一連の不祥事の責任を負い海上自衛隊トップの酒井良・海上幕僚長が19日に辞任する。事実上の更迭だが、国の安全保障に関わる「特定秘密」の不正取り扱いを巡っては「政府全体の問題」(自民幹部)との指摘も相次ぐ。「制服組(自衛官)」と「背広組(官僚)」との壁、現場の実情を踏まえない制度運用など課題は山積。岸田文雄首相は「今のウクライナは明日の日本の姿」と危機をあおるが、情報の取り扱い一つとっても防衛の足元が定まらない深刻な病根が露呈している。
「特定秘密」関係の処分事案の中で注目されるのが、昨年11月に中東で海賊対処行動に当たっていた護衛艦「あけぼの」を巡るケースだ。艦長はミサイル発射関連情報の入電を受け戦闘指揮所(CIC)で緊急会議を招集。ミサイル攻撃を受ける可能性もあると判断したことから情報共有のためスクリーンに「特定秘密」案件を表示したが、その場に無資格者1人がいたという。
艦内への情報周知を行う伝令役とみられる。CICへの伝令役の配置は必須で「あけぼの」以外の艦でも同様の処分が下された。海自関係者は「危機に直面した時に資格の有無を確認している余裕はない。有事対応に沿った配置を実現することが再発防止の第一歩だ」と指摘した。
同関係者によると、特定秘密を扱う資格者になるためには「適性評価」を受けなければならないが、プライバシーに踏み込んだ調査があり対象者を絞らざるを得なかった。資格を得るには週単位の期間が必要で、海自の場合、審査人数が大幅に増えればその間の艦艇運航に支障が出かねないからだという。
「背広組」の官僚経験者は「資格者確保のためには政府挙げての長期的な育成策が欠かせないことは分かっていた」と明かした上で「上司に進言したが『制服組が現場で考えることだ』と一顧だにされなかった」という。「制服組」への情報共有も進められず、部隊での教育もほどんど行われなかったとされる。