1月から放送を開始した新ドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系、木曜よる10時~)。不祥事を起こしてテレビ局を退職するも、政治家に転身して人生再起をかける大森一平(香取慎吾)が主人公の本作。国会議員の秘書を務める幼馴染・真壁考次郎(安田顕)の助言を受け、生活者目線があることをアピールするため、シングルファーザーの義弟・小原正助(志尊淳)一家と同居して“偽りのホームドラマ”を演じ切るところから物語が始まる。
◆視聴リタイアしそうだったが、2話で考えを改めた
香取慎吾が11年ぶりにフジテレビ系の連続ドラマに主演するということで話題を集めたが、1話は大きなインパクトは残せなかった印象。私利私欲のために正助一家を利用しようとする一平はタイトル通りの最低男ではある。しかし、1話では保育園のお遊戯会で上手く踊れるのか不安感を抱く正助の息子・朝陽(千葉惣二朗)のためにダンスの練習に付き合ってあげたりなど、言うほど最低ではない。送り迎えも積極的に行い、間違いなく正助の支えになっている。
この枠、前クールでは托卵をテーマにしたドラマ『わたしの宝物』が放送されていただけに、どこまで壮大な最低ぶりを見せてくれるのかを期待していた筆者は拍子抜け。「3話くらいで視聴リタイアかな」と思ったが、2話の内容がとても良く「最終回まで視聴したい」と考えを改めた。
実際「1話はイライラが勝ったんだけど、2話は香取慎吾が主演なだけで平成を感じてエモく思えてきた」「なんか1話と2話、別の作品かと思うくらい雰囲気違ったね」などSNSでも2話を賞賛する声が相次ぎ、視聴者の心を掴むことに成功していることがうかがえる。
◆同性カップルを利用した“最低な画策”
2話のあらすじをまとめる。冒頭、考次郎から町会長を務める地元の有力者・二階堂慎太郎(岩松了)の懐に入るようにアドバイスされる一平。慎太郎のもとを早速訪れると、1人息子の剣聖(佐野玲於)がなかなか実家に顔を出してくれないことを聞かされる。
一平の学生時代の後輩・今永都(冨永愛)が経営するイタリアンカフェで、一平は偶然、剣聖と遭遇。剣聖は交際中の男性・智也(中井大)と一緒にいた。話を聞くと、実家に帰る度に父親から「いつ結婚するんだ」「孫の顔が早く見たい」と言われることに辟易して足が遠のいたのだという。さらには、自身のセクシャリティを受け入れてもらえないことも懸念している雰囲気だ。
この話を聞いた一平は、剣聖と智也が結婚式を挙げるまでの様子を映したドキュメンタリー番組の制作を考案。剣聖の思いを番組を通して父・慎太郎に伝えることで、2人の関係性を修復させれば慎太郎の懐に入り込めると画策する。
幸い、剣聖と智也は番組制作を快諾。ただ、剣聖が慎太郎にカミングアウトする場に撮影のために同席した一平ではあるが、その際剣聖から「俺、ゲイなんだと」と聞かされた慎太郎は激しく狼狽。険悪な空気が流れる中、剣聖は逃げるように慎太郎の前から立ち去ってしまう。
◆「誰かを感動させるための素材じゃない」
カミングアウトが上手くいかなかったことにより、剣聖と智也の関係も悪化し、結婚式もキャンセルすることに。そして、剣聖から撮影辞退の申し出を受けると、一平は何とか引き止めるために言葉を並べる。ここで2人は「僕たちはニュースの題材じゃないんです。僕たちを取材するときに『LGBTQもの』っておっしゃいましたけど、僕たちは誰かを感動させるための素材じゃないんです」と激高。
続けて、「一平さんは『辛くて大変なことばかりでしたよね、力になります』って言いましたけど、別にゲイだからって全ての瞬間が辛いわけじゃない」「『大変』という言葉で僕たち2人をくくらないでほしい。僕たちはかわいそうな人じゃありませんから」と声を荒げた。
◆「このドラマは信頼できる」確信を持てた場面は
