生まれたばかりの我が子を亡くした経験がある女性が12月、看護の世界を目指す大学生に講演しました。将来、出産に関わる若者に伝えたいこととは。
12月、熊本市北区の熊本保健科学大学で行われた講演会。医療業界を目指す学生約30人を前に講師したのは合志市に住む澤野典子さん(36)です。
2021年7月3日。澤野さんは、生まれたばかりの長男の蒼空くんを生後1時間あまりで亡くした経験があります。「同じような経験をした人たちと思いを共有したい」。蒼空くんを失った後、澤野さんは流産や死産を経験した人が語り合う場や情報を発信する場を作り続けています。
澤野さんが学生に向けた講演をするのは初めてです。
■澤野典子さん
「退院する前からわかってたんですよね。もう外に出たら私、おそらくただの死んだ赤ちゃんと全然お母さんに見られない、ただの人やんって思いながら帰って。でも私は生まれたことにフォーカスしたかったし、亡くなるまでの時間を大事にしたかった。ほんと待合室にはいろんな人がいるので、複雑な思いでいる人もいるかもしれないなとか、そういうことも一つ頭にあるといいのかなと思ってます」
澤野さんは、自分の経験をもとに「赤ちゃんを亡くした家族を支えられる医療従事者になってほしい」と語りかけました。
講演が終わり、澤野さんは学生から個別に質問を受けました。「つらい経験をした母親に医療従事者はどう声をかければいいのか」という質問には…。
■澤野典子さん
「(本人は)どこまで踏み込んで(相談して)いいのかっていう立場でもあるから、でも助けてほしい立場でもある。(医療従事者は)別室にちょっと誘導して話を聞く暇ないのもわかるじゃん。自分でもですよ、仕事の中で。でも、それがあったらいいなっては思う」
澤野さん自身も高齢者施設で働く看護師です。当事者と医療従事者、両方の視点から言葉をかけていました。
■助産師志望の学生
「妊娠中とか産後までしっかり精神的に寄り添って関われるような助産師になりたいと思っているので、きょうの講義を活かしていきたい」
■看護師志望の学生
「患者さんとか亡くなられた方っていう接し方じゃなくて、一人の人間として接していくことの大切さを改めて学ぶことができました」
■澤野典子さん
「一番大事なのは、その人がその事実をどうとらえているかをまず考えること。断定しない、決めつけない。あとは当事者もこうとらえているっていうのを伝える努力。言えないからきついのは、私もそういう自分が経験してわかってるんですけど、こうとらえているよって自分で発することも、自分の心を守る一つの術だな(と思う)。お互いね、寄り添い合えたら一番いいのかなと」
自らの経験を知ってもらうことで、「寄り添う医療」を広げてほしい。澤野さんが、自らの経験を語り続ける理由です。
■澤野典子さん
「寄り添い方の正解ってないけれど、いま知ってくれたことが私たちのケアにもすでになっている」
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