千葉県などで暴風が吹き荒れ、大規模停電が起きた2019年9月の台風15号(房総半島台風)の上陸から、9日で5年となった。台風が強い勢力で東京湾を通過したため、横浜市の沿岸は高波や高潮に襲われ、護岸が倒壊した同市金沢区の産業団地は工場などの浸水被害が広範囲に及んだ。市が護岸をかさ上げするなど対策は進んだものの、危険な台風が相次ぐ中、地元からは「再び被災したら、事業を続けられない」と不安が漏れる。
「これは現実なのか」。19年9月9日早朝、出勤した廃棄物処理会社「エコリンクイノベーション(旧社名シゲン)」横浜工場(同区福浦)の荒川伸司さん(50)は周囲に広がる光景に目を疑った。「木々が倒れ、海水で流されてきた紙の束のようなものがあちこちに転がっていた」。産業団地の海沿い一帯は膝元まで水に漬かる状態で、工場は自分の胸の下あたりまで冠水したようだった。
後に房総半島台風と命名される台風15号は、9日午前3時前に三浦半島付近を通過。同5時前に千葉市付近へ上陸した際の中心気圧は960ヘクトパスカルで、関東を直撃した台風としては「最強クラス」だった。産業団地周辺は推定で高さ10メートル余りという想定以上の高波と高潮に襲われた。
横浜市金沢区の臨海部では護岸が約800メートルにわたって倒壊。廃棄物処理会社のシャッターはひしゃげ、工場に海水が入り込んでいた。水道も電気も使えず、窓が割れたトラックはエンジンがかからない。事務所も海水に漬かり、パソコンも使えない中、片付けに追われる日々が続いた。本格的に業務を再開するまでに半年近くを要した。
「台風が予想された日はとにかく社員の早上がりを徹底している。まずは人命第一。翌日は早めに出勤し状況を確認している」。荒川さんは管理課長として、あの日の教訓を生かす役割を担うが、「台風のニュースに接すると、心がざわつく」という。「護岸の完成は心強いが、自然の猛威の前に100%はない。同じような台風が来ないことを願うしかない」