反捕鯨団体「シー・シェパード」の創設者ポール・ワトソン容疑者の日本への身柄引き渡しを巡り、政府が苦境に陥っている。パリ五輪開催地で反捕鯨国であるフランスが反対を明言。欧州内で日本への圧力が強まりつつあるためだ。一方で漁業者側に立つ自民党関係者は「即刻、日本での取り調べを行うべきだ」(中堅議員)との強硬姿勢。岸田文雄首相(自民党総裁)は欧州と党との間で板挟み状態で、林芳正官房長官も身柄引き渡しを受けるかすら明言していない。
日本政府が把握している情報や外電によると、デンマーク自治領グリーンランドの警察がワトソン容疑者を拘束したのは今月21日。国際刑事警察機構(ICPO)は「正当な漁業活動を妨害した」などとした日本政府の訴えを受け入れ、国際手配していた。デンマークから日本への引き渡し期限は「逮捕後30日以内」とされ、移送などの各種事情を踏まえると来月15日が相当するという。
フランス大統領府は23日付で「マクロン大統領がワトソン容疑者の身柄を日本に引き渡さないようデンマーク政府に強く要請している」との発表を行った。パリ五輪の開催期間は来月11日まで。官邸関係者は「逮捕のタイミングが悪い。開催中に身柄引き渡し手続きに入れば日本選手へのブーイングなど嫌な動きが出かねない」と五輪での影響を懸念。欧州の多くの国が反捕鯨方針であることを踏まえ「岸田首相が強めたNATO(北大西洋条約機構)との連携にも影響が出かねない」とも付言した。