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「私は劣等感のかたまり」認知症の母、ダウン症の姉と暮らす50歳芸人が行き着いた“幸福論”

女子SPA! 2025年1月14日 8時47分

 にしおかすみこさんが自身の認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父と同居を始めた2020年からのことを赤裸々に綴る書籍『ポンコツ一家2年目』が発売中です。

『ポンコツ一家2年目』はその名の通り、前作の『ポンコツ一家』に続き「同居から2年目」を描いた待望の2作目。発売前に重版が決定するという好スタートを切りました。

 そんなにしおかさんが日々大切にしていることは、自分自身だといいます。話を聞きました。

◆気をつけているのは「話を盛らないこと」

――今回の“2年目”書籍化、たくさんの反響があったかと思いますが、どのように受け止めていますか?

にしおかすみこ(以下、にしおか):笑っていただきたくて書いたので、やっぱり「笑った!」と言ってくださるのは嬉しいです。「泣いた」「感動した」も!ああ、書いて良かったなあと、私のほうが元気をいただきます。

――もともとの連載が2021年スタートで3年が経ちますが、気をつけていることはありますか?

にしおか:話を盛らないことです。ウチの家族もそうですが、認知症や障がいのある方々が誤解されることのないようにと思っています。連載は1年前のことを書いていますが、日常の母や姉が実際に言ったことはスマホのメモアプリに入れています。言ってもいないこと、やってもいないことは書きません。私自身がすごく疲れてしまって、メモに書く元気もなく、何もアプリに残っていない日々もたくさんあります。そういうのは記憶もあやふやなので書きません。

あと、書くことで頭が整理されると聞いたりするのですが、私は今のところないです(笑)。1年前に腹が立つ出来事があったときは、そのメモを見て、今も同じくらい腹が立ったりします。1年前にわからなかったことは、今も解決してなかったり。そういうときは「わからない」と書きます。

◆私は“劣等感のかたまり”。でも…

――そもそも家族を題材にしようと思われた理由について教えてください。

にしおか:生活費を稼ぎたかったのと。好きなことがしたかったのと。家でできる仕事があるといいなと思ったこと。たくさんの方々に読んで笑っていただきたいと思ったことです。母と生活する中で、頭と体が両方元気な状態を維持できているって、本当はなかなかの奇跡なのかなと思って。私は、今、両方元気だから、好きなことを今やろうと思いました。

私は劣等感のかたまりなんです。いつも「わたしなんか」とか「才能もないくせに」と思ってしまいます。でもそんなこと言ってたら、人生終わってしまう。一旦、その気持ちは置いておいて、やりたいことがあるなら、まず口に出そうと思いました。そもそも、これまで生きてきた中で、やりたいこと、好きなことが何もなかったり、何をしていいのかわからないときも山ほどありました(笑)。これからもあると思います。だから好きなことがあるというときは、とてもラッキーな気がします。

◆要介護認定を受けていなかったワケ

――本書発売前後のとき、お母さまが要介護認定を受けていないことが話題になりましたが、この反響はどのように受け止めましたか?(※2024年11月現在、要介護認定「要介護1」を取得済みとのこと)

にしおか:ご意見、お気遣い、ご感想ありがとうございます。ありがたいです。私、実家に戻って4年もグズグズしていました。友人や先輩方、地域包括支援センターの方々にも相談させていただきながら、どうするのが私と家族にとって最善なのかなあと。母と姉は最後まで家にいたい人たちなんです。唯一の願いでして。なるべく私も叶えてあげたいです。

で、例えば要介護認定を取ったとして、母がデイサービスを利用したとします。そうすると姉が家に残ります。私は母の代わりはできませんし、やりません。働きにも出ます。となると、姉を施設にお願いするとします。一番家にいたい母と姉がバラバラになって、家にいてもいなくてもいい私が残ります。いったい誰の幸せの為に要介護認定を取ろうとしているのか? と思ってしまいます。他にも例えば、お風呂介助のサービス。母が自分で言うのですが、「ママはお風呂に入れない人じゃない、入りたくない人だ」って。清々し過ぎて腹が立ちます(笑)。

それと、要介護認定を取るときに、調査員の方がウチに来て、母にたくさんの質問をすると聞きます。今の母だと答えられないこともいっぱい出てくると思います。母、多分、相当落ち込みます。今の母を傷つけてまで、先々いつ使うかわからない認定を取る?って思ったら余計に踏みとどまってしまうんです。とはいえ、私も日々疲れることがあります。どうしようかなあって、またダラダラしてしまいます。

◆「あれ、これ、今じゃない?」と要介護認定を取得

――今要らなくても先々必要になるから今のうちに取っておいたほうがいいという考え方もありましたよね。

にしおか:そうなんです。私、いつ動こう。明日かな明後日かなって思いながら過ごしてて。そうしたら、ある日、たわいもない会話の中で母が「県民共済入ってるから、ウチは大丈夫だよね」って言ってきたんです。ウチは確か84か85歳で終了なんですよ。母、今84です。なので「もうすぐ期限切れるよ」って返したんです。母「それ困る! ウチの家族どうしたらいい?」ってなって。私「介護保険ってあるよ。それあるとウチの家族助かるよ」って言ったんです。そうしたら「それいいじゃない。早くやろう!」って。

あれ、これ、今じゃない? この感じだと母も前向きだしと思って、私動きました。現在要介護認定を取ったので、これからはケアマネジャーさんに、私と家族の幸せのための相談ができるので、良かったあって思ってます。

◆今、幸せを感じる時間は

――先ほどの「(姉にとって)母の代わりにはなれない」というのも、現実問題としてありますよね。

にしおか:そうですね。姉の心の奥底まで理解できるのは、母だけです。私は自分ファーストです。自分の元気と幸せを一番に考えます。とはいえ母や姉も幸せでいて欲しいし、各々が自分ファーストでいてほしいです。自分たちの家なのに、母と姉が遠慮しながら暮らすなんて嫌です。でも、家族全員が幸せで大満足は難しい気がします。どこでどう折り合いをつけるのか。迷子中、模索中です。

――今、幸せを感じるのは、どういうときでしょうか?

にしおか:仕事で帰宅が夜中になった時に、姉と母が起きて私を待っているときがあるんですよ。姉がトランプをやりたいんです。私も疲れているので「もう遅いから1回だけね」て言って付き合うんですけど。3人でババ抜きするんです。つまらないじゃないですか。だって、だいたいババを誰が持っているかわかりますし。姉なんてババだけ、手持ちの他のカードより、ちょっと上に出してますし(笑)。でも姉と母はめちゃくちゃ楽しそうにケタケタ笑うんですよ。この景色好きだなって思います。

――発売時のイベントでは、「もう恋愛はよくわからなくなった」と言われてましたが、ご自身としての今後は?

にしおか:はい。恋愛は枯れています(笑)。今後の目標は3冊目を出す気です。まだ何も決定していませんが(笑)。まず夢は口に出すことからだと思っているので言います。好きなことができて、好きな人達と笑っていられたらなあと思います。

<取材・文/トキタタカシ>

【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。

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