最終的に一平は改心して、剣聖と智也のための手作りの結婚式の開催を提案。無事に結婚式を成功させるだけではなく、剣聖と慎太郎の関係も改善に向かい幕を閉じた。ハッピーエンドではあったが、序盤に剣聖がゲイであることを一平にカミングアウトした時には嫌な予感がした。というのも、「ただ“今流行っている題材”という理由からセクシャルマイノリティを登場させただけでは?」という疑問が頭をよぎったからだ。
セクシャルマイノリティが置かれている境遇や、必要な知識に触れられるため、ドラマで描かれること自体は気にならない。とはいえ、最近は“体(てい)のいい題材”としてメディアで取り上げられているイメージも少なくない。「このドラマもそういう感じか」と落胆しかけていたが、剣聖が「僕たちはニュースの題材じゃないんです」と言い放ったシーンでその考えは逆転。昨今の“マイノリティブーム”を揶揄するセリフの連続に、「このドラマは信頼できる」と確信を持てた。
◆マイノリティが虐げられる姿に、多くの人が熱狂
また、「別にゲイだからって全ての瞬間が辛いわけじゃない」というセリフの鋭さも半端ではない。マイノリティという言葉だけ聞くと、どうしても“可哀想な人”と想起されやすい。ただ、そういった連想を容易にしている背景として、「マイノリティには不幸でいてほしい」という“ある種のニーズ”が影響しているのかもしれない。
2023年に公開されたアメリカ映画『アメリカン・フィクション』では、売れない小説家のモンク(ジェフリー・ライト)が小説を書き上げるも「黒人らしくない」という理由から出版を却下される。モンクは半ばやけっぱちになり、“貧困にあえぐかわいそうな典型的な黒人”が登場する小説をリリースしたところ、まさかの大ヒット。黒人が虐げられることに多くの読者が熱狂する様がコメディタッチで描かれていた。
『アメリカン・フィクション』ではかわいそうな黒人を“消費”する現代社会の歪(いびつ)さがユーモラスに表現されていたが、実際にマイノリティが不幸であることに安心感を覚えたり、そんなマイノリティに寄り添うことに自己陶酔したりしている人は一定数いるかもしれない。そういったところまで想像したくなるほど、2話の剣聖のセリフにはインパクトがあった。
今後もどのようなストーリーが展開され、どのようなパンチラインが飛び出すのか楽しみにしたい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki
◆視聴リタイアしそうだったが、2話で考えを改めた
香取慎吾が11年ぶりにフジテレビ系の連続ドラマに主演するということで話題を集めたが、1話は大きなインパクトは残せなかった印象。私利私欲のために正助一家を利用しようとする一平はタイトル通りの最低男ではある。しかし、1話では保育園のお遊戯会で上手く踊れるのか不安感を抱く正助の息子・朝陽(千葉惣二朗)のためにダンスの練習に付き合ってあげたりなど、言うほど最低ではない。送り迎えも積極的に行い、間違いなく正助の支えになっている。
この枠、前クールでは托卵をテーマにしたドラマ『わたしの宝物』が放送されていただけに、どこまで壮大な最低ぶりを見せてくれるのかを期待していた筆者は拍子抜け。「3話くらいで視聴リタイアかな」と思ったが、2話の内容がとても良く「最終回まで視聴したい」と考えを改めた。
実際「1話はイライラが勝ったんだけど、2話は香取慎吾が主演なだけで平成を感じてエモく思えてきた」「なんか1話と2話、別の作品かと思うくらい雰囲気違ったね」などSNSでも2話を賞賛する声が相次ぎ、視聴者の心を掴むことに成功していることがうかがえる。
◆同性カップルを利用した“最低な画策”
2話のあらすじをまとめる。冒頭、考次郎から町会長を務める地元の有力者・二階堂慎太郎(岩松了)の懐に入るようにアドバイスされる一平。慎太郎のもとを早速訪れると、1人息子の剣聖(佐野玲於)がなかなか実家に顔を出してくれないことを聞かされる。
一平の学生時代の後輩・今永都(冨永愛)が経営するイタリアンカフェで、一平は偶然、剣聖と遭遇。剣聖は交際中の男性・智也(中井大)と一緒にいた。話を聞くと、実家に帰る度に父親から「いつ結婚するんだ」「孫の顔が早く見たい」と言われることに辟易して足が遠のいたのだという。さらには、自身のセクシャリティを受け入れてもらえないことも懸念している雰囲気だ。
