◇組織掌握力
チョ・ジホ氏の最大の強みは「組織掌握力」だ。気が強いことで有名な警察幹部ですら、チョ・ジホ氏に報告する際は震え上がったという。チョ・ジホ氏が指示を出すと、幹部たちは黙って従った。そんなチョ・ジホ氏が、戒厳令布告から約1時間後に「国会全面封鎖」を指示した。現場の警察官たちはどのように感じたのだろうか。チョ・ジホ氏と一緒に働いた経験がある中間管理職級の警察官はこう語った。
「天下のチョ・ジホが国会封鎖を指示したのだから、現場では『従っても大丈夫だろう』と考えたのではないでしょうか。きちんと検討したうえでの指示だと思ったのでしょう」
しかし、わずか「10数分」に過ぎなかった。
チョ・ジホ氏が「(国会の政治活動を禁止する)布告令を確認せよ」というパク・アンス(朴安洙)陸軍参謀総長からの電話を受け、国会全面封鎖を指示するまでにかかった時間だ。
「10数分」は、まともな検討ができる長さではない。非常戒厳布告から約1時間30分後、チョ・ジホ氏は警察幹部会議を進めた。その際、チョ・ジホ氏は明らかに動揺していたという。当時の会議に参加していた地方警察庁の総警(日本の警視正に相当)級幹部はこう語った。
「チョ・ジホ氏の顔は紅潮しており、手も少し震えているように見えました。あれほど動揺する姿は初めて見ました。この件(非常戒厳)は、国会統制業務を担当する警備局が主導しますが、(法的に検討する)企画調整局にも一緒に確認するよう指示していました」
◇手錠かけられ、うつむき
チョ・ジホ氏は布告令が発令された3日午後11時から、戒厳が解除された翌日(4日)午前1時までの間に、ユン大統領から計6回の電話を受けたとされる。チョ・ジホ氏側は「ユン大統領が6回の電話で『国会議員を引きずり出して逮捕しろ』と命令した」と主張している。しかし、チョ・ジホ氏はその指示をすべて無視したという。
チョ・ジホ氏を知る警察官の一部は「逮捕命令を拒否したのはチョ・ジホらしい」と話す。しかし、警察内部では冷ややかな反応が目立つ。チョ・ジホ氏が5日の国会で「報道を見て戒厳を知った」と虚偽の証言をしたからだ。
チョ・ジホ氏は報道が出る少なくとも2時間前にユン大統領と対面し、その場で大統領から「準備指示」を受けて非常戒厳を明確に認識していた。それにもかかわらず、国会で虚偽証言をし、「(逮捕)命令不履行によって戒厳が失敗したことについて、大統領に人間的に申し訳ない」と警察に供述した。「国民のための警察」を常に口癖にしていたチョ・ジホ氏だったが、国民が生中継で見守る国会質疑の場で「大統領との関係」を優先したのだ。
警察庁に勤務する幹部級の警察官はこう語る。
「チョ・ジホ氏が大統領府と対立するという話は聞いたことがありません。彼は常に原則を強調し、信念を曲げない姿勢を見せていましたが、上層部(大統領府)に対しては違ったとも言われています。むしろ、大統領府の意向を先取りして、率先して仕事を処理するタイプだというのです」
慶尚北道青松郡出身のチョ・ジホ氏は、警察大学6期卒業生で、前任のユン・ヒグン氏(7期)よりも期数が上だ。チョ・ジホ氏のように期数が逆転して警察庁長官に任命されるのは警察の歴史でも異例のことだ。
チョ・ジホ氏は今年1月に血液がんと診断されていたが、それを隠してまで長官に就任した。警察のトップとして、チョ・ジホ氏には推進したい改革があったのだろうか。「本当に駄目だと思ったら、自分の意思で長官職を辞任する」と豪語していたチョ・ジホ氏。しかし「国会全面統制」の指示は、彼にとって「原則」だったのか、それとも「歴史的な誤算」だったのか。
13日、逮捕前の被疑者尋問(令状実質審査)を受けるためソウル中央地裁に向かったチョ・ジホ氏は、手錠をかけられたまま、うつむいていた。
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