小田原市が進めている国登録有形文化財「旧内野醤油(しょうゆ)店」(同市板橋)の工場部分の解体・新築工事について、市文化財保護委員ら専門家が反対し、昨年12月から工事がストップしていることが今月30日の市議会厚生文教常任委員会で明らかになった。市は予算を抑えて新たに観光拠点として活用するため解体を決めたが、事前に専門家らへの相談はしなかったという。専門家は「文化振興の名目で市が所有する貴重な文化財を壊すことは許されることではない」と市の本末転倒な対応を批判している。
旧内野醤油店はしょうゆ醸造業を営んだ旧家で、店舗兼主屋は1903年に建てられた。和洋折衷の店構えが特徴で、大正期に建築された工場など八つの建物が国登録有形文化財となっている。市は土地と建物を2022年に約1億3千万円で取得。建物を保全し、地域の観光拠点として整備する準備を進めてきた。
耐震診断を踏まえて市は24年4月、工場以外の七つの建物は保存する一方、工場の建物は解体し、現存の部材を使用しながら工場の雰囲気を残した建物を新築することを市議会常任委で報告したが、解体することで国の有形文化財としての登録が抹消される見込みとなることは説明しなかった。3億3千万円の解体・新築整備費を盛り込んだ補正予算案は同年6月の市議会定例会で可決され、同11月から解体工事が始まった。
工事が始まって事態を知った市文化振興審議会委員と市文化財保護委員がそれぞれ11月末と12月上旬に工事を止めるよう市に要請し、工事は中断された。