「政治の根幹である国民の信頼が大きく崩れ、わが国の民主主義が危機に瀕(ひん)している」。3年前の8月の自民党総裁選出馬会見で当時の菅義偉首相を批判した岸田文雄首相が14日、次期総裁選の不出馬を表明した。「『聞く力』でガバナンス改革」をトップの公約に掲げながら、自ら広げた大風呂敷で自らの首を絞めた格好だ。
自民内からは「脱派閥など前任(菅氏)からのアドバイスをほごにした報い」(重鎮議員)との批判が絶えない。“巨大ブーメラン”に屈した格好に「終戦の日の前日が『岸田終戦の日』となるとは」(中堅議員)との皮肉も漏れている。
「総理なのだから必要な人は官邸に呼べばいい」。2021年11月11日、菅氏は退任後初めて岸田首相との会談を持った。議員会館の菅氏事務所に出向くとの首相の申し出を固辞し官邸へ足を運んだ菅氏は冒頭にそう忠告したという。
このころ岸田首相は自身がトップを務める岸田派の定例会合に顔を出し続けていた。忠告は「派閥とは距離を置け」との菅氏なりのアドバイスだった。
会長職の退任を勧めたとされるが首相は無視。業を煮やした菅氏は23年年初の月刊「文芸春秋」のインタビューで「総理は派閥を抜けるべきだ」と思いを公にした。しかし首相が会長を降りたのは派閥を巡るパーティー券収入裏金事件が発覚した後の同年12月に入ってからのことだ。
その後は一転、自派を含めた派閥解散方針を打ち出し党内は混乱に陥った。安倍晋三元首相の派閥(清和政策研究会)関係者は「安倍派をたたいてきた手前、自派(岸田派)の不正から逃げられなくなったからだ」と解散理由を推測。身内の岸田派内にすら「自分の生き残りのためなら手段を選ばない。今度は党の解散などと言い出しかねない」などの懸念を広げた。総裁選出馬に必要な国会議員20人の推薦人確保も困難との状況がささやかれた。