この話を聞いた一平は、剣聖と智也が結婚式を挙げるまでの様子を映したドキュメンタリー番組の制作を考案。剣聖の思いを番組を通して父・慎太郎に伝えることで、2人の関係性を修復させれば慎太郎の懐に入り込めると画策する。
幸い、剣聖と智也は番組制作を快諾。ただ、剣聖が慎太郎にカミングアウトする場に撮影のために同席した一平ではあるが、その際剣聖から「俺、ゲイなんだと」と聞かされた慎太郎は激しく狼狽。険悪な空気が流れる中、剣聖は逃げるように慎太郎の前から立ち去ってしまう。
◆「誰かを感動させるための素材じゃない」
カミングアウトが上手くいかなかったことにより、剣聖と智也の関係も悪化し、結婚式もキャンセルすることに。そして、剣聖から撮影辞退の申し出を受けると、一平は何とか引き止めるために言葉を並べる。ここで2人は「僕たちはニュースの題材じゃないんです。僕たちを取材するときに『LGBTQもの』っておっしゃいましたけど、僕たちは誰かを感動させるための素材じゃないんです」と激高。
続けて、「一平さんは『辛くて大変なことばかりでしたよね、力になります』って言いましたけど、別にゲイだからって全ての瞬間が辛いわけじゃない」「『大変』という言葉で僕たち2人をくくらないでほしい。僕たちはかわいそうな人じゃありませんから」と声を荒げた。
◆「このドラマは信頼できる」確信を持てた場面は
最終的に一平は改心して、剣聖と智也のための手作りの結婚式の開催を提案。無事に結婚式を成功させるだけではなく、剣聖と慎太郎の関係も改善に向かい幕を閉じた。ハッピーエンドではあったが、序盤に剣聖がゲイであることを一平にカミングアウトした時には嫌な予感がした。というのも、「ただ“今流行っている題材”という理由からセクシャルマイノリティを登場させただけでは?」という疑問が頭をよぎったからだ。
セクシャルマイノリティが置かれている境遇や、必要な知識に触れられるため、ドラマで描かれること自体は気にならない。とはいえ、最近は“体(てい)のいい題材”としてメディアで取り上げられているイメージも少なくない。「このドラマもそういう感じか」と落胆しかけていたが、剣聖が「僕たちはニュースの題材じゃないんです」と言い放ったシーンでその考えは逆転。昨今の“マイノリティブーム”を揶揄するセリフの連続に、「このドラマは信頼できる」と確信を持てた。
◆マイノリティが虐げられる姿に、多くの人が熱狂
また、「別にゲイだからって全ての瞬間が辛いわけじゃない」というセリフの鋭さも半端ではない。マイノリティという言葉だけ聞くと、どうしても“可哀想な人”と想起されやすい。ただ、そういった連想を容易にしている背景として、「マイノリティには不幸でいてほしい」という“ある種のニーズ”が影響しているのかもしれない。
2023年に公開されたアメリカ映画『アメリカン・フィクション』では、売れない小説家のモンク(ジェフリー・ライト)が小説を書き上げるも「黒人らしくない」という理由から出版を却下される。モンクは半ばやけっぱちになり、“貧困にあえぐかわいそうな典型的な黒人”が登場する小説をリリースしたところ、まさかの大ヒット。黒人が虐げられることに多くの読者が熱狂する様がコメディタッチで描かれていた。
『アメリカン・フィクション』ではかわいそうな黒人を“消費”する現代社会の歪(いびつ)さがユーモラスに表現されていたが、実際にマイノリティが不幸であることに安心感を覚えたり、そんなマイノリティに寄り添うことに自己陶酔したりしている人は一定数いるかもしれない。そういったところまで想像したくなるほど、2話の剣聖のセリフにはインパクトがあった。
今後もどのようなストーリーが展開され、どのようなパンチラインが飛び出すのか楽しみにしたい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki