俳優の吉村界人さん(31歳)が、ボクシングロードムービー『Welcome Back』に、粗暴だがヒールとして人気の新人ボクサー・テル役で出演。彼を慕う純粋無垢なベン(三河悠冴)との関係などを、圧巻のファイトシーンとともに描いた骨太な一作です。
吉村さんは、大きな話題になったNetflixドラマ『地面師たち』のホスト役としても最近注目を集め、俳優デビュー10年を経て、先輩俳優や監督からの助言や温かさに感謝していると言います。吉村さんの現在地、そして未来について聞きました。
◆「いい意味で時代遅れ」な役柄を演じて
――演じられたボクサーの冴木輝彦(通称:テル)ですが、どのようなキャラクターだと受け止めましたか?
吉村界人(以下、吉村):彼は、今の時代に馴染めない人間だなと思いました。僕の中では合理的にやって勝ち負けのない世界が令和って感じがしているのですが、その時代にボクシングの勝ちや負けにこだわり続け、しかもいろいろな人を巻き込み、そしてそれが全部めちゃくちゃすぎるんです。
――なるほど、確かにテルの生き方は今の時世で見た場合、あまり効率的とは言えないかもしれないですね。
吉村:今って、無駄を省くっていうか、いろんなものをメリット、デメリットで選ぶ時代で、本人がどうかというより、見てくれた人の反応を数値化して、「それがあなたの価値ですよ」という時代だなと思っています。でも、テルはそれとは真逆で「そんなの知らねえ」みたいな。それがいい意味で時代遅れだなって感じがしました。
――そのテルに見る時代遅れ感、彼の生き様を演じてみて惹かれたところなどありましたか?
吉村:試合に負けたけれど負けてはいないということを、彼は思っていると理解しました。すごい才能で駆け上がっていたけれどボクシングの試合で負け、一度は辞めるものの、また挑戦していく。そういう“負けたけど負けていない精神”は響きましたね。
◆プライベートでボクシングジムに通い続けている
――テルを追う純粋無垢な親友のベンを演じた三河悠冴さんとの共演はいかがでしたか?
吉村:三河のことは尊敬しています。同世代で素晴らしい俳優だなと思います。彼はインプット量がすごいんですよ。お芝居のことに限らず、音楽、映画、書籍、たくさんのことを教えてもらいました。博識で、あんな人間は同世代にあまりいないと思う。それに、人のいいところを探すのが得意なんです。僕はすぐ「あれは、なんとかかんとかだ」と口に出しちゃうけれど、三河はまったく違いますね。
――撮影のためにボクシングを始めて、今でもボクシングジムに行かれているそうですね。
吉村:そうですね。行く前って緊張して心拍数が100以上になるんです。ヘッドギアを付けてはいますが、明らかに僕よりも経験値が高い方が多いところへ、ブン殴られることをわかって行くわけです。終わったあとは立てないくらいになります。中学の頃、先輩に呼び出されて今からブン殴られるんだろうなっていう緊張感とでも言うのか(苦笑)、この緊張感が毎日あると楽しいんです。
――本作の撮影は29歳当時だとすると、3年間くらい続いているわけですね。
吉村:そうですね。誰だってただ殴られたくはないじゃないですか(笑)。でも、そこへ行ってトレーニングをするということが、僕には合っていました。家でスマホをいじっているよりも楽しいんです。あとは俳優という仕事へのモチベーションにもつながっています。
◆話題作『地面師たち』で知名度が上がったが……
――2024年は、出演されたNetflixドラマ『地面師たち』も大きな話題になり、充実した一年だったのではないでしょうか?
吉村:街を歩いていて「地面師に出ている人!」と言われはしました。たまに名前で呼んでくださる人もいたり、でも、僕の実力じゃないし、僕があそこまで持って行ったわけでもない。綾野剛さん、大根仁監督、原作者、スタッフの方たちが舵をとっていた『地面師たち』という船に、自分もただ乗せていただいただけで。僕は同世代がたくさんいる中で、自分のポジションは自分で用意しないといけないのかなと思っていますし。
――と、言いますと?
