年末年始に孤立を深める若者に手を差し伸べようと、認定NPO法人「D×P」(本社・大阪市)が、食料給付の準備に奔走している。同NPO理事長の今井紀明さん(39)は20年前、自身がイラクで人質になった後、日本で社会復帰することができた経験からこの事業を始めた。「民間から若者のセーフティーネットを広げたい」と力を込める。
「頼むから死んでくれ」
「税金泥棒」
今井さんは高校卒業後の2004年4月、イラクの子どもたちへの医療支援のために渡航したが、現地武装勢力に人質として拘束された。交渉などの末に解放されたものの、帰国すると「自己責任」と社会からバッシングを浴びせられた。
罵倒する手紙が届いたり電話がかかってきたりし、突然、背後から頭を殴られることもあったという。対人恐怖症やパニック障害となり、家に引きこもるようになってしまった。
こうした中で支えてくれたのは友人や家族だった。「自分はたまたま恵まれていた」と口にする。「支えてくれる人や頼れる人がいない若者もいる。孤立しないためにも手を差し伸べる必要がある」
その思いは、イラクに旅立った理由にも重なる。高校に入学した頃に、アフガニスタンの空爆で子どもたちが命を落とす映像を目にした。「この頃から子どもに対する不条理を変えたい思いを持ち始めた」─。
◆毎日のように寄せられる悲痛の声
12年に同NPOを立ち上げ、13~25歳のユース世代と名付ける若者たちの孤立を解決するため、奮闘する。経済困窮や家庭事情などによって孤立しやすい10代が気軽に頼れる先をつくるため、18年ごろから、LINE(ライン)を使用して相談できる「ユキサキチャット」を始めた。オンラインかつ匿名で相談が可能で、現在、登録者数は1万5千人を超える。
「虐待や不登校など、複合的な問題に対応できるようにしている」。若者たちから毎日のように寄せられる苦難や悲痛の声を解決するために、神奈川県内を含め全国約140のNPOや企業などと協力している。中でも食料給付を求める声が多く、20年からは全国各地に食料を配り始めた。
「民間の寄付型だからこそできることがある」と今井さんは強調する。成果を上げて、国にも制度として提言していきたいという。
年末年始は支援する行政が休みになることなどで、頼る相手を失いやすいとされている。今年は5万食を用意し、全国で悲鳴を上げる若者に届ける予定だ。ただ、現在は約1万1千食を用意する資金しか集まっていない。今井さんは「終わりの見えない物価高の中で困窮している若者はたくさんいる」と話し、こう重ねる。
「孤立を未然に防ぎたい。若者が悪環境に身を預けないためにも、できることをしていきたい」
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寄付は20日まで、クラウドファンディング(CF)サイト「READYFOR」で募っている。詳細は同サイトまで。