交通事故で「危険運転」を適用するかどうかの議論についてお伝えします。
取材した長谷川記者です。
長谷川記者:法務省の検討会は先週、危険運転の適用に飲酒やスピードの超過の数値基準を設定するよう提言しました。
上野キャスター:飲酒運転の車に衝突され息子を亡くした県西部の男性は、法律の改正を求めています。
長谷川記者:「同じように裁判で苦しむ人がないように」という遺族の訴えを取材しました。
飲酒運転の車がセンターラインはみだし…奪われた息子の命
心誠くん「足疲れてきた」
自転車に乗る男の子、名前は心誠くんです。
いまから5年前、交通事故で亡くなりました。
心誠くんの父親「やっぱり戻れるもんなら、心誠が生きてた頃にやっぱり戻りたいなと思いますし、それは今でも変わりませんし…。」
こう話すのは、心誠くんの父親です。
2019年5月、京都に住む長男に会いに行くため家族を車に乗せて富山から向かっていました。
しかし途中の滋賀県大津市でセンターラインをはみ出して走ってきた車に衝突され、当時9歳の次男、心誠くんを亡くしました。
相手の車の運転手は飲酒運転でした。
心誠くんの父親「心誠、上の子たちと年が離れていたっていうこともあって、すごく可愛いなと思いながら、育てていました。自分が近くにいながら、守ってやれなかったっていうのは、本当にその時は本当に息子に申し訳ないというか…」
裁判の争点は「危険運転」にあたるかどうか
大津地裁で始まった裁判では、飲酒運転だった相手が「危険運転」にあたるかが争点となりました。
弁護側は事故の原因は飲酒ではなく居眠り運転だとして、「危険運転致死罪」より刑罰の軽い「過失運転致死罪」が妥当だと主張しました。
心誠くんの父親「アルコールを保有した状態で運転して死傷事故を起こしておきながら、それが危険ではない、過失ですよって言われてしまうのは被害者ですとか、その遺族にとってはもう本当に耐え難いことなんですね」
事故から2年半後。
判決では事故の原因は飲酒運転だとして、危険運転致死罪の成立が認められましたが、「アルコール保有量が高いとまではいえない」などとして量刑は懲役4年でした。
遺族が被害者参加制度で求めた懲役15年の意見を大きく下回るものでした。
心誠くんの父親「人の命が奪われているのに5年にも満たない実刑ってなんなのかなというふうに、非常に軽いなというふうに言わざるを得ないと思います」
危険運転致死傷罪の要件めぐる議論
危険運転をめぐり、法務省は今年、有識者による検討会を設けました。
検討会では、飲酒運転やスピードの大幅な超過について危険運転かどうかを判断する数値基準を導入すべきか、意見が交わされました。
心誠くんの父親も出席し、遺族の立場から思いを訴えました。
心誠くんの父親「本当にこの事故、裁判を通して本当に辛い、苦しい、悔しいそういう思いをしたんです。同じような形で被害者になった人、遺族になった人が、せめて裁判で苦しむことがないように。そういった条文に見直してほしい」
危険運転致死傷罪とは 要件見直しの動きは
上野キャスター:長谷川さん、法務省の検討会で議論された危険運転致死傷罪とはどんなものか、改めて説明してください。
長谷川記者:危険運転致死傷罪は、悪質な運転を処罰する目的で2001年に設けられた刑罰です。
注意を怠った事故で人を死傷させる過失運転致死傷罪の刑の上限が懲役7年であるのに対し、危険運転では最大で懲役20年が科されます。
上野キャスター)法務省の検討会ではどのようなことが議論されたのでしょうか。
長谷川記者:議題となったのは危険運転について定めた法律の条文の見直しです。
飲酒運転を例に挙げると現在の条文では、「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」が危険運転とされますが、基準の曖昧さが指摘されています。
1検討会では、事故の後検査でアルコール濃度を測定し、一定の数値を超えていれば危険運転にあたるとする数値基準の導入が議論されました。
上野キャスター:そして先月27日に報告書をまとめたのですね。
長谷川記者)報告では、飲酒運転について個人差や心身の状況に関わらず一律な数値基準の設定を促しました。
また、スピードの超過については具体的な数値は示しませんでしたが、「最高速度の1.5倍や2倍」とする委員の意見を紹介しました。
一方で、危険運転致死傷罪の刑の重さについて遺族らからは「現在の量刑は軽い」と批判がありましたが、量刑の引き上げに関しては「慎重な検討が必要である」と表現しました。
上野キャスター)亡くなった心誠くんの父親は危険運転をどのように考えているのでしょうか。
長谷川記者)はい、出席した検討会では、「飲酒運転に過失はない。飲酒運転は全て危険運転」だと遺族の心情を訴えました。
法務省は、検討会の報告の内容を踏まえて法律改正に向けた検討を本格化させる方針です。
今後は、具体的な基準をどう設定するかなどが課題となります。
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