海で起こる事件や事故の緊急通報用電話番号「118番」への誤発信がなくならない。海上保安庁が2000年5月に導入以降、間違いやいたずらなどの「無効通報」が例年99~98%を占める。なぜか。通報全体の約4割を受ける第3管区海上保安本部(横浜市中区)が独自に調べたところ、原因の一つにスマートフォンのある機能が浮かび上がった。
◆3管への「無効通報」99%
118番は海上での事件・事故だけでなく、巧妙化する密輸や密航などにも的確に対応するため、導入された。
だが、ほとんどが無効通報だ。海保によると、その割合は当初から99~98%と、高い水準で推移し続けている。
22年は全国で約39万1千件の通報があったが、無効通報は98.7%。内訳は多い順に、無言電話が約15万6千件、間違いが約12万5千件、着信時に電話を切る「即断」が約9万2千件、いたずらが約1万2千件だった。
神奈川を含む1都8県からの通報を受ける3管には、全国最多の約15万8千件の通報があったが、うち99.5%が無効通報だった。
◆「業務圧迫は対応の遅れに」
もちろん、適切に利用されたケースもある。静岡県伊東市で昨年8月、堤防で釣りをしていた男子大学生と父親が高波にさらわれ海に転落。目撃者が118番通報し、水上バイクで駆けつけた海上保安官らによって救助された。
それだけに、3管の担当者は「(無効通報で)業務が圧迫され、事件事故の対応の遅れにつながりかねない」と頭を悩ませる。
3管が無効通報を分析したところ、消費者ホットライン「188」や時報サービス「117」と勘違いしたり、札幌市などの市外局番「011」の後に「8」が続く番号をかけ間違えたりしたケースが確認された。ただ詳しい原因までは分からなかった。そこで昨年5月、独自調査に踏み切った。
◆スマホの「緊急通報」で誤作動?
通報を受ける運用司令センターの職員が、無効電話をかけた相手に直接理由を聞き取った。電話が切れた場合でも折り返すなど、可能な範囲で調査。その結果、例年40%程度を占める無言電話の原因の一つに、スマートフォンの「緊急通報機能」があることが分かった。
登録された緊急連絡先に自動で通報する機能だが、簡単なボタン操作でできるため、ポケットの中など持ち主が知らぬ間に誤作動しているケースが多かったという。3管救難課の塩見慶史課長は「設定変更やソフトウエアの更新など、その都度、改善方法を説明している」と話す。
◆認知度向上も課題
118番は、110番や119番に比べて認知度が低いのも長年の課題だ。導入から20年以上がたった22年のアンケートでも、118番を知っている人は47.9%と半数に届かなかった。
海保は今後も、1月18日に制定した「118番の日」を中心に、イベントなどでPRを続けていく方針だ。塩見課長は「無効通報で本当に困っている人の電話がつながらなくなる。118番の重要性を引き続き説明していく」と力を込めた。