40年近く神奈川政界を取材している名物記者がつづるコラム。政治家や周辺関係者らの素顔や回顧録、政界裏話など、独自の視点で伝えます。
■逆風覚悟での派閥残留
9候補が立った自民党総裁選の激戦を制した石破茂元幹事長が10月1日、新しい首相に就く。神奈川からは史上初めて小泉進次郎元環境相(衆院神奈川11区)と河野太郎デジタル相(15区)の複数候補が出馬したが共倒れとなり残念だ。
特に湘南の住民の怒りは収まらないであろう。河野氏を巡る麻生派会長・麻生太郎副総裁の立ち回りだ。投票前夜に高市早苗経済安全保障担当相へ支持先を変更し同派議員へ周知したのだ。候補者推薦人になっていない議員へは「1回目の投票から高市氏へ」と指示。推薦人ではないが河野氏を応援していた同派議員も例外とはしなかった。
第1報は全国紙の報道。確認取材に走ればたちまち対象の議員に行き当たる。中には「どうしたら良いでしょうか」とうろたえる者も。常識にも人の道にも外れた指示だから無理もない。票数を見れば従った議員が多々いたことは明らかでテレビドラマ顔負けの政界裏切り劇場である。
河野氏が逆風覚悟の派閥残留で総裁選に出たのは自分の破天荒な言動の折にかばってくれた諸先輩への義理があったからだ。苦戦の原因は麻生派の存在そのものにもあるのに河野氏個人に責任を押し付け斬り捨てるとはひどい。
「同志として河野氏をしっかり応援していきたい」。8月27日に開いた派閥研修会での説明が麻生氏の公式見解で変更したとは聞かない。河野氏に対し、誰にでも分かる場ややり方で変更理由を説明し謝るべきだ。
河野氏は前回衆院選で21万515票を獲得。現行の小選挙区比例代表並立制が導入されて以降の最多得票記録を更新している。史上最大の民意を集めた議員を捨て石のごとく扱った所業は憲政史上の汚点として記憶されよう。河野氏へ一票を託した有権者への非礼にほかならぬことも付言しておく。(特別編集委員・有吉 敏)