Infoseek 楽天

[KWレポート] 警察庁トップの異例の任命、見え隠れする「戒厳準備」 (下)

KOREA WAVE 2024年12月18日 17時30分

【KOREA WAVE】
ユン・ソンニョル大統領の弾劾案が可決された14日午後、国会でユン大統領の国民向け談話が放映されている(c)news1

◇大統領と特別な関係

ソウル警察庁のキム・ボンシク長官も、その夜、内乱重要任務従事の容疑でチョ・ジホ警察庁長官と共に拘束された。キム・ボンシク氏は、実力者とされるチョ・ジホ氏に劣らず注目されていた人物であり、次期国家捜査本部長として取り沙汰されるほどだった。国家捜査本部長は、警察庁長官に次ぐ治安正監の階級であり、警察の捜査を総括するため、存在感と影響力は長官に匹敵する。なお、ユン大統領の内乱事件捜査を総括して指揮する警察官も国家捜査本部長だ。

キム・ボンシク氏は、ユン・ソンニョル大統領が大邱地検・大邱高検で勤務していた時に縁を結んだとされる。大邱出身のキム・ボンシク氏は、大邱達西警察署長、慶北警察庁刑事課長、大邱警察庁の捜査課長・刑事課長・広域捜査隊長などを歴任した。ユン大統領が私的な席で「我がボンシク」と呼ぶほど特別に大事にしていたという話が多い。キム・ボンシク氏は記者と会った際、大統領との関係について語ることは避けたが、その縁を否定はしなかった。

当然のことながら、キム・ボンシク氏は現政権が発足する前は目立たなかった。捜査業務で力を発揮したものの、主にTK(大邱・慶北)地域で勤務していたため、「期数内のリーダー候補」としては見られていなかった。性格的にも野心を表に出したり、高い地位を手に入れようと躍起になったりするタイプではなかった。

そんなキム・ボンシク氏が昨年1月、ソウル警察庁捜査部長に任命された。彼が急浮上したのはこの時からだ。わずか8カ月後の昨年9月には、治安監(警察序列3位の階級=日本の警視監に相当)に昇進し、警察庁の捜査局長に就任した。警察庁の捜査局長は捜査ラインの核心ポストだ。そして10カ月後の今年6月、治安正監(警察序列2位、日本の警視総監などに相当)に昇進し、京畿南部警察庁長官に任命された。そこからわずか3カ月足らずで、ソウル警察庁長官へと移った。

ソウル警察庁長官は、韓国の首都ソウルの治安を担当する重要な役職だ。京畿南部警察庁も国内で治安需要が最も高い地域警察庁だ。そうした要職を「3カ月足らずで」異動したキム・ボンシク氏に対し、多くの警察官は当惑した。前例のない出来事だからだ。リーダーが短期間で交代すれば、その地域の治安に空白が生じる恐れがあるためだ。

ソウル警察庁の幹部級警察官は次のように語る。

「主にTK地域で勤務していた人が、どうやってソウルの事情を知るというのでしょうか。ソウルは、捜査・刑事・交通・警備など、警察のすべての治安業務を象徴する場所です。キム・ボンシク氏が大統領府からの“パラシュート人事”で来たことは、ソウル警察庁の職員なら皆知っています。驚くことではないでしょう」

ただし、キム・ボンシク氏と共に働いた職員たちの評価はおおむね肯定的だ。組織員を厳しく押し進めるチョ・ジホ氏とは異なり、人間味のあるリーダーだという評価が多数を占める。キム・ボンシク氏は記者と会う際も「私は未熟な人間です」と自らを低く評価することが多かった。数カ月前、ソウル警察庁の執務室で対面した際も、彼はこう語った。「ソウル警察庁長官という役職は、私には過分なものです」

3日夜、ソウル汝矣島(ヨイド)の国会正門前で警察部隊が出入りを統制している(c)news1

◇想定外の「緊急逮捕」

キム・ボンシク氏は、自身が緊急逮捕されるとは予想していなかったという。彼は非常戒厳が布告された約45分後の3日午前11時ごろ、「国会議員や補佐官、記者たちは国会に出入りさせろ」と国会警備隊に指示した人物だ。当時、多くの国会議員や補佐官が国会に入ることができ、非常戒厳解除要求決議案の採決に参加できた。採決には議員300人中190人が出席し、「190人全員の賛成」で決議案は可決された。

またキム・ボンシク氏は「市民や国会議員らとの物理的な衝突や暴力事態を絶対に起こしてはならない」とも指示した。結果的に、キム・ボンシク氏の指示が非常戒厳解除に寄与し、本人も逮捕されるまではそのことに自負心を感じていたようだ。

しかし、その後、チョ・ジホ警察庁長官の指示を受け入れ、3日午後11時37分に国会を封鎖したのも事実だ。チョ・ジホ氏は違憲的な布告令を根拠にこの指示を出し、キム・ボンシク氏もそれを受け入れた。さらに3日午後11時37分以降、キム・ボンシク氏が「国会議員の出入りを制限せよ」と指示した状況も確認されている。彼が法的責任を免れないだろうというのが法曹界の一致した見方だ。

キム・ボンシク氏が緊急逮捕される前日(11日)午後、記者はキム・ボンシク氏と電話で話をすることができた。「私は(捜査について)言うことはありません」。これが彼の第一声だった。声は沈み、何かを諦めたような印象だった。記者が「それでも立場を明らかにするべきではないか」と促すと、彼は静かに答えた。

「軍人たちが(国会で)涙を流しながら、(良心の告白のようなものを)しているけれど、私はそうしたくないんです。堂々と調査を受けて、間違ったことがあれば責任を取るべきでしょう」

キム・ボンシク氏は当初、ソウル警察庁長官職を辞退しようとしたという。警察庁長官職も打診されたが、断ったとされる。

いつか彼に直接聞いてみたいことがある。

「ソウル警察庁長官職の提案を最後まで断れなかった理由は何だったのですか? 大統領の意思が強硬だったのでしょうか? それとも心のどこかで、やってみたい気持ちがあったのでしょうか?」

彼から正直な答えを聞ける日が来るだろうか。

(c)MONEYTODAY/KOREA WAVE/AFPBB News

この記事の関連ニュース