神奈川県の丹沢山地の山小屋に自動体外式除細動器(AED)の普及が進み、救命につながる環境整備に一役買っている。登山口から山頂まで標高差千メートル以上を登るルートも多く、心臓疾患が原因の中高年らの事故が毎年発生している。山小屋関係者は11日の「山の日」に合わせ、「低山だからといって甘く見ないで」と呼びかける。
「倒れた方の命が救われて本当によかった」
表丹沢の大倉尾根にある山小屋「堀山の家」オーナーの逢坂和子さん(58)と小屋番の佐々木祐一さん(60)は、備え付けのAEDが救命につながったことに胸をなで下ろした。
新緑シーズンの4月13日。小屋近くで登山中の50代男性が倒れ心肺停止状態となった。現場に急行した救助隊員や通りかかった登山者が迅速な救命措置を施し一命を取り留めたが、小屋の入り口近くの引き戸に置かれたAEDを緊急時に戸外から取り出せたことも奏功した。
神奈川県警のまとめによると、2023年に県内で起きた山岳遭難事故は発生件数が179件、遭難者204人、死者14人と、いずれも過去最多。中高年登山者の増加とともに50代以上が全体の約7割を占めている。
いざというときの救命につなげようと、表丹沢では秦野市丹沢遭難対策協議会が08年からAEDの設置を進めている。通年営業している塔ノ岳(標高1491メートル)山頂の「尊仏山荘」と鍋割山(同1272メートル)山頂の「鍋割山荘」を皮切りに、市内に位置する計6軒の山小屋に備えた。
その一つ、大倉尾根の標高1300メートルにある「花立山荘」のオーナー高橋守さん(68)によると、日帰り登山で休憩中の男性が突然倒れたが、AEDを使って回復した。登山道の途中だと処置が遅れて亡くなるケースもあることから「居合わせた人ができるだけ早く命を救える行動が起こせるかが問われる」と考える。
塔ノ岳近くの表尾根にある「木ノ又小屋」(標高1396メートル)のAEDは、協議会が昨年設置した。オーナーで丹沢山小屋組合の組合長として協議会に加わる神野雅幸さん(60)は「多くの山小屋は平日は閉じていてAEDがいつでも使えるとは限らない」と指摘する。
標高2千メートルに満たない低山だが登山口が海岸線に近い分、「山頂までの累積標高や距離はアルプスの山々に匹敵する」と強調。「低山だからといって甘く見ず、日頃から体力づくりや体調管理を怠らないでほしい」と呼びかける。