昭和初期に製薬会社「わかもと製薬」創業者の別邸として建てられ、近年は一般公開もほとんどされず荒廃も進む「扇湖山荘(せんこさんそう)」(鎌倉市鎌倉山)の利活用に向けて市が本格的に乗り出す。一時は公園整備などの構想も上がったが、厳しい開発規制もあり棚上げ状態となっていた。市は用途を「研修厚生施設」に限り、7月に民間からプロポーザル公募を開始。長らく“塩漬け”だった「昭和の遺産」は十数年ぶりに再び日の目を見る道が開かれた。
扇湖山荘は栄養薬「わかもと」で財を成した長尾欽弥(1892~1980年)が34年、岐阜県の飛騨高山地方にあった養蚕農家の古民家を移築した。約4.7ヘクタールの敷地に本館は地下1階、地上2階建て。鉄筋コンクリート造で半地下の地階の上に移築した木造の主屋が建てられた和洋折衷の構造という。
鎌倉山の山頂部に位置し、鎌倉の海が扇形の湖のように見えることが名前の由来となり、昭和前期の和風建築とは一線を画す貴重な歴史的建造物とされる。庭園は京都御所の庭園も手がけた小川治兵衛の作品で、本館から離れた茶室「伏見亭」も明治期に伏見宮家の別邸から移築されたといわれる。