こんにちは。恋愛・婚活コンサルタントの菊乃です。
パートナーが欲しいと思っても、うまくいかない人が増えています。子ども家庭庁がおこなった「令和6年度 若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」によると、結婚へのハードルについて未婚者の約3割が「そもそも出会いの場所・機会がない」と回答。そして既婚者と比較して最も差が大きかったのは、未婚者の方がスコアが高い「恋愛の仕方がわからないこと(未婚者の23%/約14pt差)」、「自分が結婚しているイメージができないこと(同25.2%/約12pt差)」でした。
同調査で、既婚者が配偶者と出会った場所・機会の1位は「マッチングアプリ」で、約25%でした。出会うための手軽なツールが普及しているのに、ユーザーはその中で比較検討されて“人気格差”が生まれます。結局マッチングアプリや婚活サービスを使っても、知り合った相手と距離を縮められず、恋が始まらない人が大勢いるのです。
◆20~30代独身女性の4人に1人は「恋人がいた経験なし」
筆者はこれまで1000人以上の男女の相談に乗ってきましたが、特にここ数年は、その傾向が強まっているのを肌で感じます。令和4年版の男女共同参画白書によると、20~39歳の独身者でこれまでの恋人の人数を「0人」と答えた人は、女性で24.1%、同独身男性で37.6%。恋愛経験がない人は今や珍しくありません。そんな彼/彼女らが“出会うためのサービス”を使っても、失敗の原因を客観的に分析できず、同じ失敗を何回も繰り返してしまいがちなのです。
今回取材した、現在30歳の女性・美咲さん(仮名)もその一人。人生で初めてできた恋人と結婚した彼女ですが、お相手に出会うまでは6年もの間“迷走”していました。そんな彼女の苦しかった婚活と、配偶者さんとの出会いのきっかけ、そして「やめてよかったこと」についてお話を聞きました。
◆「若いうちから婚活すれば結婚できる」は幻想
過去に交際経験がなかった美咲さんは、24歳から婚活を開始します。婚活パーティーに参加したり、マッチングアプリを使ってみたりしたものの、いきなり理不尽に怒って帰るなど癖が強い男性にばかり会って迷走します。
思い詰めて占い師に相談したり、悪い縁を遠ざけようと縁結び神社に行ったりもしますが、なかなか素敵な男性には会えませんでした。
婚活開始から4年経った28歳のとき、マッチングアプリで初デートした男性に「結婚したいなら結婚相談所使えよ! 結婚したいのにマッチングアプリなんか使うな」と怒鳴られるという、またも不運な体験をします。
その男性の言い分は無茶苦茶だったのですが、「結婚したいなら相談所」の部分は間違っていないと思った美咲さん。ついに意を決して、高額な入会料も支払い結婚相談所に登録しました。
ですが美咲さんは5~6人の男性とお見合いしたのち、翌年には結婚相談所を休会しています。何があったのでしょうか。
◆会話を盛り上げようと、出身地の話題を振った結果
休会のきっかけは婚活開始から5年目となった昨年、E氏という男性とのお見合いでした。E氏は東京理科大卒で高学歴ですが、お見合いでは全く視線が合わなかったそうです。ですがこれまでお見合いする男性にも同じような人が多かったので、「これぐらいは緊張しているから仕方がない」と思うようにしたそうです。
席に着いてもE氏は会話をしようとしてきません。そこで、プロフィールに「徳島出身」とあったため、こんな話をしてみました。
「Eさんは徳島県出身なんですね」
「そうです」
「テレビで見たんですけど、最近『鳥貴族』が初めてできたらしいですね」
「そうみたいですね」
せっかく話題を探して振ってみたけれど何も食いついてこなくて、間がもたず辛かったという美咲さん。なんとか1時間つないで、結婚相談所のサービス画面で「お断りボタン」を押しました。
