今年1月、横浜市西区の野毛山動物園で飼育されていたチンパンジーの「ピーコ」(雌、推定58歳)が老衰で死んだ。半世紀以上にわたって来園者を出迎え、「ピーコさん」の愛称で親しまれたチンパンジーへの惜別のメッセージはSNS(交流サイト)で途切れることがなく、飼育員もまた動物との向き合い方を学んだ貴重な日々を忘れることはない。
「ゆっくり休んでね」「悲しすぎて涙が止まらないよ」「今までありがとう」
2024年1月23日、同園で57年間過ごした1頭のチンパンジーが息を引き取った。その直後に同園が呼びかけたSNSでの「#ありがとうピーコさん」の投稿は瞬く間に拡散され、ご長寿動物として愛されてきた様子が垣間見えた。
「ピーコさん」は1966年12月8日、アフリカから横浜にやってきた。推定1歳のピーコはワンピースを着てパレードに登場するなど、当初は「見せ物」としての色合いが強かった。
90年代以降に動物園が「種の保存」や「調査・研究」といった役割を担うようになり、ピーコを取り巻く環境も変わっていったが、飼育員に伝える言葉なきメッセージは不変だった。
飼育員歴約20年の伊原茂男さん(41)は、感慨深げに振り返る。「ピーコさんは賢さ、怖さ、楽しさ、優しさを教えてくれた」
約4年前にピーコを担当した伊原さんは当初、食事を与えようとしても水をかけられたり、指をかまれそうになったりした。先輩の助言も生かせず、厳しく叱りつけることもあった。