1909(明治42)年建築の古民家「猪之鼻庭(いのはなてい)」(横浜市泉区)が今春、古民家レストランとしてリニューアルオープンした。「猪之鼻庭」を次世代に残そうと、飲食業未経験の笹川りえさんがウエディングプランナーから転身し、オーナーとして奮闘。素材と手間を惜しまない季節のコース料理と共に、こだわったのは「全員が適材適所で役割を持って働くフラットな組織」による店舗運営だ。
店名でもある「猪之鼻庭」は、すぐ隣の造園業「猪之鼻園」の経営者が所有し、店舗として賃貸されていたが今年1月初旬、飲食店が撤退。ウエディングプランナーとして同所での結婚式を手がけ、縁のあった笹川さんが「もともと日本文化に興味があり、本当に好きな場所だった。家主さんの守りたいという思いに、未経験だけどやってみよう」と手を上げた。
新たな店のコンセプトは猪之鼻庭の雰囲気や空間を生かし、「本当に大切な人と大切な時間を過ごしていただく場所」を掲げた。家族や3世代で、大切な商談などで、ゆっくりと話ができるように「メニューはコース料理にした」。素材や調味料にもこだわった。
子ども向けメニューでは、かつお節とコンブで引いただしで煮込んだハンバーグにスタッフが目の前でかつお節を削って振りかけたり、イノシシをかたどった皮を特注した合わせもなかをデザードにしたりと、「会話のきっかけになる」「ここにしかない」工夫も。
オープンから半年余り、特に宣伝はせず口コミだけで営業し、「最近はずっと週末は予約で満席」という。予約不要のカフェタイム(午後2時から)や、新たにアフタヌーンティーの取り組みも始めた。
さらに店舗運営でこだわったのが、誰か一人が権限を持つトップダウンの組織ではなく、「みんなが思った意見をどんどん出せるフラットな組織をつくりたい」という思い。「プロの飲食会社と同じことをしてもうまくいくわけがない。全員野球の組織にスーパープレーヤーはいらない」と考えた。