子育ての孤立を防ぐ取り組みについてお伝えします。民間企業が2024年行った調査によりますと、子育て中に孤立や孤独を感じたことがあると答えた女性の割合は74.2%。親のどちらかが家事や育児を1人で担うことを指す「ワンオペ育児」や「孤育て」という言葉もよく聞くようになってきました。こうした中、育児の孤立を防ぐための新たな支援が全国的に広がっています。
岡山県笠岡市の坂本真理さん(38)。育児休業を取って1歳半の双子、颯瀬(はやせ)ちゃんと絃瀬(いとせ)ちゃんを育てています。
(双子の母/坂本真理さん)
「こっち(颯瀬ちゃん)がお兄ちゃんで生まれてきた。500gくらい大きくて。なのでこちらの方がアクティブで、こちら(絃瀬ちゃん)が文化系」
両親が笠岡市外に住んでいることや夫の仕事が忙しいことから、子育ての多くを真理さんが担っています。真理さんには3歳の息子もいて、保育園の送り迎えでは3人の子どもたちの面倒を見なければなりません。
(双子の母/坂本真理さん)
「同時育児なので同時に泣かれるし、同時にご飯を与えないといけないし、自分の体はひとつで苦しいなっていうのが一番にくる。この子たちが双子といえども(自分の親が)10人の孫を抱えていて、うちばっかりにサポートに来てくれるわけではないし、仕方ないなと思って頑張っています」
ボランティアが「一緒に」子育て
そんな中、真理さんが2024年6月から利用しているのが家庭訪問型の子育て支援「ホームスタート」です。
ホームスタートは、研修を受けたボランティアが家事や育児を「一緒に」するもので、無料で利用できます。
イギリス発祥の支援で、岡山県では一般社団法人「ぐるーん」が2024年2月に始めました。
この日は、長谷川さんが子どもを見て真理さんが掃除をしました。その後の寝かしつけは2人で一緒にしました。
(ホームスタートのボランティア/長谷川喜久美さん)
「何かしたい。お役に立ちたいと思っても、いまどきお声を掛けても『何、この方…』とひかれる方も多いし、きちんとした身分というか、ボランティアであってもこういう組織でちゃんとしてやってきたから安心して頼んで甘えてくださいと言いたい」
(双子の母/坂本真理さん)
「人を招き入れるのが自分の中でハードルもあったが、思い切って申し込みをしたら心のハードルみたいなのを飛び越えて長谷川さんが入ってきてくれて。温かさに救われた」
「ぐるーん」の代表理事、河本美津子さんは「育児では誰かに頼ることが必要だ」と話します。
(一般社団法人ぐるーん/河本美津子 代表理事)
「自分たちもそれぞれ子育てをしててやっぱり大変だったことがあり、その時に手助けがあったらいいなと思っていたので。(親が)追い詰められないようにちょっとした手助けがあれば」
行政による訪問型子育て支援との違いは
全国のホームスタートの取りまとめをしている団体によりますと、ホームスタートが日本で本格的に始まったのは2009年で、2023年10月時点で32都道府県に支援団体があります。
支援をしているのはそれぞれの地域のNPO法人や保育園を運営する民間の組織などです。
行政が行っている訪問型子育て支援「ファミリー・サポート」は預かりや送迎が中心で有料です。
一方、ホームスタートは家事や育児をサポートしてもらえますが、子育ての楽しさを知ってもらうことも目的にしているため「一緒に」行います。預かりや送迎はありません。利用は無料ですが、原則4回までです。その後もサポートが必要な人には公的な機関を紹介します。
国は、親が子育てで孤立すると虐待のリスクが高まるとして、こうした「訪問型の子育て支援」への補助制度を2024年度、新たに設けました。
専門家「民間と行政の連携が重要」
専門家は、「民間の訪問型の子育て支援が今後ますます重要になる」と話します。
子育ての支援体制について研究している淑徳大学総合福祉学部の佐藤まゆみ准教授は、訪問型の子育て支援は親の悩みを把握しやすいのがメリットのひとつだと話します。
(淑徳大学 総合福祉学部/佐藤まゆみ 准教授)
「ご家庭の中にいくと、ものすごくたくさんの情報をキャッチすることになる。ご本人だけでなく住環境の様子や生活そのものの情報が入ってくる」
その上で民間の事業者が行政と連携することが重要だと訴えます。
(淑徳大学 総合福祉学部/佐藤まゆみ 准教授)
「なじみのある人から次の支援にバトンを渡してもらうとスムーズにつながることができますので、なじみの良い支援と早いうちからつながっていけるように、地域の中にたくさんの子育て支援の資源を用意していくということが必要だと思います」
支援の選択肢が増えることは親の孤立を解消するのに有効です。一方で、孤立する親の中には「家族以外に頼ってはいけない」と思っている人や「そもそもどんな支援があるか知らない」という人も多いので、支援を身近に感じられる取り組みが必要だと感じました。