◆「人間性を疑います」と言われた理由は
翌日、結婚相談所から連絡があります。Eから「田舎出身であることを馬鹿にされ、人間性を疑います」という内容のクレームが入った知らせでした。
決して馬鹿にするつもりで言ったわけではないし、相手は目線も合わせず会話をする姿勢も感じなかったのに。もはや担当者に事情を説明する気力もなかった美咲さんは、そのまま結婚相談所を休会。
E氏以外に、お見合いした男性の中で2回目のデートに進んだ男性もいました。
その中のある男性は、美咲さんより数センチ身長が低かったそうです。それでも特に気にならず、会話も弾んだので仮交際に進んだのですが、2回目のデートで「背が高すぎませんか」と言ってきたそうです。
自分より女性の方が背が高いのが嫌なら、プロフィールで分かるのだから最初から断ればいいのに。
◆「うさぎ飼ってる奴は人間性を疑う」好きなものを全否定される
社内でも「婚活している」と言っていたため、同僚が他部署の男性エンジニアF氏を紹介してくれます。そして、F氏と一度食事をすることになりました。
美咲さんは動物が好きで、FとやりとりしていたLINEのアイコンもうさぎでした。それなのにF氏は「動物は臭いから無理」「うさぎ飼ってる奴は人間性を疑う」と平気で言ってきたそうです。
短期間で2名もの男性から“人間性を疑われて”しまった美咲さん。F氏のことは断ろうと思ったのですが、紹介してきた同僚は「そういうところもあるけど、もう一回会ったら変わるから」「彼は会いたがっていて、誘われるのを待ってるよ」としつこく言ってきました。
身近な人からの紹介は、ありがたい面もあるものの面倒くさい。そう思った彼女は、再度マッチングサービスの利用を検討しました。
◆恋愛・婚活ノウハウを見ると迷走が加速する仕組み
結婚相談所を休んでも、結婚しないまま年齢が上がるという焦りはあったという美咲さん。YouTube、X、ブログなどで婚活に関する発信をこれまで以上にたくさん見るようになりました。
特定の恋愛インフルエンサーのLIVE配信を毎日聞くなどして、「男性から選ばれる女性になるために○○しなければ」といった、様々な思い込みが加速していったそうです。
美咲さんの話から少し逸れますが、婚活ノウハウを見すぎると迷走する構造を解説します。
婚活がうまくいかない人には、色んなタイプがいます。しかし婚活のアドバイスというものは、必要な人に正しく届くとは限りません。
例えば、婚活女性を以下の2タイプに分けたとします。
① どの男性と会っても「ピンとこない」と、全て断る女性
② どの男性も「いい人かもしれない」と、会った男性を断れない女性
①の「断る女性」向けの“ピンとこなくても一度は会ってみよう”といったアドバイスが②の「断れない女性」に響いてしまって疲弊を加速させたり、その逆で、「断れない女性」向けの“違和感は無視しない方がいい”というアドバイスが「断る女性」に響き、高望みをさらに正当化してしまったり、ということがよく起こります。
どちらかといえば、美咲さんは②の「断れない女性」だと思います。自分から申し込み(編集部注:結婚相談所における、相手に会ってみたいという意思表示)もして積極的だと思いますが、恋愛経験もなく真面目であるがゆえに、婚活ノウハウが自分を責める材料にもなりやすいようなのです。
◆本当の自分とかけ離れた“婚活服”でいいのか
そのころ、美咲さんは筆者のところへ婚活の相談にいらっしゃいました。当時の美咲さんは結婚相談所のアドバイスに則り、ウエストリボンのパステルカラーワンピースにパールアクセサリーを身につけた、大人しそうな服装をしていました。
それがご本人にとってしっくり来ていないことがわかり、「美大卒のデザイナーなのに服も髪型も大人しすぎてクリエイティブ職の人に見えないから、デザイナーに見えるようにしませんか」「婚活ノウハウ断ちして、今は回復に集中しよう」とお伝えしたのです。
