強い痛みが長時間続くのがお産の陣痛です。この痛みを和らげようと、麻酔を使う「無痛分娩」を選ぶ妊婦が県内でも増えています。産後の回復を早めることにもつながる無痛分娩を積極的に実施している富山県内の病院を、山田記者が取材しました。
優美さん(30代・富山市)「全く痛くないわけではないが、普通に産むよりはるかに楽だった」
富山市に住む優美さんです。
今年9月に富山市民病院で第2子となる男の子を出産しました。
優美さん「上の子の面倒をみながら、下の子の面倒をみるとなると大変なので、1人目の時みたいにずっと横になっているわけにもいかないし、なるべく早く普通の生活に戻れるように無痛分娩にしました」
夫・正則さん「本人の回復も結構早かったって言っていたので、そこはすごく良かったと思います」
取り組み進める富山市民病院
麻酔薬で陣痛を和らげる「無痛分娩」。
これを県内でいち早く2009年から始めたのが、富山市民病院です。
昨年度は妊婦のおよそ6割、188人が無痛分娩を選びました。
3年前と比べて3倍近くに増えています。
県内にとどまらず、新潟県や里帰り出産で首都圏などからも利用があります。
産婦人科 田中智子医師「痛みが減りますし、痛みが減ると体力を温存できますので、産後に育児に体力を残して使うことができる」
無痛分娩では一般的に背骨付近の「硬膜外腔」に管を入れ、麻酔薬を少しずつ流して出産の痛みを和らげます。
局所麻酔のため意識はあり、おなかの張りや赤ちゃんが移動する感覚を残したままお産に臨むことができます。
ただ「無痛」と言っても、全く痛みがないわけではありません。
麻酔科 松浦康荘部長「いきんで自分の力で赤ちゃんを押し出す力を少し残さないといけないというのがあって、(一般的な手術の)術後鎮痛で使う麻酔の半分程度の強さにわざと下げています」
無痛分娩の利点は、痛みの軽減だけではありません。
体への負担が減ることで産後の回復が早まること、そして心に余裕が生まれ、前向きにお産に向き合えるのもメリットだといいます。
麻酔科 松浦康荘部長「産むまでは結構長いですよね、何か月もあるんですよ。その間ずっと(出産の痛みを)心配しないといけない。痛みをとる手段があるのとないのとでは全然気持ちの持ち方が違う」
リスクや費用負担あるも…増える無痛分娩
一方で、一般的な手術の麻酔と同様に、リスクもゼロではありません。
麻酔薬によるかゆみや熱がでることや、重いケースでは足のしびれなどが生じることもごくまれにあるといいます。
また、費用は通常の出産に比べて10万円から15万円程度が上乗せになります。
それでも、1人目を通常分娩で出産した人が、2人目は無痛分娩を希望するケースが少なくないといいます。
産婦人科 田中智子医師「1人目の時がすごく痛くて、トラウマ状態になっている方もいて、そういう方は是非、無痛分娩でやりたいのもありますし、2人目の育児をしながら1人目も今後見ていくとなると、体力温存したいという方もいっぱいいて」
日本産婦人科医会の全国調査では出産全体の数が減る中、無痛分娩はこの5年で倍近くとなりました。
実施率 富山では5%台
一方、都道府県別では、東京は30%に迫っていますが、富山は5%台と大きな差があります。
麻酔科医が比較的少ないとされる地域では、無痛分娩の実施率が低くなっている傾向があります。
県内では19ある産科施設のうち無痛分娩を実施しているのは、6施設です。
さらに、無痛分娩に対するネガティブなイメージの影響も。
助産師 武田ひとみ副師長「頑張って産むという文化が日本は根強いところが特に地方だとあると思うので、(無痛分娩を始めた当初は)隠して産みに来る方、本当に多かったんですけど」
こうした中、富山市民病院では無痛分娩という選択肢を設けることで、妊娠した女性に出産やその後の子育てに積極的に向き合ってほしいと考えています。
看護師 武田ひとみ副師長「痛みにとらわれてしまったり、2人目が産めないとか、出産体験がその後の育児に反映されますので、痛みを味わうことが赤ちゃんを受け入れる材料では決してないので」
優美さん「人によってどういうふうに産みたいとか意向が違うと思いますし、それぞれの家族の状況でこういうふうに産みたいっていうのも違うと思うんですけど、いろんな選択肢があればいいかなと思います」
納得できる出産方法や病院の選択を
厚生労働省は出産を扱う全国の病院についてのウェブサイトを開設しています。
行っているサービスやその費用を一覧で確認できます。
サービスや費用は、施設や地域によって異なるため、このようなサイトなどを活用して、納得できる出産方法や自分に合った病院を選ぶことが大切です。
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