吉村:自分が座るイスは、自分で持ってこないといけない感じです。どこを見てもすでに誰かが座っているので、オレはどこに座ればいいのかということを考えていた一年だった。で、そのイスはないんだろうなということを実感した。そんな一年でした。
――それで自分で何とかしないといけないと。
吉村:なので誰も行きたくないポジション、苦手なポジションに自分は行っている気がするなと。行きたくないというか、誰も近づきたくないようなポジションがあるのだとしたら、そこに自分は向かっているのかなと。それがイスっていえばイスなのかもしれないですが。
◆先輩・柳楽優弥から「英語やってるか?」
――2025年は、そんな現状を変えたい!?
吉村:あるがままに行くしかないよなと思います。誰かが持っているものをうらやむような人間にはなりたくないんですよね。もともとそういうことはあまり得意じゃないので、だったらもうやるしかないなと。英会話も1ミリずつって感じで全然上達してないですが、やっています。殺陣も週1で習っていて。1ミリずつ、全部を1ミリずつやっている感じです。
――英会話や殺陣などを始めたきっかけは何でしたか?
吉村:英会話は、2年前くらいですかね。あまりきっかけは覚えていないのですが、始めました。よくしてもらっている先輩の柳楽優弥さんがメッセージをくれるんですよ。「英語やってるか?」「このテキストを買え」と連絡をくださる。それから「やんないといけないすよね」みたいな会話を経て、しばらくしたら「やった?」ってポンとメッセージが来た。そのしばらく後にご飯一緒に行って「やってないの?」って本気の目だったので、もうやるしかないんだなって思いました(苦笑)。そういうまわりの影響もありました。
――いい関係性ですね。30代は、どのように過ごしたいですか?
吉村:それこそ『地面師たち』の大根仁監督と一度だけご飯に行ったのですが、大根監督が僕に「たぶん吉村君、今後金髪にしてガーッ!みたいな役が増えると思うけれど、断らずにやってよ」って。「嫌だろうけれど、そのほうが絶対いいと思う」って言ってくださった。自分としては広告のお仕事がいただけるような清潔感のある役がやりたいな(笑)と思いながらも、でもまあそれはのちのち頑張ればいいのかなと最近思っています。
――自分のやりたいことはともかく、求められること、できることを。
吉村:そうですね、お金やものを優先させる俳優というよりは、このままいこうかなって感じです。でも、チャレンジもしていきたいですね。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。
吉村さんは、大きな話題になったNetflixドラマ『地面師たち』のホスト役としても最近注目を集め、俳優デビュー10年を経て、先輩俳優や監督からの助言や温かさに感謝していると言います。吉村さんの現在地、そして未来について聞きました。
◆「いい意味で時代遅れ」な役柄を演じて
――演じられたボクサーの冴木輝彦(通称:テル)ですが、どのようなキャラクターだと受け止めましたか?
吉村界人(以下、吉村):彼は、今の時代に馴染めない人間だなと思いました。僕の中では合理的にやって勝ち負けのない世界が令和って感じがしているのですが、その時代にボクシングの勝ちや負けにこだわり続け、しかもいろいろな人を巻き込み、そしてそれが全部めちゃくちゃすぎるんです。
――なるほど、確かにテルの生き方は今の時世で見た場合、あまり効率的とは言えないかもしれないですね。
吉村:今って、無駄を省くっていうか、いろんなものをメリット、デメリットで選ぶ時代で、本人がどうかというより、見てくれた人の反応を数値化して、「それがあなたの価値ですよ」という時代だなと思っています。でも、テルはそれとは真逆で「そんなの知らねえ」みたいな。それがいい意味で時代遅れだなって感じがしました。
――そのテルに見る時代遅れ感、彼の生き様を演じてみて惹かれたところなどありましたか?
吉村:試合に負けたけれど負けてはいないということを、彼は思っていると理解しました。すごい才能で駆け上がっていたけれどボクシングの試合で負け、一度は辞めるものの、また挑戦していく。そういう“負けたけど負けていない精神”は響きましたね。
◆プライベートでボクシングジムに通い続けている
――テルを追う純粋無垢な親友のベンを演じた三河悠冴さんとの共演はいかがでしたか?