個性を出した方が良いということではありません。需要と供給の差に注目しているだけです。
人生の早い段階で将来目指す仕事を決め、そのための専門教育を受け、その仕事に従事している専門職なのに、なんとなく進学先を選びなんとなく就職した一般的な会社員の方と大差ない、埋もれてしまうプロフィールではもったいないのです。
自分の世界を持っている女性が良いという男性がいるのに対し、そうした女性は希少なのです。残念ながら婚活ノウハウを見すぎて迷走していたこともあり、当時の美咲さんの姿は、自分の世界がある女性には見えませんでした。
◆丸投げ男や自己中男を引き寄せていた理由
また、美咲さんは自分から男性に申し込みをしたり、デートのお店を探して提案したり、相手が出やすいエリアを提案したりと、とても積極的でした。女性には受け身な人が多いからこそ、「積極的に女性から申し込みしましょう」という婚活ノウハウは多いのです。
「男性にやってもらうことが当たり前」「いい男がいない」と思う女性が多い中で、これは立派だと思います。
しかし女性が相手の都合に合わせてデートのお店を提案すると、「次もやってもらおう」と2回目も丸投げしたり、自分の都合がいいエリアを指定したりする男性もいます。美咲さんはそんな男性がいても明確に失礼な言動がないかぎり断らず、もう一回会ってみようという判断をしがちでした。
だからこそ、「今後は、先にGiveをしてTakeが返ってこない相手はどんどん断っていく方向にしよう」とお伝えしたのでした。
◆配偶者との出会いは“ヤリモクが多いと噂のアプリ”だった
SNSなどの婚活アドバイスから距離を置いた美咲さんは、「高学歴で大人しそうな人が多く、近くに住んでいる人を探しにくい結婚相談所は、自分には合わない」という結論に至ります。
片道1時間以上かけて相手に会いに行くことに疲れてしまっていた彼女は、マッチングアプリのTinderに再登録します。位置情報から近くにいる人が紹介されやすい点と、コミュ力が高いユーザーが多いという噂に魅力を感じたのです。なお、Tinderは私が勧めたわけではないです。
一般的にマッチングアプリではメッセージ送信をはじめ「男性は有料」という機能が多い中、Tinderの場合はメッセージ送信は男女ともに無料で、男性も無料でできることが多いです。そのため、出会いに困っているほどじゃないイケメンもいますが、ワンナイト目的のいわゆるヤリモクや、結婚相手でなく友達探しが目的のユーザーも少なくありません。しかし、様々な婚活サービスを使いすぎた美咲さんにとって、「Tinderは腹の探り合いもなくやりやすかった」そうです。
◆最後のアプリで「初めて相手の人柄を見るようになった」
美咲さんによるとTinderの魅力は3つだそうです。
「私はちゃんと顔写真を登録して使っていたんですが、顔がわかる写真で登録するユーザーがそもそも少ないので、それだけで『ちゃんとした人』って思ってもらえました。
ヤリモクもいますが『ヤリモクですけどいいですか?』って申告してくれるんです。『そういうつもりがないです』って返信すると『そうですか』で去っていくから楽でした。
今までは学歴とか条件で相手を見てしまっていたけど、Tinderは条件で絞れないし、初めて相手の人柄を見るようになったんです」
◆生まれて初めての彼氏と、交際半年で結婚
Tinderで、通勤途中の駅に住む1歳年下の男性とマッチングします。彼は「美大ってすごいですね。どういうことしているんですか?」「マンガが好きなので絵が上手な人、尊敬します」と初めから美咲さんに興味津々でした。
ずっと敬語でやりとりをして、2週間目にデートをします。彼は出版業界で働く会社員でした。「話さなきゃ」という義務感を感じることもなく自然に会話が続いてあっという間に時間が過ぎ、自然と次の約束をします。3回目のデートで告白され、生まれて初めての彼氏ができます。
