祖父が緒形拳、父が緒形直人となれば、すぐさまサラブレッド俳優だと呼ばれがちだけれど、実際、緒形敦(28歳)は俳優としてどんな存在なのか?
俳優デビュー作は、役所広司主演ドラマ『陸王』(TBS、2017年)。祖父と父の作品とゆるやかに連動するヒストリーをつむぎながら、デビュー作で提示する演技とは。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、新人俳優のお手本のような演技だと感じる緒形敦を解説する。
◆俳優父子がそれぞれ大河ドラマ主演
1585年、戦国時代の日本から派遣された天正遣欧使節が、ローマカソリック教会の最高位にあるローマ教皇・グレゴリウス13世に謁見した。これが日本史上、日本人による初の公式ヨーロッパ訪問団とされている。
1992年に放送された大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』(NHK総合、以下、『信長』)第1回冒頭場面は、この使節の謁見からはじまる。時代が下り、終盤になってようやく主人公である織田信長役の緒形直人が初登場する。当時25歳。大河主役の大抜擢だった。
父・緒形拳は、『太閤記』(1965年)と『峠の群像』(1982年)で主役をつとめた。『信長』で緒形直人が主役になったことで、俳優父子がそれぞれ大河ドラマ主演というテレビドラマ史上の記録を初めて打ち立てた。
◆出演者コメント動画の「世界」という言葉
『信長』から27年後、今度は緒形拳の孫であり、緒形直人の息子である緒形敦が、野村周平主演の配信ドラマ『MAGI -天正遣欧少年使節』(Amazon Prime Video、2019年)で、使節団のひとり、千々石ミゲルを演じることになる。しかも同作で豊臣秀吉を演じたのが、緒形直人。
孫の代まで俳優父子の共演ヒストリーが脈々と続く。緒形直人と緒形敦が同じ画面上を共有する場面は実際ないのだが、暗がりをランプで照らして歩く緒形敦のソロショットがむしろ際立つ。
同作公式ホームページ上には出演者コメント動画がある。緒形敦は「日本から世界に飛びだす勇気の一歩になってほしい」とコメントするのだが、カメラ目線がなんとまあ凛々しいこと。「世界」という言葉をなんの濁りもなくまっすぐ受けとることができる。
◆俳優デビュー作は『陸王』
それにしても緒形敦は、どうして自分の出演作の明確な見どころなどより、「世界」というコメントを強調したのか。1582年に長崎を出航した使節は大変な航海を経て、ローマ教皇の元に到着した。使節の少年たちが目指した世界に対する眼差しを自らの経歴と重ねるところがあるのだろうか?
というのももともとは緒形拳や緒形直人と同じ俳優ではなく、ファッションデザイナーを目指していた時期もあるという緒形敦は、高校時代を留学先のアメリカで過ごしている。
ファッションに傾倒しながら世界で見聞した彼は、最終的には俳優の道を選び、帰国する。山田孝之や山﨑賢人、横浜流星が所属するスターダストプロモーション所属となり、山﨑が出演するドラマ『陸王』が俳優デビュー作となった。
◆新人俳優のお手本のような演技
『陸王』で緒形敦が演じたのは、主人公・宮沢紘一(役所広司)が切り盛りする老舗足袋会社「こはぜ屋」の息子である宮沢大地(山﨑賢人)の親友役。第1話から登場していて、その初登場がかなりいい感じ。
互いに就職活動中の大地と広樹(緒形敦)が、公園のベンチに座って近況を報告し合う場面。苦戦を強いられているふたりの視界にランニングに励む一団が入る。先に気づいた広樹が、一団の方へぱっと視線を遣る。
この視線移動がとてもいい。演技の段取りとして動かして置きにいった感じでもないし、なかなかこうはならない。演技とは、これくらいほんとさりげない単純さに徹するべきである。新人俳優のお手本のような演技だなと筆者は思った。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
俳優デビュー作は、役所広司主演ドラマ『陸王』(TBS、2017年)。祖父と父の作品とゆるやかに連動するヒストリーをつむぎながら、デビュー作で提示する演技とは。
イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、新人俳優のお手本のような演技だと感じる緒形敦を解説する。
◆俳優父子がそれぞれ大河ドラマ主演
1585年、戦国時代の日本から派遣された天正遣欧使節が、ローマカソリック教会の最高位にあるローマ教皇・グレゴリウス13世に謁見した。これが日本史上、日本人による初の公式ヨーロッパ訪問団とされている。
1992年に放送された大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』(NHK総合、以下、『信長』)第1回冒頭場面は、この使節の謁見からはじまる。時代が下り、終盤になってようやく主人公である織田信長役の緒形直人が初登場する。当時25歳。大河主役の大抜擢だった。
父・緒形拳は、『太閤記』(1965年)と『峠の群像』(1982年)で主役をつとめた。『信長』で緒形直人が主役になったことで、俳優父子がそれぞれ大河ドラマ主演というテレビドラマ史上の記録を初めて打ち立てた。
◆出演者コメント動画の「世界」という言葉
『信長』から27年後、今度は緒形拳の孫であり、緒形直人の息子である緒形敦が、野村周平主演の配信ドラマ『MAGI -天正遣欧少年使節』(Amazon Prime Video、2019年)で、使節団のひとり、千々石ミゲルを演じることになる。しかも同作で豊臣秀吉を演じたのが、緒形直人。
孫の代まで俳優父子の共演ヒストリーが脈々と続く。緒形直人と緒形敦が同じ画面上を共有する場面は実際ないのだが、暗がりをランプで照らして歩く緒形敦のソロショットがむしろ際立つ。
同作公式ホームページ上には出演者コメント動画がある。緒形敦は「日本から世界に飛びだす勇気の一歩になってほしい」とコメントするのだが、カメラ目線がなんとまあ凛々しいこと。「世界」という言葉をなんの濁りもなくまっすぐ受けとることができる。
◆俳優デビュー作は『陸王』
それにしても緒形敦は、どうして自分の出演作の明確な見どころなどより、「世界」というコメントを強調したのか。1582年に長崎を出航した使節は大変な航海を経て、ローマ教皇の元に到着した。使節の少年たちが目指した世界に対する眼差しを自らの経歴と重ねるところがあるのだろうか?
というのももともとは緒形拳や緒形直人と同じ俳優ではなく、ファッションデザイナーを目指していた時期もあるという緒形敦は、高校時代を留学先のアメリカで過ごしている。
ファッションに傾倒しながら世界で見聞した彼は、最終的には俳優の道を選び、帰国する。山田孝之や山﨑賢人、横浜流星が所属するスターダストプロモーション所属となり、山﨑が出演するドラマ『陸王』が俳優デビュー作となった。
◆新人俳優のお手本のような演技
『陸王』で緒形敦が演じたのは、主人公・宮沢紘一(役所広司)が切り盛りする老舗足袋会社「こはぜ屋」の息子である宮沢大地(山﨑賢人)の親友役。第1話から登場していて、その初登場がかなりいい感じ。
互いに就職活動中の大地と広樹(緒形敦)が、公園のベンチに座って近況を報告し合う場面。苦戦を強いられているふたりの視界にランニングに励む一団が入る。先に気づいた広樹が、一団の方へぱっと視線を遣る。
この視線移動がとてもいい。演技の段取りとして動かして置きにいった感じでもないし、なかなかこうはならない。演技とは、これくらいほんとさりげない単純さに徹するべきである。新人俳優のお手本のような演技だなと筆者は思った。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu