鉄道ファン、しっかり神奈川新聞社内にも生息しております。思うがままに訪れ、乗り、記した旅情、うんちく、郷愁…。「鉄道愛は続くよ、どこまでも」を地で行く鉄道記者コラムの最新版。
新宿発鬼怒川温泉行の特急列車があることを知らなかった。その昔夜な夜なお世話になったゴールデン街から北関東の山深い名湯まで1本で行ける。40年前のインドなら混沌のカルカッタから聖なる沐浴の地ベナレスを結ぶようなもの。混沌と静謐(せいひつ)はつながっている。
新宿駅南端の6番線、こぎれいな6両編成が発車した。JR東日本の池袋駅や大宮駅に止まり東北本線栗橋駅でJR線から連絡線を通り東武鉄道に入った。
北関東の車窓はまさに春。農家の屋敷林や小山に点在する里のサクラが春の日差しに輝いていた。2時間ほどで着いた鬼怒川温泉は駅の間近に山が迫る。足湯や巨大な温泉ホテル群があり大観光地である。それでも空気や時間の流れは違う。
さらに山奥へ向かう。あたりは川治、湯西川など温泉が多い。秘湯の奥鬼怒温泉郷まで小さな路線バスと送迎バスを乗り継ぎ2時間。そこは深山の別世界、何もないようで素晴らしい温泉がある。
目の前に滝がある石のふろに20分つかればつらい思いはやわらぎ、やがて心は真っ白に洗われる。
飲み屋街通いはもう卒業かな、と野天の明かりに目を凝らす。ネオンに浮かぶゴールデン街店主が「いらっしゃい」と誘っているような気がした。(O)