彼氏ができれば、デートで帰りが遅くなることも出てきます。ところが美咲さんのお母さんは、彼女が社会人になっても過干渉気味。帰宅するとお母さんからキレ気味に「何してたの?」と言われ、家の居心地が悪くなりました。
そこで彼氏に「親が詮索してくる。早く結婚したい」と伝えたところ、しばらくしてプロポーズしてくれたのです。お付き合いから半年前後でのスピード婚でした。
◆条件検索をやめたら逆に、条件に合う人と出会えた
美咲さんに婚活を振り返ってもらい、何が最も効果があったのか教えてもらいました。
「条件で相手を見るのをやめたこと」だそうです。
これは、頭で分かっていたとしても、実際にマッチングサービスを利用しながら実行するのはとても難しいと思います。
お互いの年齢を知らずに知り合い惹かれ合って、結果的に10歳年上の男性と交際する可能性はあるかもしれないけれど、最初から「10歳年下の女性と付き合いたい」と申し込みしてくる年上男性のことは不快に感じるでしょう。
条件を妥協しようということではありません。「品定めしない人間になる」ということなのです。己の損得で自分に近づいてくる相手や、不躾(ぶしつけ)に品定めしてくる相手がいれば、本能的に「利用されそう」と思って避けたくなるでしょう。
なお、結婚したお相手男性は、結婚相談所で婚活していた時の条件が全て当てはまる理想の人だったそうです。
美咲さんの苦しい婚活体験談が誰かの希望になると嬉しいです。
末永いお幸せを願っております。
<取材・文&写真/菊乃>
※個人が特定されないよう一部脚色してあります。
<取材・文/菊乃>
【菊乃】
恋愛・婚活コンサルタント、コラムニスト。29歳まで手抜きと個性を取り違えていたダメ女。低レベルからの女磨き、婚活を綴ったブログが「分かりやすい」と人気になり独立。ご相談にくる方の約4割は一度も交際経験がない女性。著書「あなたの『そこ』がもったいない。」他4冊。Twitter:@koakumamt
パートナーが欲しいと思っても、うまくいかない人が増えています。子ども家庭庁がおこなった「令和6年度 若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」によると、結婚へのハードルについて未婚者の約3割が「そもそも出会いの場所・機会がない」と回答。そして既婚者と比較して最も差が大きかったのは、未婚者の方がスコアが高い「恋愛の仕方がわからないこと(未婚者の23%/約14pt差)」、「自分が結婚しているイメージができないこと(同25.2%/約12pt差)」でした。
同調査で、既婚者が配偶者と出会った場所・機会の1位は「マッチングアプリ」で、約25%でした。出会うための手軽なツールが普及しているのに、ユーザーはその中で比較検討されて“人気格差”が生まれます。結局マッチングアプリや婚活サービスを使っても、知り合った相手と距離を縮められず、恋が始まらない人が大勢いるのです。
◆20~30代独身女性の4人に1人は「恋人がいた経験なし」
筆者はこれまで1000人以上の男女の相談に乗ってきましたが、特にここ数年は、その傾向が強まっているのを肌で感じます。令和4年版の男女共同参画白書によると、20~39歳の独身者でこれまでの恋人の人数を「0人」と答えた人は、女性で24.1%、同独身男性で37.6%。恋愛経験がない人は今や珍しくありません。そんな彼/彼女らが“出会うためのサービス”を使っても、失敗の原因を客観的に分析できず、同じ失敗を何回も繰り返してしまいがちなのです。
今回取材した、現在30歳の女性・美咲さん(仮名)もその一人。人生で初めてできた恋人と結婚した彼女ですが、お相手に出会うまでは6年もの間“迷走”していました。そんな彼女の苦しかった婚活と、配偶者さんとの出会いのきっかけ、そして「やめてよかったこと」についてお話を聞きました。
◆「若いうちから婚活すれば結婚できる」は幻想
