昨年10月、山口県で行われた全日本マスターズ陸上選手権に、女性では最高齢で出場した横浜市港南区の山田恵美子さん(90)。脳梗塞を患いながらもやり投げで競技の舞台に立ち続け、今年1月には横浜市からスポーツ奨励賞を受賞した。真剣勝負で体を動かし、周囲に元気な姿を見せるのが山田さんの原動力。「次の大会では短距離を走る」とその意欲は衰えを知らない。
「勝つのがうれしくて」。そう語る山田さんは、84歳で初めて競技会に出場するまで本格的に陸上に打ち込んだ経験はなかった。きっかけは、腕や脚を痛めた交通事故。退院後、リハビリの一環として市内の空手道場に足を運び、道場の生徒で陸上指導者でもある松本伸一さん(64)と出会った。
けがの後遺症はなかったようで、道場を駆け回り、道場生の子どもたちの遊び相手をしていた山田さんの姿に、松本さんは「こんな元気なおばあちゃんがいるのか」と驚いたという。松本さんに勧められ、山田さんは心身の健康維持・促進を図り、生涯スポーツの推進などを目的に年代別に競う陸上のマスターズ大会へと足を踏み入れた。
2018年8月、県マスターズ陸上に100メートルと砲丸投げで出場。他の選手とトラックで競う楽しさにのめり込み、短距離走だけでなく、やり投げなどの新しい種目にも挑戦してきた。
そんな中、昨年5月に脳梗塞を発症し左半身には後遺症が残った。「もうこれで駄目かな」。競技を見守ってきた松本さんは当初、そう言って肩を落としたが、山田さんの気力は衰えない。3カ月の入院期間を通して心は常に競技復帰へと向かっていた。「目標があるからこそ頑張れる」。その言葉通り、執念のリハビリの末、同10月には再び自らの足でフィールドに立った。
90代女性の部で唯一の出場に、会場からは声援が湧いた。やり投げの結果は1メートル04と悔しさの残るものだったが、「私は自分に勝ったの」とうなずく。現在も車いす生活を余儀なくされている。それでも再び100メートルを走り切ることを新たな目標に掲げ、日々リハビリに取り組んでいる。