光文文化財団主催の「第28回日本ミステリー文学大賞新人賞」に、相模原市在住の衣刀(いとう)信吾さん(60)が選ばれた。衣刀さんは、実は日本弁護士連合会(日弁連)副会長を務める現役の弁護士・伊藤信吾さんのペンネーム。初挑戦から3年連続で最終候補に残った末に栄冠をつかんだ。
市内に事務所を構える伊藤さんは、市民活動のサポートといった地域貢献でも知られる存在。「周りはすごくびっくりしていました。心配させたり、おかしな人と思われたりしてもいけないので、小説を書いていることは一切言っていなかったんです」と笑う。
受賞作「午前零時の評議室」は、裁判員に選任された大学生や事件の洗い直しをする弁護士らが登場する本格ミステリー。10月下旬に辻村深月氏、湊かなえ氏ら名だたる選考委員4人の満場一致で決まった。受賞作は来年3月に光文社から出版される予定だ。
「昔から小説家になろうと思っていたわけではない」という伊藤さん。30代の頃、江戸川乱歩賞を受賞した弁護士会の先輩らに触発されてワープロに向かったことはあるが、当時は完成させられず、「才能ないな」と考えていた。
一方で「何となく思いはあったのかもしれない」とも。多忙を極めた神奈川県弁護士会会長を2020年3月に務め終え、新型コロナウイルス禍も重なって読書にふけるうち、再び原稿に向かっていた。