花火の季節がやって来た。夜空に打ち上がる大輪の花に、多くの観客は心を躍らせる。その花火が、大きく「進化」していることをご存じだろうか。ヒットソングと花火が0.03秒単位で呼応した緻密なプログラムを操り、音と光の相乗効果で盛り上げる。そんな制作の“舞台裏”をのぞいてみた。
使用曲を何度も聞き込み、アーティストのミュージックビデオも繰り返し視聴する。音楽と花火をシンクロさせる「音楽花火ショー」の先駆け、日本橋丸玉屋(東京都中央区)で演出を担当する永田謙輔クリエイティブ・ディレクター(47)は、曲のイメージを膨らませるのに丸1日を費やす。
その後、パソコンに向かう。打ち上げ数に色味、高さ、タイミング…。異なる組み合わせによる演出パターンは数百に上り、0.03秒単位で曲のイメージに合わせて専用ソフトにプログラムを打ち込んでいく。「観客が飽きないよう、同じサビでも演出は変える」と永田ディレクター。演出完成まで1曲当たり計3日間の大仕事だ。
近年の花火は、伝統的な打ち上げ花火と異なり、音楽と掛け合わせたショーの要素が強くなっている。その代表格が、横浜・みなとみらい21(MM21)地区で毎夏開催される「みなとみらいスマートフェスティバル」の「スカイシンフォニー」だ。今年は8月5日に開かれ、打ち上げ数は25分間に2万発。十数曲のヒットソングに合わせ「鳥肌が立つほどのボリューム感」の花火が海上の台船から打ち上げられる日本有数の音楽花火ショーという。
演出はパソコンで緻密に組み立てられるが、実際に打ち上げるまでの設営を行うのは人の手だ。
花火をコンピューターで制御するため、打ち上げ用の筒への装塡(そうてん)だけでなく、専用点火システムから中継機を経てそれぞれの花火まで、ケーブルでつなげる必要がある。2万発を打ち上げるなら、その設営も2万カ所。「演出通りに一本一本慎重に結線し、その後も電流が通るかチェックを重ねる。数日がかりの作業を炎天下で行うのはかなりの重労働」と、資機材担当の川口敏孝さん(47)。
新型コロナウイルス禍では、花火大会は各地で休止に追い込まれた。暗くなった世相を少しでも明るくしようと打ち上げ花火を動画配信したり、事前告知しない「サプライズ花火」を催したりしてきたが、「観客の反応がなく、寂しさを覚えた」(川口さん)。
昨年から徐々に戻ってきたものの、今度は警備費高騰や燃えかす問題で休止となるイベントも少なくない。そんな中での開催に、作り手として胸を熱くする。「終了後に台船まで届く歓声と拍手が、大きなやりがい」。本番に向け、日本橋丸玉屋はチーム一丸となって地道な準備を重ねる。