野毛山動物園(横浜市西区)には、果物に桜の模様を彫ったり、ハロウィーンのカボチャを刻んだりするカービングの技術で来場者を魅了する飼料担当の職員がいる。入社2年目で来園者から“シェフ”とも称される高橋哲三さん(33)は元料理人。さまざまな職業を経験して今の職にたどり着いたといい、「自分が得意なことを仕事に生かせて、さらにそれで喜んでくれる人がいることがうれしい」と充実感を漂わせる。
刃先約3センチのカービングナイフと水性ペンが商売道具だ。リンゴやオレンジにデザインを描き、そこからナイフを細かく動かしながら作品を完成させていく。ハロウィーンにはカボチャをくりぬいて「ジャック・オ・ランタン」を作り、動物の誕生日に合わせて「Happy Birthday」などのお祝いの文字を果物に刻むなどして、イベントに彩りを与えてきた。
高橋さんはライオンや鳥類などの動物の飼料を調理する「飼料担当」として勤務する。クリスマスなどのイベントでは果物の餌に一工夫を凝らし、交流サイト(SNS)上には来園者からの「野毛山動物園のシェフさん、いつもすてきな作品をありがとう」といった言葉が並ぶ。同僚からも「高橋さん以外の職員でこんなことできる人はいない」と絶賛されるほどだ。
ただ、高橋さんが新たな道を歩み出すには想像を絶する苦労と挫折があった。