過去に交際経験がなかった美咲さんは、24歳から婚活を開始します。婚活パーティーに参加したり、マッチングアプリを使ってみたりしたものの、いきなり理不尽に怒って帰るなど癖が強い男性にばかり会って迷走します。
思い詰めて占い師に相談したり、悪い縁を遠ざけようと縁結び神社に行ったりもしますが、なかなか素敵な男性には会えませんでした。
婚活開始から4年経った28歳のとき、マッチングアプリで初デートした男性に「結婚したいなら結婚相談所使えよ! 結婚したいのにマッチングアプリなんか使うな」と怒鳴られるという、またも不運な体験をします。
その男性の言い分は無茶苦茶だったのですが、「結婚したいなら相談所」の部分は間違っていないと思った美咲さん。ついに意を決して、高額な入会料も支払い結婚相談所に登録しました。
ですが美咲さんは5~6人の男性とお見合いしたのち、翌年には結婚相談所を休会しています。何があったのでしょうか。
◆会話を盛り上げようと、出身地の話題を振った結果
休会のきっかけは婚活開始から5年目となった昨年、E氏という男性とのお見合いでした。E氏は東京理科大卒で高学歴ですが、お見合いでは全く視線が合わなかったそうです。ですがこれまでお見合いする男性にも同じような人が多かったので、「これぐらいは緊張しているから仕方がない」と思うようにしたそうです。
席に着いてもE氏は会話をしようとしてきません。そこで、プロフィールに「徳島出身」とあったため、こんな話をしてみました。
「Eさんは徳島県出身なんですね」
「そうです」
「テレビで見たんですけど、最近『鳥貴族』が初めてできたらしいですね」
「そうみたいですね」
せっかく話題を探して振ってみたけれど何も食いついてこなくて、間がもたず辛かったという美咲さん。なんとか1時間つないで、結婚相談所のサービス画面で「お断りボタン」を押しました。
◆「人間性を疑います」と言われた理由は
翌日、結婚相談所から連絡があります。Eから「田舎出身であることを馬鹿にされ、人間性を疑います」という内容のクレームが入った知らせでした。
決して馬鹿にするつもりで言ったわけではないし、相手は目線も合わせず会話をする姿勢も感じなかったのに。もはや担当者に事情を説明する気力もなかった美咲さんは、そのまま結婚相談所を休会。
E氏以外に、お見合いした男性の中で2回目のデートに進んだ男性もいました。
その中のある男性は、美咲さんより数センチ身長が低かったそうです。それでも特に気にならず、会話も弾んだので仮交際に進んだのですが、2回目のデートで「背が高すぎませんか」と言ってきたそうです。
自分より女性の方が背が高いのが嫌なら、プロフィールで分かるのだから最初から断ればいいのに。
◆「うさぎ飼ってる奴は人間性を疑う」好きなものを全否定される
社内でも「婚活している」と言っていたため、同僚が他部署の男性エンジニアF氏を紹介してくれます。そして、F氏と一度食事をすることになりました。
美咲さんは動物が好きで、FとやりとりしていたLINEのアイコンもうさぎでした。それなのにF氏は「動物は臭いから無理」「うさぎ飼ってる奴は人間性を疑う」と平気で言ってきたそうです。
短期間で2名もの男性から“人間性を疑われて”しまった美咲さん。F氏のことは断ろうと思ったのですが、紹介してきた同僚は「そういうところもあるけど、もう一回会ったら変わるから」「彼は会いたがっていて、誘われるのを待ってるよ」としつこく言ってきました。
身近な人からの紹介は、ありがたい面もあるものの面倒くさい。そう思った彼女は、再度マッチングサービスの利用を検討しました。
◆恋愛・婚活ノウハウを見ると迷走が加速する仕組み
結婚相談所を休んでも、結婚しないまま年齢が上がるという焦りはあったという美咲さん。YouTube、X、ブログなどで婚活に関する発信をこれまで以上にたくさん見るようになりました。
