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長い下り坂でブレーキ踏みすぎNG!? 使いすぎで起こるふたつの危険な現象とは

くるまのニュース 2020年4月18日 11時10分

山道の長い下り坂でフットブレーキを多用していると、突然ブレーキが効きにくくなることがあります。これはフットブレーキの使いすぎによるブレーキのオーバーヒートですが、ブレーキのオーバーヒートには「フェード現象」と「ベーパーロック現象」の2種類があります。それぞれどのような現象なのでしょうか。

■間違えて覚えている人も多い「ベーパーロック」現象とは?

 山道やワインディングなど、長い下り道でフットブレーキを多用していると、ブレーキが突然効かなくなることがあります。なぜそのようなことが起こるのでしょうか

 考えられる原因は、ブレーキ多用により、摩擦熱が高まりすぎたことです。そこには2段階の現象が発生し、ブレーキが効かなくなる恐れがあります。

 クルマのブレーキの仕組みは、基本的には「摩擦ブレーキ」と呼ばれる仕組みで速度を減速するようになっています。ブレーキディスクに取り付けられたブレーキパッドが、ブレーキローターと摩擦することで徐々に回転速度(クルマの速度)を下げる仕組みです。

 この摩擦が熱を発生し、許容範囲を超えた高熱になると不具合が発生します。特殊整備事業者「秀自動車」(栃木県宇都宮市)の整備士 高島氏は次のようにいいます。

「長い下り坂でフットブレーキを多用してしまうのは、初心者や運転に不慣れな人に多いです。

 クルマのブレーキパッドの素材は樹脂やゴムなどですが、長時間フットブレーキを多用していると、摩擦熱で素材が分解されてガスが発生します。そのガスが潤滑剤のようにローターとパッドの間に入り込み摩擦係数が低下してしまいます。

 その結果、ローターに摩擦力が正常にかからなくなり、ブレーキが効かない状態になってしまいます。これがフェード現象と呼ばれています」

 このフェード(=薄れる、しぼむ、次第になくなるという意味)現象が起きても、ブレーキを酷使していると、もうひとつの現象が起きてしまいます。それが「ベーパーロック」現象です。

「ベテランドライバーでも『ペーパーロック』と覚えている人も多いようですが、正しくは「ベーパー(Vaper=水蒸気の意味)」です」

 フェード現象により熱くなったブレーキが、今度はブレーキフルード(ブレーキオイル)に悪さをしはじめるのだそうです。

「高熱によってブレーキフルード内の水分が沸騰し気泡が発生することがあります。この気泡がまるでクッションのようにブレーキペダルを踏んだ圧力を吸収してしまい、正しくブレーキオイルが作動するのを邪魔して著しくブレーキが効かなくなってしまう状態になってしまいます。これがベーパーロック現象と呼ばれるものです。この状態になると、怖いだけでなくいつ事故が起きてもおかしくない危険な状態ということなのです」(高島氏)

 最近のクルマであれば「ABS(アンチ・ロック・ブレーキシステム)を搭載しているケースも多いのですが、ABSは急制動時にハンドル操作による回避を有効にさせるシステムなので、フェード現象やベーパーロック現象には何の効果が期待できません。最新のクルマでも長時間ブレーキを踏みっぱなしだと、フェード現象やベーパーロック現象が起こりうるのです。

■エンジンブレーキの活用が最善の対処法

 長い下り坂を下るとき、教習所では「エンジンブレーキを上手に活用しましょう」と教わったかと思います。

 エンジンブレーキというのは、トランスミッションのギアによるエンジンの抑制を活用したものです。クルマのトランスミッションは、ギアが低いときは「力強く前進するけれど速度が上がらない」状態、ギアを上げるにつれて「力強さは弱まるけれど速度が上がる」ように設定されています。

日産「GT-R 2020年モデル」のパドルシフト

 ギアを任意で低くすれば、そのギアで出せる速度までエンジンが速度を抑制してくれます。下り坂でギアを落とす(低いギアに変速する)ことで速度が上がりすぎるのをエンジンとミッションで抑制し、フットブレーキの使用を減らすというのがもっともブレーキに負担がかからず、必要なときに制動力を確保できる方法といわれています。

 MT車ほどではありませんが、AT車でも1から3レンジ落とせば、エンジンの回転数が上がり、エンジンが速度を抑制している状態を体感できます。

 AT車でエンジンブレーキを効かせるときに使いたいのが、最近のAT車・CVT車に装備されている「MTモード」です。ハンドルの根元にあるパドルシフト、またはシフトレバーのMTモードを利用してギアを任意で数段落とせば、エンジンブレーキを効かせることができます。

 また、万が一、フェード現象やベーパーロック現象が起きてしまった場合はどうすればいいでしょうか。

 これは、緊急回避にもなりますが、強引にギアを落として、エンジンブレーキを最大限活用することで速度を落とすしかありません。このときに、間違ってもハンドブレーキ(パーキングブレーキ)を使用してはいけません。クルマがコントロールを失って、スピンしてしまうこともあり、大変危険です。

※ ※ ※

 最近のクルマは、フェード現象やベーパーロック現象は起きにくくなっていますが、それでも起きる確率はゼロではありません。

 前出の高島氏は、「車検ごとにブレーキフルードのチェックや交換をしてください。また、フェード現象、ベーパーロック現象が発生したあとは、すぐにプロに頼んで交換してください」とアドバイスします。

 ブレーキが効かなくなると、パニックになってしまいます。ギアを落として速度も落とすことを覚えておけば、最悪の事態を回避できるはずです。

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