただ、人との関係性はむろん相手があってのこと。こちらが「恋人」認定しているのに相手が「友達」認定していたら? 不安をとおりこして絶望してしまうかもしれません。
偶然の出会いから、気の合う時間を過ごし、会い続けるのが必然になってからも、ふたりは大いに悩んでしまうのです。
◆距離を詰めたり話したりする二人にジワる
「あきらかに友達以上だし、恋人確定じゃないの?」というのは、客観的に見られる一読者としての感想です。でも、お互いが疑心暗鬼になって、心理的な距離を詰めたり離したりするのがジワるのです。お互いがここまで臆病(おくびょう)になっているのには、大きな理由がありました。
すぐ先に控えた、えむふじんのアメリカ留学です。仕事に特化した資格取得のためですから、今さら却下はできません。いざ付き合うとなったとしても、すぐに離れ離れになってしまいます。この現実は、かなり重くて悲しいですよね。
このままふたりは、明らかに意識している友達、として終わってしまうのか? いいえ、一見してピンチな状況の中にこそ、一発大逆転のチャンスが潜んでいます。障害があったからこそ、ふたりの心に勇気が芽生えたのです。
付き合って0日から結婚の第一歩へ。ふたりがつかんだ、てんやわんやの幸せを、あなたもぜひ味わってください。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx