神奈川県立知的障害者施設「愛名やまゆり園」(厚木市)の入所者への虐待事案を調査していた第三者委員会は10日、中間報告書を公表した。傷害罪などで有罪判決を受けた元職員が勤務していた生活寮では、事件の9年ほど前から虐待が常態化していたと指摘。運営する社会福祉法人「かながわ共同会」と園が問題を放置したことで事件が起きたとし、その対応を厳しく非難した。
事件が起きた寮は、自傷他害などの「強度行動障害」があるとされる男性18人が暮らしている。報告書によると、少なくとも2014年度ごろから22年度まで、一部の職員による身体的・心理的虐待や、自慰行為を強要するといった性的虐待が常態化し、暴力や暴言、無言の圧力で入所者を支配していたという。
この寮で21年度から勤務していた元職員も職場環境の影響を逃れられず、先輩職員に同調。自らも虐待するようになり、23年11月に傷害容疑で逮捕された。
第三者委は、職場環境と事件の因果関係について検討。虐待に関与していた疑いがある先輩職員が22年度末までに全員異動していることから、事件の主因は本人の力量不足にあると指摘。
一方で、支援の専門性を身に付ける研修の機会がなかったことなどから「元職員の個人的資質のみに全責任を求めることは困難」とし、虐待が常態化している状況を放置しなければ事件は防げたとして園や共同会の対応を批判した。
共同会は「報告書で指摘されたことを重く受け止め、改善に努める」とコメントした。
今回の調査では、この寮で虐待の疑いがある事案が新たに38件判明。入所者11人が被害に遭い、元職員を含む職員9人が関与した疑いがあるという。第三者委は県を通じて関係自治体に通報した。
第三者委は主に、いずれも弁護士の佐賀悦子と佐藤彰一、日本社会事業大教授の曽根直樹の3氏で構成。関係者40人にヒアリングするなどして報告書をまとめ、公表した。