特定の恋愛インフルエンサーのLIVE配信を毎日聞くなどして、「男性から選ばれる女性になるために○○しなければ」といった、様々な思い込みが加速していったそうです。
美咲さんの話から少し逸れますが、婚活ノウハウを見すぎると迷走する構造を解説します。
婚活がうまくいかない人には、色んなタイプがいます。しかし婚活のアドバイスというものは、必要な人に正しく届くとは限りません。
例えば、婚活女性を以下の2タイプに分けたとします。
① どの男性と会っても「ピンとこない」と、全て断る女性
② どの男性も「いい人かもしれない」と、会った男性を断れない女性
①の「断る女性」向けの“ピンとこなくても一度は会ってみよう”といったアドバイスが②の「断れない女性」に響いてしまって疲弊を加速させたり、その逆で、「断れない女性」向けの“違和感は無視しない方がいい”というアドバイスが「断る女性」に響き、高望みをさらに正当化してしまったり、ということがよく起こります。
どちらかといえば、美咲さんは②の「断れない女性」だと思います。自分から申し込み(編集部注:結婚相談所における、相手に会ってみたいという意思表示)もして積極的だと思いますが、恋愛経験もなく真面目であるがゆえに、婚活ノウハウが自分を責める材料にもなりやすいようなのです。
◆本当の自分とかけ離れた“婚活服”でいいのか
そのころ、美咲さんは筆者のところへ婚活の相談にいらっしゃいました。当時の美咲さんは結婚相談所のアドバイスに則り、ウエストリボンのパステルカラーワンピースにパールアクセサリーを身につけた、大人しそうな服装をしていました。
それがご本人にとってしっくり来ていないことがわかり、「美大卒のデザイナーなのに服も髪型も大人しすぎてクリエイティブ職の人に見えないから、デザイナーに見えるようにしませんか」「婚活ノウハウ断ちして、今は回復に集中しよう」とお伝えしたのです。
個性を出した方が良いということではありません。需要と供給の差に注目しているだけです。
人生の早い段階で将来目指す仕事を決め、そのための専門教育を受け、その仕事に従事している専門職なのに、なんとなく進学先を選びなんとなく就職した一般的な会社員の方と大差ない、埋もれてしまうプロフィールではもったいないのです。
自分の世界を持っている女性が良いという男性がいるのに対し、そうした女性は希少なのです。残念ながら婚活ノウハウを見すぎて迷走していたこともあり、当時の美咲さんの姿は、自分の世界がある女性には見えませんでした。
◆丸投げ男や自己中男を引き寄せていた理由
また、美咲さんは自分から男性に申し込みをしたり、デートのお店を探して提案したり、相手が出やすいエリアを提案したりと、とても積極的でした。女性には受け身な人が多いからこそ、「積極的に女性から申し込みしましょう」という婚活ノウハウは多いのです。
「男性にやってもらうことが当たり前」「いい男がいない」と思う女性が多い中で、これは立派だと思います。
しかし女性が相手の都合に合わせてデートのお店を提案すると、「次もやってもらおう」と2回目も丸投げしたり、自分の都合がいいエリアを指定したりする男性もいます。美咲さんはそんな男性がいても明確に失礼な言動がないかぎり断らず、もう一回会ってみようという判断をしがちでした。
だからこそ、「今後は、先にGiveをしてTakeが返ってこない相手はどんどん断っていく方向にしよう」とお伝えしたのでした。
◆配偶者との出会いは“ヤリモクが多いと噂のアプリ”だった
SNSなどの婚活アドバイスから距離を置いた美咲さんは、「高学歴で大人しそうな人が多く、近くに住んでいる人を探しにくい結婚相談所は、自分には合わない」という結論に至ります。
片道1時間以上かけて相手に会いに行くことに疲れてしまっていた彼女は、マッチングアプリのTinderに再登録します。位置情報から近くにいる人が紹介されやすい点と、コミュ力が高いユーザーが多いという噂に魅力を感じたのです。なお、Tinderは私が勧めたわけではないです。