吉村:三河のことは尊敬しています。同世代で素晴らしい俳優だなと思います。彼はインプット量がすごいんですよ。お芝居のことに限らず、音楽、映画、書籍、たくさんのことを教えてもらいました。博識で、あんな人間は同世代にあまりいないと思う。それに、人のいいところを探すのが得意なんです。僕はすぐ「あれは、なんとかかんとかだ」と口に出しちゃうけれど、三河はまったく違いますね。
――撮影のためにボクシングを始めて、今でもボクシングジムに行かれているそうですね。
吉村:そうですね。行く前って緊張して心拍数が100以上になるんです。ヘッドギアを付けてはいますが、明らかに僕よりも経験値が高い方が多いところへ、ブン殴られることをわかって行くわけです。終わったあとは立てないくらいになります。中学の頃、先輩に呼び出されて今からブン殴られるんだろうなっていう緊張感とでも言うのか(苦笑)、この緊張感が毎日あると楽しいんです。
――本作の撮影は29歳当時だとすると、3年間くらい続いているわけですね。
吉村:そうですね。誰だってただ殴られたくはないじゃないですか(笑)。でも、そこへ行ってトレーニングをするということが、僕には合っていました。家でスマホをいじっているよりも楽しいんです。あとは俳優という仕事へのモチベーションにもつながっています。
◆話題作『地面師たち』で知名度が上がったが……
――2024年は、出演されたNetflixドラマ『地面師たち』も大きな話題になり、充実した一年だったのではないでしょうか?
吉村:街を歩いていて「地面師に出ている人!」と言われはしました。たまに名前で呼んでくださる人もいたり、でも、僕の実力じゃないし、僕があそこまで持って行ったわけでもない。綾野剛さん、大根仁監督、原作者、スタッフの方たちが舵をとっていた『地面師たち』という船に、自分もただ乗せていただいただけで。僕は同世代がたくさんいる中で、自分のポジションは自分で用意しないといけないのかなと思っていますし。
――と、言いますと?
吉村:自分が座るイスは、自分で持ってこないといけない感じです。どこを見てもすでに誰かが座っているので、オレはどこに座ればいいのかということを考えていた一年だった。で、そのイスはないんだろうなということを実感した。そんな一年でした。
――それで自分で何とかしないといけないと。
吉村:なので誰も行きたくないポジション、苦手なポジションに自分は行っている気がするなと。行きたくないというか、誰も近づきたくないようなポジションがあるのだとしたら、そこに自分は向かっているのかなと。それがイスっていえばイスなのかもしれないですが。
◆先輩・柳楽優弥から「英語やってるか?」
――2025年は、そんな現状を変えたい!?
吉村:あるがままに行くしかないよなと思います。誰かが持っているものをうらやむような人間にはなりたくないんですよね。もともとそういうことはあまり得意じゃないので、だったらもうやるしかないなと。英会話も1ミリずつって感じで全然上達してないですが、やっています。殺陣も週1で習っていて。1ミリずつ、全部を1ミリずつやっている感じです。
――英会話や殺陣などを始めたきっかけは何でしたか?
吉村:英会話は、2年前くらいですかね。あまりきっかけは覚えていないのですが、始めました。よくしてもらっている先輩の柳楽優弥さんがメッセージをくれるんですよ。「英語やってるか?」「このテキストを買え」と連絡をくださる。それから「やんないといけないすよね」みたいな会話を経て、しばらくしたら「やった?」ってポンとメッセージが来た。そのしばらく後にご飯一緒に行って「やってないの?」って本気の目だったので、もうやるしかないんだなって思いました(苦笑)。そういうまわりの影響もありました。
――いい関係性ですね。30代は、どのように過ごしたいですか?
吉村:それこそ『地面師たち』の大根仁監督と一度だけご飯に行ったのですが、大根監督が僕に「たぶん吉村君、今後金髪にしてガーッ!みたいな役が増えると思うけれど、断らずにやってよ」って。「嫌だろうけれど、そのほうが絶対いいと思う」って言ってくださった。自分としては広告のお仕事がいただけるような清潔感のある役がやりたいな(笑)と思いながらも、でもまあそれはのちのち頑張ればいいのかなと最近思っています。
――自分のやりたいことはともかく、求められること、できることを。
吉村:そうですね、お金やものを優先させる俳優というよりは、このままいこうかなって感じです。でも、チャレンジもしていきたいですね。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。