【KOREA WAVE】「モンゴルの旧正月はすごく寒いんです。暖かかったのが急に寒くなると、名節の雰囲気が出ますね」
雪が激しく舞うソウル市中区光熙洞(クァンヒドン)の中央アジア通り。薄いグレーのコートを着たパトゥさんは、飲食店で受け取ったミルク味のキャンディーを口に入れながら、こう話した。
韓国で10年以上働いているというパトゥさんは、キャンディーの包み紙をポケットにしまい、傘もささずに通りを横切った。パトゥさんは、旅行で韓国を訪れた友人と遅めの昼食をともにした。旧正月を2日後に控えた光熙洞では、名節の雰囲気は、街ではなく食卓上で感じられた。
◇モンゴル「ツァガーンサル」
1月27日午後、光熙洞の中央アジア通りは閑散としていた。路上には簡易テーブルを広げ、携帯電話の契約を勧める男性の姿だけが目についた。
雪が次第に強くなると、その携帯電話販売店の店員もテーブルを布で覆い、店内へと入っていった。大通りではモンゴル料理店2軒のみが営業していた。
光熙洞の中央アジア通りには、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスといった旧ソ連諸国出身の住民が多く暮らしている。また、モンゴルや中国の一部地域出身の住民も居住している。
この中で、旧暦1月1日を最も盛大に祝うのはモンゴルだ。モンゴルの旧正月「ツァガーンサル」は「白い月」という意味を持つ。家族が集まって伝統料理を分かち合い、新年の挨拶を交わす行事だ。
午後3時ごろに訪れたモンゴル伝統料理店は、ランチタイムが過ぎても空席がなかった。各テーブルに置かれた白いお茶が目を引いた。
次々と入る注文を確認していた店員が近づき、「これはミルクティーです」と説明してくれた。モンゴルの名節料理をおすすめしてもらい、「バンシタイツァイ」(餃子入りミルクティー)と「ボーズ」(モンゴル風蒸し餃子)、そしてミルクティーを注文した。
温かいミルクティーは、薄いクリームスープのような味だった。最初に運ばれてきたボーズを食べると、肉汁と油が皮を突き破るほどジューシーだった。バンシタイツァイは、ミルクティーに牛肉の餃子と羊の尾肉を入れた「モンゴル風のコムタン(牛骨スープ)」だった。スープをかき混ぜると米粒が浮かび上がった。羊肉を口に入れると、強い肉の香りが鼻を刺激した。
店内はまるで名節の親戚の家のような雰囲気だった。客たちは店員と絶えず会話を交わしていた。ある女性客が携帯電話を置き忘れて帰ろうとすると、店員が軽く冗談を言いながら、それをコートのポケットに入れてあげた。男性客が食事代を支払って帰ろうとすると、店員が引き止め、食後のキャンディーを手渡した。
店の入り口で出会ったパヤルマさんは「モンゴル人にとって牛乳は、韓国のキムチのようなものです」とたとえる。「若い人たちは名節だからといって特別なことはしませんが、牛乳を使った料理だけは必ず食べます」と解説した。
◇「名節の料理を毎回作るのは面倒でしょ?」…中国・延吉
同日午後5時、大雪注意報が発令される中でも、ソウル市永登浦区(ヨンドゥンポグ)大林洞(デリムドン)の大林中央市場は混雑していた。大林駅12番出口を出て角を曲がると、市場が現れた。
市場内には「延吉」という名前の看板があちこちに見えた。延吉は中国吉林省延辺朝鮮族自治州の州都で、大林洞には延吉出身の朝鮮族が多く住んでいる。彼らは旧暦1月1日の「春節」を盛大に祝う。
市場の入り口では、ある店主が力強い声で客と値段交渉をしていた。店主の前にはキムチ、白菜、肉まんが並んでいた。話しかけると、「韓国の方ですか?」という返事が返ってきた。
店主が売っていたのは、うるち米で作った餃子だった。延吉の人々は、名節のたびに米を浸して粉にし、熱湯でこねて餃子を作って食べる。
「どうせ名節ごとに食べるものだから、毎回作るのは面倒で、買って食べるんですよ」
店主はこう説明した。そのせいか、この料理を買おうとする人々が長い列を作っていた。
市場の奥へ進むと、長い列ができている屋台が目に入った。そこではもち米餅を売っていた。プラスチック容器に入った餅をすくい上げ、大豆粉や小豆の粉をまぶして販売していた。
10年以上この商売を続けているというイ・ボンナムさんは、熟練の手つきで押し寄せる客をさばいていた。イ・ボンナムさんは「普段はあまり売れませんが、韓国の餅屋ではこんな延吉式のもち米餅を扱っていないので、名節のたびによく売れるんですよ」と話した。
若い夫婦は、イ・ボンナムさんに小豆の代わりにきな粉をまぶしてほしいと何度も頼んでいた。5分以上並んで順番を待つ間、女性は降る雪を口で吹き飛ばしながらツイストドーナツを食べていた。餅を受け取った男性は、店の横にある民間の両替所へと向かった。
しばらくして両替所から出てきた夫のズボンの後ろポケットには、中国人民元が入った封筒が差し込まれていた。封筒には、誰かの名前が漢字で走り書きされていた。
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