一般的にマッチングアプリではメッセージ送信をはじめ「男性は有料」という機能が多い中、Tinderの場合はメッセージ送信は男女ともに無料で、男性も無料でできることが多いです。そのため、出会いに困っているほどじゃないイケメンもいますが、ワンナイト目的のいわゆるヤリモクや、結婚相手でなく友達探しが目的のユーザーも少なくありません。しかし、様々な婚活サービスを使いすぎた美咲さんにとって、「Tinderは腹の探り合いもなくやりやすかった」そうです。
◆最後のアプリで「初めて相手の人柄を見るようになった」
美咲さんによるとTinderの魅力は3つだそうです。
「私はちゃんと顔写真を登録して使っていたんですが、顔がわかる写真で登録するユーザーがそもそも少ないので、それだけで『ちゃんとした人』って思ってもらえました。
ヤリモクもいますが『ヤリモクですけどいいですか?』って申告してくれるんです。『そういうつもりがないです』って返信すると『そうですか』で去っていくから楽でした。
今までは学歴とか条件で相手を見てしまっていたけど、Tinderは条件で絞れないし、初めて相手の人柄を見るようになったんです」
◆生まれて初めての彼氏と、交際半年で結婚
Tinderで、通勤途中の駅に住む1歳年下の男性とマッチングします。彼は「美大ってすごいですね。どういうことしているんですか?」「マンガが好きなので絵が上手な人、尊敬します」と初めから美咲さんに興味津々でした。
ずっと敬語でやりとりをして、2週間目にデートをします。彼は出版業界で働く会社員でした。「話さなきゃ」という義務感を感じることもなく自然に会話が続いてあっという間に時間が過ぎ、自然と次の約束をします。3回目のデートで告白され、生まれて初めての彼氏ができます。
彼氏ができれば、デートで帰りが遅くなることも出てきます。ところが美咲さんのお母さんは、彼女が社会人になっても過干渉気味。帰宅するとお母さんからキレ気味に「何してたの?」と言われ、家の居心地が悪くなりました。
そこで彼氏に「親が詮索してくる。早く結婚したい」と伝えたところ、しばらくしてプロポーズしてくれたのです。お付き合いから半年前後でのスピード婚でした。
◆条件検索をやめたら逆に、条件に合う人と出会えた
美咲さんに婚活を振り返ってもらい、何が最も効果があったのか教えてもらいました。
「条件で相手を見るのをやめたこと」だそうです。
これは、頭で分かっていたとしても、実際にマッチングサービスを利用しながら実行するのはとても難しいと思います。
お互いの年齢を知らずに知り合い惹かれ合って、結果的に10歳年上の男性と交際する可能性はあるかもしれないけれど、最初から「10歳年下の女性と付き合いたい」と申し込みしてくる年上男性のことは不快に感じるでしょう。
条件を妥協しようということではありません。「品定めしない人間になる」ということなのです。己の損得で自分に近づいてくる相手や、不躾(ぶしつけ)に品定めしてくる相手がいれば、本能的に「利用されそう」と思って避けたくなるでしょう。
なお、結婚したお相手男性は、結婚相談所で婚活していた時の条件が全て当てはまる理想の人だったそうです。
美咲さんの苦しい婚活体験談が誰かの希望になると嬉しいです。
末永いお幸せを願っております。
<取材・文&写真/菊乃>
※個人が特定されないよう一部脚色してあります。
<取材・文/菊乃>
【菊乃】
恋愛・婚活コンサルタント、コラムニスト。29歳まで手抜きと個性を取り違えていたダメ女。低レベルからの女磨き、婚活を綴ったブログが「分かりやすい」と人気になり独立。ご相談にくる方の約4割は一度も交際経験がない女性。著書「あなたの『そこ』がもったいない。」他4冊。Twitter:@koakumamt