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冤罪防止へ客観的な記録残して…袴田巌さん主任弁護人が茅ケ崎で講演

カナロコ by 神奈川新聞 2024年10月22日 10時20分

 1966年の静岡県一家4人殺害事件で、再審無罪が確定した袴田巌さん(88)の主任弁護人・小川秀世弁護士(72)を招いた講演会が19日、茅ケ崎市勤労市民会館(同市新栄町)で開かれた。袴田さんの逮捕から58年、死刑確定から44年という再審無罪までの長い闘いを報告した小川弁護士は、二度と同じことを起こさないよう、再審に関する法改正の実現や、捜査過程を検証するための客観的記録を残す重要性を訴えた。

 袴田さんは66年に逮捕され、80年に死刑が確定。翌81年に最初の再審請求を申し立てたが、最高裁が認めない結論を出したのは27年後の2008年だった。

 潮目が変わったのは2度目の申し立てだった。14年に静岡地裁は再審開始を認め、袴田さんの死刑執行停止や釈放を決めた。しかし検察側は不服として即時抗告。再審開始が認められたのは9年後の23年だった。

 昨年10月、ようやく再審公判が始まり、静岡地裁は今年9月26日、捜査機関の証拠捏造(ねつぞう)を指摘して無罪判決を言い渡した。

 小川弁護士は、被害者4人の遺体写真から拘束された形跡が見られ、多数の刺し傷など残忍な状況が明らかなことから「強盗目的ではなく怨恨(えんこん)によるもので、単独でなく複数犯」と主張。「事件自体、そもそも(起訴内容とは)全然違うと考えている」と訴えた。

 再審無罪確定に至るまでの長い道のりについては「1度目の再審請求が長くなったのは、検察側の証拠開示が全くされなかったから」と指摘。犯行着衣とされた「5点の衣類」のカラー写真などの証拠が示されたのは10年で、これが再審開始の扉を開く鍵となった。

 小川弁護士によると、この年の3月、検察官から転勤あいさつの電話があり、「証拠開示について上の方針が変わりました」と告げられた。新しい担当検事は「検察は公益の代表者。裁判所の審理に協力する」と言い、多くの証拠が開示されたという。刑事訴訟法の再審に関する規定(再審法)には詳細なルールがなく、小川弁護士は「さんざん求めても『法律に規定がない』と相手にされなかった。無罪につながる証拠開示が検察の判断で決まってしまうのは直さないといけない」と力を込めた。

 さらに2度目の再審請求が長引いたことについては、検察側の抗告を原因に挙げ、「法改正を一日も早く実現し、抗告の禁止も認められてほしい」と訴えた。

 その上で小川弁護士は、冤罪(えんざい)を防ぐために捜査過程を撮影して記録し、後の検証を可能にする必要性を強調。「袴田事件では、捏造や偽証など捜査機関の違法行為が次々に行われた。捜査手続きを後から検証できるよう、一部で取り入れられている録画の範囲をより広げるなど、客観的資料をもっと残していくことが非常に重要」と呼びかけた。

 講演は市民団体「ピースカフェちがさき」の主催。「再審無罪判決を受けて いま、考える袴田事件」と題して行われ、市民ら約80人が耳を傾けた。

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